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あの夏の夜、車内で起こった小さな革命の話 #私のイチオシ

「MOROHAって知ってる?私、あの人たちのライブにも行きたいんだよね」

2019、夏。朝から晩までおどり揺られて楽しんだフェスの帰り道だった。車で友人を送り届ける道中、楽しかったねぇ、またライブ行こうねと話していた流れで、友人が言った。

モロハ?聞き覚えのない名前。知らないと答える。

「ラップの人とギターの人なんだけど、めっちゃいいんだよ」

「へー」

信号待ちでiTunesを起動。検索するとすぐに出てきた。「革命がいいよ」との友人の言葉に、Top Songsに表示されていた『革命』をタップする。buletoothで接続されたカーオーディオから、情緒的なギターの音色がポロポロと流れ始めた。信号が青に変わり、iPhoneを置いてアクセルを踏む。

乾杯!誕生日おめでとう!いや~しかし、あっという間だよなぁ〜

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やたらと抑揚の強い語りが始まる。面食らって思わず「おお」と声が出る私。

「そうそう、最初はなんかね、セリフ入るの」

なにそれおもろいな、と思って聴いていると、歌が始まった。歌?歌…ラップ??というより…さらにセリフ??

ごめんな友よ!俺はもう行くよ!居酒屋だけの意気込みじゃゴミだ!!

甲高い男の歌声…というよりが、がなり声?叫び声にも近い。うわぁ、なんか苦手…暑苦しい…思わず「おお、こんな感じか」とつぶやいてオーディオのボリュームをいくつか下げた。私の車はハンドルにオーディオのボタンが付いていて、ナビを触らなくても親指でピピッと音量調節ができるので便利だ。察した友人がフォローする。

「そう、こんな感じなの。でも歌詞がすごく良くてね、めっちゃ刺さるんだよ。朝から車の中で大音量でこれ聴いて、泣きながら出勤する日とかある」

まじ?なんか熱すぎるし正直もういいけどなー厨二臭いのは勘弁だわ…とも思いつつ、わりと音楽の趣味の合う友人の言うことなので、信じて最後まで聴いてみることにした。

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「『tomorrow』って曲もいいんだよ。PVに東出くんが出てるんだけど、それもいい」

東出くんって、あの俳優の東出くん?そんな有名人もPV出るくらいだから、私が知らないだけでけっこう有名なミュージシャンなのか、MOROHAって。
(※2019年当時、騒動の前です。が、これについても思うことがあるので後述)

友人を送り届け、さて義理は果たした、BGM変えるか…とふたたびiTunesを開いたとき、それまで聞き流していた『革命』の歌詞が耳に飛び込んできた。

今まで恥ずかしかったこと
夢や希望真顔で語ったこと

え?がんばれソング的な感じなのに、それは恥ずかしいのか?と一瞬混乱しているうちに、甲高い男のがなり声はどんどん言葉を紡いでゆく。

今まで恥ずかしかったこと
あいつ寒い痛いと言われたこと

今まで恥ずかしかったこと
身の程を知れって言われたこと

何より恥ずかしかったこと
それを恥ずかしいと思ったこと

あああ!そういうことか。そうきたか。ぐっと、目の奥が熱くなった。思い当たる節がありすぎる。唇をかみしめた。

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ああいうダサい大人にはなりたくないんですよね」と、なんでもストレートに言う会社の後輩の言葉がふと頭によぎる。私は向けられた言葉ではなく、必死で営業する上司の姿を見ての発言だ。なりふり構わず声を掛ける上司は、社内でも白い目で見られがちだった。後輩のトゲのある言葉に対して「まあ、たしかにね」と私も鼻で笑いながら返した。

甲高い声は叫び続ける。

馬鹿にされないぐらい馬鹿になりたいよ
毎日毎晩夢中でやってる
青タンこさえて綴る生活に
誰にも何も言わせやしないと

当時の上司の姿と、今の自分を重ねずにはいられなかった。私にも夢はある。でも、周りに合わせ、流されている。熱い人ってカッコ悪いしダサいやん、さらっと受け流してクールに生きるのがかっこいいでしょ。熱い人たちを横目で見ては、私には無理、と「そっ閉じ」していた。

暇さえあれば種をまいて
暇がなくたって水をやった
マイペースじゃ間に合うはずがねえ
だから癒しやゆとりの逆へ、逆へ

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なりふり構わなかったのは、信念があるからだ。人一倍の熱意があるからだ。本当は分かっていた。でも失敗するのが怖くて、私は挑戦すらしなかった。逃げていただけ。強がりを見透かされ、虚栄心で固めた甲冑を剥がされたような気分になった。

飲み干すビール 時間が過ぎる
この街で迎えた六度目の春
今年こそ?来年こそ?
何年生きれるつもりで生きてきたんだ

ああ、そうだった。私のポリシーは「人はいつ死ぬか分からないから、今を全力で生きる」だったはずだ。若くして突然死した父の記憶がフラッシュバックした。私も、終の住処になるであろう土地に来て、次の春で8年目になる。早い。このままじゃあっというまに過ぎてしまう。

俺は生きているって感じていたい
俺はここにいるってわかって欲しい

車もまばらな深夜の道路、遠く前方にテールライトがにじむ。信号が、街灯が、だんだん大きな玉ボケになる。車内という1人きりの空間で、涙をこらえる理由なんてなかった。

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気が付けば、家に着くまでエンドレス。刺さった、刺さりまくった。熱苦しさの向こう側に足を踏み入れたら、心の奥底にこっそり隠していた痛い部分をわし摑みにされてしまった。ボロボロ泣きながら夜道を駆け、帰宅したその夏の夜、たしかにそこで革命は起こった

それでは聴いてください、MOROHAで『革命』。このままじゃだめだ…という思いを抱えている人は、ハンカチの準備をお忘れなく。


-----------(以下、余談)-----------

前述の『tomorrow』は、夢も愛も失った男の後悔の歌。夢を追いかける自分を応援してくれる「俺より俺を信じてた女」とは5年ほど連れ添うが、成功しない焦りや自信のなさから「お前さぁ本当のこと言ってみ? お前も腹じゃ笑ってんだろう? バカにしてんだろ?…言えよ!言えよぉ!」とぶつけてしまい、破局となる。この曲のPVはドラマ仕立てで、また見事に心を揺さぶってくる。

PVの主演は東出くんだ。曲の後半に、こんな歌詞がある。

溢れたゴミ箱の底の方に 
あなたが涙拭いたティッシュがある
食べてやろうかと思いましたが
その資格がないからやめました

ドラマ仕立てのPVだが、このシーンは東出くんとMOROHAが劇的にリンクする。後悔の念に歪む東出くんのセリフであるような演出だ。その表情が本当に痛切で、胸がぎゅっと締め付けられる。

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例のゴシップが出たあと、もちろんこのシーンを思い出した。どうにもこうにもやるせない気持ちになったのは言うまでもない。深い深いため息しか出ない。馬鹿だなぁ。私は『ごちそうさん』(朝ドラ)が大好きで、杏ちゃんも東出くんも大ファンだった。ひたすら切ない。

どのツラ下げて何処へ向かうの?
結果的には嘘つきじゃねぇの?
それでもそのツラ下げて 歩いて行けよ
最後は嘘になるなよ
ラップ抜きで惚れてくれた彼女よ
どうか俺抜きで幸せになれ

この夏以来、モチベーションが下がったらMOROHAを聴いている。というよりは、モチベーションが上がりかけててもう一息!みたいなときに聞いている。完全に下がっているときは受け付けない。そんな存在である。

MOROHAを教えてくれた友人には、翌日にLINEで語り合った。近くでライブがあるときはぜひ行こう、とは言いつつまだ機会に恵まれていない。今年こそはMOROHAの熱を生身に受けてこようと思う。

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