バルトン先生が書いたステレオスコープについての考察『反射ステレオスコープの利点』[書き起こし] #日本ステレオ伝 013
寫真新報41号 1892年10月 (明治25年10月)より
(*は附記、注記です。)
『ステレオスコープ』 (*これは記事前段の無署名解説記事)
寫真新報 (41)著者佐藤鐵彌 編輯 出版者 佐藤鐵彌 出版年月日 1892–10
https://dl.ndl.go.jp/pid/1508585/1/4
似たような小さな二枚の写真を台紙に貼り、双眼鏡のような装置に置いて前から覗き見る装置をステレオスコープと言います。イギリスでは最近、この種の装置が流行しており、この双影を写すことも次第に流行していると言われています。(*ステレオ写真鑑賞の流行終盤期であり、乾板写真の登場でアマチュアがステレオ写真撮影を楽しむ時代がやってきたといった意味です。)
一見すると、二枚の写真は同じものと誤認するかもしれませんが、実際には全く同じものではなく、似たような映像を二枚同時に二つのレンズを使って写したものです。この種の写真を写すには特別な装置が必要です。この二枚の似た写真を覗くのは、視覚の原理に基づいており、決して偶然ではありません。
実物を見るときにその奥行きを感じるのは、近いところは大きく、遠いところは小さく見えることや、両眼が見る範囲が異なることによります。もし、遠近による大小だけを写して写真を撮ると、写真を見てもその物の奥行きを感じることができます。しかし、普通の写真では両眼の視野が同一なので、奥行きの感覚が薄いのです。試しに一つの物を取り、両眼を2、3尺(約60〜90センチ)離して見てみると、右眼では物の右側が多く見え、左眼では左側が多く見えることが分かります。このように、両眼が異なる範囲を見ることで自然に物の奥行きを知覚するのです。片眼で物を見るときは、その奥行きを認識しにくいのです。
ですから、写真を使って実物に迫るような視覚効果を得るためには特別な装置が必要です。ステレオスコープはこの目的のために作られました。ステレオスコープの台紙に置く二枚の写真は、一方は右眼で見る範囲を写し、もう一方は左眼で見る範囲を写したもので、二枚揃えることで実物を見るのと変わらないように仕組まれています。
ステレオスコープ用の写真を撮るには、二つのレンズを備えた特別なカメラを使用します。イギリスではこの種の特別なカメラが一般のカメラと共に市場にあり、素人でも試してみる人が多いです。しかし、日本ではまだこの装置を持っている素人は見かけません。
今度、陸軍が東北で特別大演習を行う際、写真を撮る写真師も少なくないでしょう。この種の写真をステレオスコープ用にしておけば、後日双眼鏡で見るときに普通の写真に比べて多くの利点があります。
『反射ステレオスコープの利点』
バートン
寫真新報 (41)著者佐藤鐵彌 編輯 出版者 佐藤鐵彌 出版年月日 1892–10
https://dl.ndl.go.jp/pid/1508585/1/5
最近、写生派の写真家たちは、ステレオスコープが真実を表現しないと主張し、この機械に対して大きな批判をしています。彼らの意見によれば、焦点を絞らずに写真の一部をぼんやりさせることで、実物を見たときの感覚を引き起こすことができると言います。つまり、美術的な観点からすると、ステレオスコープは決して評価すべきものではないとしています。
私はここで、この写生派の写真家たちの主張が正しいかどうかを論じるのではなく、いわゆる両眼視覚がステレオスコープを使わなければ得られない理由を説明します。
ステレオスコープには二種類あり、一つはレンズを用いるもので、その装置は携帯に便利ですが、反射ステレオスコープには大いに劣ります。この反射ステレオスコープの利点について述べるのは、私が初めてではなく、すでに7、8年前にドイツの写真新聞でその利点が論じられており、その論説は世間の注目を集めました。
*反射ステレオスコープは1833年ホイートストンが発表したミラー式立体視装置、元祖ステレオスコープのことです。その後、1849年にレンズを使用したブリュースターのステレオスコープが発表されて1850年代初頭より商業化され、1861年にはもっと簡易で軽量なホームズ-ベイツ式ステレオスコープの発売によって普及期に入りました。
レンズ式ステレオスコープには2つの欠点があります。1つ目は、絵が小さいために拡大レンズを使わなければならないことです。拡大レンズを使って小さな絵を実物のように見せようとするため、目に適した感覚を得ることができません。特に写真の紙の表面も自然に拡大されるため、両眼視覚を得ることはできますが、実物の形は模型に似ており、本来の目的である実物を再び目の前に現すという点では、適切な方法とは言えません。
さらにもう一つの欠点は、レンズ製のものでは絵を見る角度が一定で、どのような絵を見ても角度が変わらないことです。その結果、絵を正しく表示することができません。この欠点は前述の欠点と比べてもさらに大きな問題です。
反射鏡を使うタイプには、この二つの欠点はありません。しかし、その形が大きいため、携帯には適していません。携帯用に作られていないものは、写真の大きさに制限がありません。大きなステレオスコープの写真を撮るのが難しいという人もいるかもしれませんが、被写体が二回の露光の間に形が変わらないのであれば、大きなカメラを使って二枚の写真を撮るのは難しくありません。カメラは二寸半から三寸離して、同じ方向を指して実景を写すべきです。もし動く被写体のように二回同じ写真を撮ることができない場合には、普通のステレオカメラを使い、拡大写真を作ってそれを使うことも不便ではありません。反射ステレオスコープの構造は知らない人が多いので、その概要を以下に図解します。
第一図はその構造を示しています。「イ、ロ」を目とすると、「ヘ、ト」「チ、リ」は二つの写真がある位置です。この二つの写真は「ハ、ニ」「ホ、ニ」の二枚の鏡に映り、鏡から反射した光線が目に入って画像を映し出します。また、この二枚の鏡には動かせる装置が付いており、自由にその位置を調整することで、反射から生じる二つの画像を一つの場所に合わせることができます。
第二図は反射ステレオスコープの全体の形を示しており、その符号は第一図の説明と同じです。反射式のものはレンズを取り付ける必要がありません。また、これを見るための目を据える場所の距離は、レンズ式のもののように一定ではありません。
(以下次号)
『反射ステレオスコープ (続)』
ハルトン(バルトン)
寫真新報 (42) 著者 佐藤鐵彌 編輯 出版者 佐藤鐵彌 出版年月日 1892–11
https://dl.ndl.go.jp/pid/1508586/1/6
反射ステレオスコープを作る際に、もし反射鏡と見る人の間に一枚の仕切りを立て、この仕切りに二つの穴を開け、その穴に焦点の長いレンズを挿入し、見る人がこのレンズを通してステレオスコープの画像を覗く装置を備えつけると、最も美しい視覚効果を呈します。焦点の長いレンズは画像をあまり大きくしないため、模型のような感覚を起こすことがありません。
第二図で示すように、反射鏡と写真の間の距離は自由に調整できます。そして、仕切りを前に立てる場合、この仕切りと写真の間の距離、つまり仕切りから反射鏡までの距離と反射鏡から写真までの距離は、最も長くした場合に写真レンズの最も長い焦点と同じか、もしくはそれ以上が良いです。また、拡大写真を使用する場合には、レンズの焦点の長さに倍の数を掛けた長さに等しい距離を取るべきです。
写真と反射鏡の間の距離は自由に調整できるため、視角も適切になります。第二の不都合はこの反射ステレオスコープでは生じません。仕切りに挿すレンズの焦点は、見る人と写真の間の距離の二倍が良いです。近視や遠視の人は、通常使用するメガネを装着して覗くのが良いでしょう。
反射ステレオスコープを作り、相応に大きな写真を撮ってこれを覗くと、その自然な姿を現出するのが見えます。したがって、この装置が多少大きくなるにもかかわらず、一度この機械を使用すると、その有用性を大いに感じるでしょう。私は以前、この機械を仮設し、反射鏡には普通のガラス鏡を使ったため、二重の反射があるにもかかわらず、非常に良い結果を得ました。もし反射鏡を特別に製作し、ガラスの表面に銀を塗ったものを使うか、あるいは日本風の唐金製の鏡を使うと、非常に満足のいく結果を得ることができるでしょう。
*この掲載された雑誌は『寫眞新報』という、日本寫眞會が定期刊行していた雑誌です。日本寫眞會は1889年に発足した日本最初期のアマチュア写真クラブで、ウィリアム・K・バートンはこの会の中心人物でした。
・ウィリアム・K・バートン — Wikipedia https://bit.ly/4dA0B5i
・日本寫眞會 — Wikipedia https://bit.ly/3YUKDOr
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