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肩から毛が生えたら一人前、指が飛んだら半人前

「材木屋はな、肩から毛が生えたら一人前なんじゃ」

大学生の頃、調査研究およびフィールドワークと称し、製材業者や材木屋さんを回っては話を伺っていたときのことです。

お昼休憩中、甘ったるそうな缶コーヒーを片手にタバコをふかしながらオッチャンは話を続けます。


「そりゃ昔はな、材木屋で働いとるモンはみーんな肩から毛が生えとった。今じゃアホみたいな話じゃけど、毛が生えんうちは一人前とは言ってもらえんかった」

オッチャンは中学を卒業してから材木屋一筋、その道50年のベテランです。

今から40〜50年前、まだオッチャンが材木屋の新人クンだった頃、先輩の肩からはもれなく毛が生えていたと言います。1970年代、材木屋が高額納税者ランキングに名を連ねていたような時代です。


毎日毎日、重い材木を肩に担いでいると、いつしか毛が生えるようになるのだそう。

今でこそ当たり前のようにフォークリフトを使って木材を運ぶものの、当時は肩に担いで運ぶのが常だったと言います。

こりゃあ肩に毛でも生やさんといかんわ!と脳から発毛司令が出るようになるのでしょうか。人類は偉大です。


「それにな、右と左の肩でな、大きさがこーーんなに違うんじゃ」

オッチャンの「こーーんなに」は、さっきまでオッチャンが製材機で挽いていた丸太の直径くらいの大きさもあります。

「そんなに違ったら仕事にならないじゃないスか」
「ホントじゃ、ワシもすごかったんで」

と本気なのか冗談なのかはまるで分かりません。

けれど、小柄な体格にはずっしりと筋肉がのっていて、わずかに右肩の方が大きいように見えんこともありません。


オッチャンは変わったタバコの吸い方をします。

右手の薬指と小指にタバコを器用に挟み込んで吸います。


肩に毛が生えるのは一人前の証だけれど、指を飛ばしてしまうのは半人前の烙印だと言います。オッチャンがまだ半人前の頃、人差し指と中指は飛んでしまいました。

さすがに毛と違って指は生えてこんもんじゃなとオッチャンは笑います。


「肩じゃのうて頭で材木を担いどったら、こんな頭にはならんかったんじゃけどな」

ガハハと笑いながらペンペンと叩いたオッチャンの頭は、高く登ったお日様を映していました。

カンナで仕上げたみたいにきれいな頭ですね、と材木屋的ツッコミを入れる勇気は当時のぼくにはまるでなかったのでした。

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