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【PR】『追想ジャーニー リエナクト』が“好き“まみれの良作映画だった

10月18日公開の映画『追想ジャーニー リエナクト』を観させていただきました。

© 2024 映画『追想ジャーニー』公式

ポ、ポスターがおしゃれだ……!

普段の私は漫画やアニメが主食で邦画は月に1本か2本たしなむ程度の栄養の偏ったオタクです。

なので本作は完全にノーマークな作品だったのですけど、上映時間66分の旅を終えた今こう思います。出会えてよかった。大好物がいっぱい出てきました。

今回は『追想ジャーニー リエナクト』の「私はここがすき!!!」を少量のネタバレありで語っていきます。


未来は変わらないのに変えようとする男、横田

この映画のストーリーをざっくり要約すると「売れない脚本家おじさんが過去にタイムスリップして、若かりし脚本家お兄さんである過去の自分と共に人生を再体験する」話です。いわば…追想のjourney(旅)か。

2024年から来た横田雄二(左)と1994年の横田雄二(右)
© 2024 映画『追想ジャーニー』公式

主人公の名前は横田雄二。ややこしいのでこの記事ではタイムスリップした渡辺いっけいの方を今横田、過去の自分を自称する謎のおっさんに振り回される松田凌の方を昔横田と呼びます。

今横田は昔横田に脚本家として成功してほしいので、未来の情報をガンガン与えて良い方向に導こうとします。個人的にお気に入りなのが今横田と昔横田の掛け合いで、人生を決めるすごくシリアスな話し合いをしてるはずなのに、まるで漫才のようなテンポで進んでいくんです。


今横田「お前が30年後に書く脚本こんなんだぞ」

昔横田「へーどれどれ……おもんな!!!!!!!!!」


って感じで、今横田が未来の重大ニュースをぶちまけて昔横田がリアクションする流れが心地いい。未来のネタバレを活かして人生が好転していく昔横田を後方自分面でニマニマ見守る今横田にニマニマできる。おじさんと若い兄ちゃんが同じ部活のダチ公みたいにわちゃわちゃやってる自分同士年の差バディ成分がたっぷり摂れます。

この2人の寸劇あと20時間見たい。

© 2024 映画『追想ジャーニー』公式

「つまり昔の自分にアドバイスして未来を変えようとする話?」

私もあらすじではそう予想したんですけど、観ていくと少し違いました。

物語の冒頭で今横田がタイムスリップする原理は退行睡眠だと語られます。このお話はタイムマシンによる過去改変ではなく、横田が見ている夢のようなものです。

仮に昔横田が成功したとしても、今横田が帰る未来は変わらない。彼にとっての報酬は、かつて自分が進まなかった道を進む自分を覗き見るだけ。幻でしかありません。

それでも今横田は一生懸命になって昔横田にあれこれアドバイスするのです。ささやかな報酬だけを胸に突き進む壮年のおじさんキャラ私だいすき!!!

でも、自分の“もしも”を知りたい感情って案外普遍的なものかもしれませんね。

クリエイター、人でなしたれ

今横田の介入によって麻美(新谷ゆづみ)という彼女ができた昔横田は、冴えない脚本家おじさんと化す人生から少しずつ逸脱していきます。

突然ですが私、クリエイターは人としておかしくあってほしいんですよ。もちろんフィクション限定の話として。

『ガラスの仮面』の北島マヤや月影先生とか『ジョジョ』の岸部露伴とか、表現したいもののために人が当たり前に持ってるブレーキを取っ払えてしまう、才能と人間性のトレードオフに魅了されます。

そういう「クリエイター人としておかしくあれ欲」を横田雄二は存分に満たしてくれました。

© 2024 映画『追想ジャーニー』公式

麻美と結ばれて子どもにも恵まれ、人として当たり前の幸せを得た昔横田。生まれたばかりの我が子をこんな感じであやした直後、こんなことを言います。


「幸せすぎて書けない!」

「脚本家は幸せになっちゃいけないんだよ!」


パパの顔で赤ちゃんとキャッキャした男の発言か?

すごいセリフだと思いませんかこれ? 創作者は不幸だからこそ不平不満を作品に昇華できる、だから幸せになってはいけない、とは確かによく聞く話ですけど。

「書けないけど幸せだからいいや」じゃなくて幸せになっちゃだめだ」って。ここで満足して筆を置くのではなく、筆が走らない苦悩に頭を抱える男なんですよ横田という男は。

このシーンで、横田雄二は人間である前に脚本家なのだと思いました。だから今そこにある幸せに文句をつけ、書けない不幸を嘆くのです。

ちなみに今横田は「脚本家なんてやめちゃえ」とはまったく言いません。そもそも昔横田に「子どもいないと親のセリフ書けないだろ!?」と脚本のために結婚を促したのが今横田です。家庭をなんだと思っているんだこの横田たち。

「幸せになっちゃだめなんだよ」はまだマイルドな方で、物語が終盤に向かうにつれて彼の本性はより強烈に発露し、ある悲劇を招きます。人間としての情緒はちゃんと持っているのに、ものづくりに生きる種族としての業を背負った生きづらさをまざまざと見せつけてくるのです。

クリエイターにとっての幸福とは? あるいは不幸ってなんだ?

そんな問いを抱かずにいられませんでした。人様の作品をもとに感想文を書くだけの私でもそう思うのですから、一から作品を創りあげている方が横田雄二に何を思うのか、気になるところです。

クリエイターの苦悩を描く映画ですと、最近は『ルックバック』がありましたね。個人的にはアレとも異なる葛藤が描かれていたと感じます。クリエイター属性が好きならどっちもおすすめです。普通に生きられない創作者がもがき苦しみながら自分の世界を形にしようとあがくフィクションなんてナンボ観てもいいですからね。

男3人揃えばクソデカ感情バミューダトライアングル

昔横田(左)、峯井(中央)、中村(右)
© 2024 映画『追想ジャーニー』公式

場末の居酒屋で焼酎ボトル飲んでいい顔の良さじゃない。

本作は今横田と昔横田の会話を中心に進むのですが、そのなかで存在感を発揮するのが、昔横田の劇団の後輩、峯井(樋口幸平)中村(福松凛)です。2人は30年前の時空で俳優として昔横田の脚本を演じる立ち位置となります。

峯井の樋口さんは『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の桃井タロウだったり、なんなら昔横田の松田さんは『仮面ライダー鎧武』の城之内秀保だったり、特撮好きも注目の配役でもありますね。

忘れていた友との約束を果たすための旅へ―――

『追想ジャーニー リエナクト』キャッチコピーより

横田、峯井、中村の3人のイケメンにまつわる一つの“約束”が物語に大きく関わるのですが、とにかく男男男激重三角関係友情が濃い。今昔横田劇場に和んでたら急に関係性のダンプカーが突っ込んできた感じです。

昔横田の才能を頑なに信じて「自分が売れて必ず横田の作品を世間に広める」と誓う峯井。

峯井を慕っている反面、昔横田のだらしなさにいつも呆れている中村。

そして峯井にも中村にも世話になっていると思いながらも、1番は自分の脚本であり続ける昔横田。

そんな3人が互いの気持ちを汲みとったり汲みとれてなかったり大いにすれ違ったり実は誰よりもすれ違ってなかったり、顔のいい男共が友情と人生の狭間で右往左往しまくります。

人生を良くするために交わした約束に人生そのものを縛られるフィクションのイケメンは全人類好きですからね。

とくに印象的なのが3人が居酒屋で飲み明かすシーンで、昔横田と峯井が語りあかす横でもそもそフライドポテト食ってる中村の構図が残酷極まりない。

峯井は昔横田に崇拝に近い感情を抱いていて、昔横田もそんな峯井を憎からず思っています。一方、中村は峯井とは親しいけど昔横田に思うところがあるためか、2人の輪にうまく馴染めません。

そんな中村の内心にまったく気づかず「俺“たち”が売れて雄二さんの作品を観る人を集めます!」と語る峯井の無垢な残酷さ! まったく目が笑っていない中村! そして何も知らない昔横田。そういうとこだぞ。

こんな感じですれ違い続ける3人の行く末も見どころでした。本作を鑑賞する際は3人の内誰かを軽く推しておくと、より感情移入できて楽しめるかもしれません。推した奴がどうなっても責任持てませんけど。

最後に

© 2024 映画『追想ジャーニー』公式

面白かったです。『追想ジャーニー リエナクト』。

自分同士歳の差バディ、クリエイターの苦悩、友情に人生を振り回されるイケメンたち……おしゃれなポスターからは想像もできない感情の交錯とその終着、存分に楽しませていただきました。

今回は、あえてクライマックスに関わるネタバレは避けて語ってきました。月並みな言葉ではありますが、2人の横田の旅がどこに行き着くのかは劇場で、自身の目でご覧になってください。

あなたが66分の旅に出かけてくれることを心より願っています。

そして昔横田、峯井、中村が乾杯する際に中村が自分のグラスを峯井のグラスにしか当てない細かすぎる演出をぜひ劇場のスクリーンで目撃してください。この映画すげぇなってなるから。なった。

上映情報
『追想ジャーニー リエナクト』
劇場公開日:10/18(金)
上映劇場:渋谷HUMAXシネマ、池袋シネマ・ロサほか全国の劇場にて
監督:谷健二
脚本:私オム
主題歌「表紙絵-samune-」岸洋佑
製作:映画『追想ジャーニー リエナクト』制作委員会
配給:S・D・P


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