言の葉拾い

コインランドリー、木製のベンチに腰掛け本を開く。
デジタル表示は「60」。つまり、あと1時間は洗濯物を持ち帰ることはできない。
散歩に行ったって、いったん家に戻ったっていい。

それでも本を開いたのは、言葉を欲していたから。
自分の背丈ほどの真っ赤なカラダに大きな一つ眼を持つ業務用洗濯乾燥機に全てを任せて、こちらは言の葉を拾い集める。

頭の中に浮かぶ言葉は、これまで拾い集めてきた誰かの言葉を咀嚼して自分の血肉にした上で、経験あるいは想像、感情と結びつけた果てに出来上がる。

木製のベンチは正直いうと座り心地は良くないし、もたれ掛かると背中に数本の痛みが走る。
ただし、肘掛の高さと幅はとても好みだ。
この全体バランスなら我慢はできる。

読み始めた本は会話形式で物語が進んでいくらしく、テンポのよさ、書き言葉の中で綴られる話し言葉というのが今は気持ちいい。

頭の中でキャラクターがどんな声でどんな話し方で台詞を吐くのか想像する。
五十代後半、女性、経営者、少しふくよかな体型。
台詞の内容は余裕を感じさせつつも、主義主張はしっかりとしている。他のキャラクターが質問をしたくなるように、少し勿体つけた言い回し。
彼女はどのような声色で、リズムで、スピードで話すのか。
他のキャラクターはどうか。
そんなことを考えながら、言葉を拾い、頭の中に放り込んでいく。
いつか、自分のフィルターを通して、誰かのための言葉を作り上げるための礎になるように願いを込めて。

会話形式の場合は一人一人の背景や趣向が反映されやすいので、微妙な言葉の変化をつぶさに観察しながら読むと面白いし、遊びながら勉強をしている感覚を覚える。

デジタル表示は「24」。
いつの間にか外から射し込む光も弱まってきて、さっきまであった人影もなくなっていた。

ゴーゴーという音が響く中、再びページを開いて言の葉を拾う。

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