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嵩高紙で小説本を作りたくて本と活字館に行ったら色々繋がった話

小説同人誌の話題、二次創作BL同人誌を作った過去記事の引用が出てきます。ご了承の上お読み下さい。

こんにちは、くらはしと申します。
先日、一年がかりで作った全面箔押し同人誌の初頒布が無事に終わりました。
友人に箔押しのことを熱く語っていたところ、紙にもこだわりがあるんだから記事にしたら?と言われたので、素直にタイトルの通りの話を書こうと思います。展覧会はすでに会期が終了しています、すみません…。


◾️A5・嵩高紙・小説本の三拍子の同人誌を作りたい

小説同人誌の装丁についての記事を拝読させていただくのが好きです。その際、商業文庫っぽさ(四六判や新書の方も)を目指すか否かで装丁の方向性が変わってくるんだなと感じています。

私は同人誌っぽい見た目が良いため、判型はA5・カバーなし・表紙や遊び紙に特殊紙を使ったらそれっぽいんじゃないか…と考えています。ここまではかなりの印刷所で取り扱いがあります。

残すは本文用紙なんですが、色んな本を触りまくり、私の紙の好みが光沢紙のツルっとしたものよりも、ふかふかで柔らかい嵩高紙が良いということが分かりました。書店の平積みになっている本のあの紙の感じです。

ここで淡クリームキンマリは嵩高紙じゃないから…と候補に外すとあっという間に選択肢が狭まっていきます。

淡クリームキンマリは小説本文用紙界のショートケーキ。あまりに分厚い本でなければ絶対間違いない。チョコレートケーキやモンブランや苺タルトが好きだっていいけど、ケーキ屋さんでどれか一つと言われたら絶対選ばれる感じ。

そこでなるべく色んなケーキ(本文用紙)の取り扱いが多いお店(印刷所)はどこなんだ〜〜!?と探すことになりました。

まずは私の好きな「書店の平積み単行本で使われているあのふかふかの本文用紙」の情報を集めないといけない。「同人誌の本文用紙について」の素晴らしいまとめ記事を引用させていただきます。

紙見本と睨めっこしながら、短冊サイズだと分かりにくいな…でも奥付に本文用紙まで書いてくださっている方は中々いなくて比較ができない…!でもコミック紙ならいけるのでは?というぼんやりした想像が裏打ちされて、2024年に発行した本で次の用紙を使ってみました。

・コミック紙クリーム×2
・メヌエットライトC
・美弾紙ノヴェルズ
・ソリストSP(下の記事の本に使いました)

ふかふか具合やクリーム色の濃さなど個性がありますが、やっぱり嵩高紙が好きだなと再認識しました。

ソリストについては実際に「ソリストN」が使用されている本を手に取り、最高のふかふか柔らか具合にこれだ…!と確信したものの、「ほんのりピンク色」という噂のソリストSPの見本が手元にない中の発注でした。

そんな中、たまたま平日に休みが取れて、あそこにはあるかもしれない!と思い立って向かったのが市ヶ谷にある「市ヶ谷の杜 本と活字館」で開催していた「ようこそ魅惑の書籍用紙の世界」展です。

本と活字館の外観。快晴
展覧会告知ポスター

チケットを購入した際、たまたま二時間半後のワークショップの空きがあったためせっかくだし…と申し込んでみました。コンパクトな館内ですが、ぱっと展示物を見てこれはいけるな…!と確信を持ったからです。(申し出れば外出もできる)

◾️紙が干してある!

建物二階の展示スペースに入って目に飛び込んでくるのは、全紙が吊るされた状態の書籍用紙たちです。天井が黒くてコントラストが美しく、また置いてある紙見本は全部持ち帰ることができるという太っ腹具合に感謝しながら一枚二枚と手に取っていきました。

指サックを持ってくれば良かったかな、と思っていたらそこは書籍用紙。さすがに最後の方は指先がカサカサしましたが、きちんとめくることができました。テーブル代わりに使われていたおそらく輸送用の木のなにかの詳細は分からず。

展示の様子
色味が分かってありがたい
埼玉だね

四六判、菊判、Y目とT目など、言葉で知っているけど実物を見たことがなかったり、あらためて解説を読みふむふむと納得したり、紙について少し詳しくなった気がしたな…と満足していたら、欲しかった展示がありました。

サンプルで持ち帰れる紙を使って同じページ数で作った束見本の本棚です。

確か文庫サイズ/264ページ
紙によって色味が全然違う

無事にお目当ての「ソリストSP」のサンプルと、束見本で、「写真ですぐ分かるかと言われると難しい淡さだけど、クリーム色の中のほんのりピンク」を感じることができました。紙によって手にした時の重みも違う。書籍用紙の奥深さを感じることができました。

いただいた紙見本は隣のコーナーにある製本機にかけられて、天のり製本(ぺりぺりめくれるメモ帳のあれ)の見本帳に変身。

やっぱり色味の違いが面白い

予約不要の活版印刷のミニワークショップでしおりに印刷体験もしました。
「テキン」と呼ばれる手押しの活版印刷機でインクを付けたローラーで版に色付けし、紙にぐっと押し付けたら完成。写真を撮り損ねました。「乾くまで三日かかります。これは気温や湿度にも左右されます」と案内され、昔の印刷物の手間暇の一端を感じました。混雑していたので写真は撮らずにしおりだけ手元にあります。

◾️常設展も面白い

※細かいものの集合体が苦手な方は避けた方が良いの写真があります。

一階の常設展は、「活字」と「製本」にスポットを当てた展示です。実物と共に、ただ文字を読むだけではなく映像や体験型のコーナーもあり、なにしろ活字が本当に細かくてじっくり眺めていると、いつの間にか時間が過ぎていきました。

引き出しの再現
活字の元を彫る機械
「万年」と名前の付くレトロ感
こういうの大好き
仕事場の再現
見覚えのある活字

活字を作り終えたら終わりではなく、それを手作業で本の一ページの形に空白も込みで組み上げていき…という気の遠くなるような作業。しかも記号や空白、改行のルールは出版社ごとに異なるためそれも含めて調整が必要だそうです。

組版の姿。タコ糸でまとめている

製本の紹介では実際に頼まれた本の装丁を考えるミニゲームがあり、最後までぎゅぎゅっと情報が詰め込まれていました。

こういうの大好き、その2
本になる一歩手前の本
製本道具。洗う係とかいたんだろうな

◾️ワークショップに参加

めいっぱい常設展を楽しんだところでワークショップの時間になりました。私が参加したのは「シルクスクリーンでサコッシュを作ろう」です。

名前は知っているしやり方も知っているけどやったことがない体験だったので、実際に目の前に広げられた道具を見て「美術の資料集で見たやつだ…」となりました。

昔、プリントゴッコがあったけどあれもシルクスクリーンの原理を使ったナンタラカンタラ…と書いてあったような…と思いながら説明を聞き、インクを塗り広げるコツを練習してから本番。

版の置き場所を決める→サコッシュを固定→インクを乗せる→ドライヤーで乾かす→スタッフさんがプレス機で仕上げ乾燥→完成!の流れ

筆圧が弱く、こういうの掠れるんだよな…と力一杯作業したら良い感じに展覧会のオリジナルキャラの妖精さん、クォート(羽が本のページの折りになっている)入りサコッシュの完成です。

完成後のサコッシュ

◾️箔押し機を見つける

ワークショップ中、乾燥をお願いする際に他の製本印刷に係る道具が置いてあるコーナーにも少しだけ立ち入ることができました。

私は本文用紙は嵩高紙、装丁は他の追随を許さないぶっちぎり一位で箔押しが大好きなんですが、めざとく見つけてしまいました。

箔押しだ〜〜〜〜!

手動箔押し機だ!
箔の抜け殻もある
村田金箔さんの箔ロール

すぐさまスタッフさんに箔押しワークショップがあるのかと確認すると、イベントのために用意されたもので、常設ではやっていないとのこと。

よく「ドットゴールド」という名前になっているホロ金

思いもよらず推し加工の道具も見ることができて大満足で館内を後にしました。本と活字館では様々なワークショップが開催されていて、人気のものはweb予約で満席になるとのことでした。今後訪問予定のある方は事前に公式HPを確認してみるといいと思います。

作ってきたものたち

◾️思いがけず復習になった「デザインのひきだし54」

さて、本と活字館訪問後、一冊の本を手に入れました。それが「デザインのひきだし54」テーマは「今までの製本と、これからの製本と。」

上製本の作り方、本物を見てきた!!!!

ということで、表紙デザインの製本にまつわるモチーフにもとても見覚えがあり、中身もさまざまな製本を知ることができてとても楽しかったです。攻め箔表紙もとってもすごいし、がっつりエンボスもかっこいい。

箔押しを手がけたコスモテックさん的には載せられると困るかもしれませんが、少々抜きがうまくいっていない部分もあり、全部手作業なんだもんな…と現場でのご苦労がしのばれます。

攻め箔の模様を触りながら、工場に行った時の「ごとん、ととととと…ごとん」という箔押しの一連のリズムを思い出していました。

箔が表紙のキワキワまでキラキラ!
がっつりエンボス!
本当は文字がヌキでバルキーボールの色が見える

またコスモテックさんに箔押し立ち会いしに行きたいな〜〜〜〜〜!!!!という気持ちが特盛りになってしまいました。いつになるか分かりませんが、いつかまた…!というやる気は十分です。

一つの展覧会をきっかけに、後日こうして思いがけず繋がりが生まれて知識が広がっていくのがとても好きです。ここまで超高速なのは珍しいですが、また面白そうな企画展があれば本と活字館に再訪したいです。

お読みいただきありがとうございました。

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