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入船山記念館で近代建築めぐり
久しぶりに近代建築巡りの記事です。
11月に「ひろしまたてものがたりフェスタ2022」という広島の魅力的な建築を実際に訪れて見て・触れて・知るというイベントがあり、呉市の入船山記念館ガイドツアーに参加してきた。
入船山記念館とは明治期に旧海軍官舎として建設された洋館と和館が接合された珍しい近代建築だ。
私は明治初期から第二次世界大戦の終わりまでの期間に建てられた近代建築が好きだ。外国人建築士を呼んで西洋風を取り入れた建築様式や現代では再現できない精巧な日本の職人技が合わさっている様がとても芸術的でものすごく心惹かれてしまうのだ。
入船山記念館はまさにその近代建築で、このたびガイドツアーに参加できて本当によかったと思っている。
入船山記念館を訪れると、まず洋館の姿が見える。設計者の櫻井小太郎はイギリスに留学して建築を学んだため、この洋館はイギリス風のハーフティンバー様式と呼ばれる外観となっている。
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正面玄関は海軍の建物らしく旧日本海軍の象徴である桜とイカリが描かれている。周囲にはステンドグラスで装飾され、玄関のドアだけでも見どころが多い。
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建物内部へは洋館をぐるっと回って奥の和館の炊事場横の入口から入る。
往時、洋館部分は海軍の呉鎮守府の施設として使用され、和館部分は呉鎮守府司令長官とその家族の住居として使用されていたそうだ。要するに洋館は公的な場で和館は私的な場として使用されていたのだ。
まず和館内部から見学。
入ってすぐの柱をよく見ると、上の方に継ぎ目が見えた。これはこの建物の前身の建物が明治時代に地震で被災した際に、被災した古い建物の使用できる部分を再利用したための継ぎ目だとガイドの方が教えてくれた。
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釘を使わず、木を削って複雑な繋ぎ目を作ることで木を繋ぎ合わせるその工法は日本の職人の技術力の高さを証明している。そしてその考え方が日本の「もったいない」精神そのもののようで、この建物のことがより一層好きになった。
一見目立たないこの柱はガイドの方の説明がなければ見落としていただろう。こういった説明が聞けるのもガイドツアーならではの魅力だ。
縁側を歩きながら、たくさんある和室を見学する。部屋ごとに異なる欄間の細工が見事で、ここにも職人技が光る。
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古い日本家屋ならではの揺らぎが残るガラス窓も趣き深い。
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ちょうど紅葉も見頃で、縁側と紅葉のいい感じの写真が撮れた。
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そして廊下を渉って洋館へ。
この洋館は細部へのこだわりが凄い。特筆すべきは各部屋ごとに異なる壁紙だ。この壁紙は「金唐紙」と呼ばれる金色の模様が入った紙で、この金唐紙が素晴らしくて私はすっかり魅了されて帰り際にグッズ販売所で金唐紙のしおりを購入したほどだ。
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ウィリアム・モリスの壁紙を思わせるそのデザインはこの建物に5種類あり、どのデザインも緻密でとても美しい。
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デザイン違いのもの
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金唐紙の壁紙は引きで撮っても存在感がある。内装はジョージアン様式。往時に使われていた家具はほとんど残っていないけれど、唯一残っていた籐張りの肘掛け椅子はイギリスのメイプル社製のものだったらしい。
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金唐紙の壁紙も素晴らしいが、入船山記念館は床も素敵だ。
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客間の床は客間らしく華やかな模様の絨毯敷きで、食堂の床は市松模様の寄木張りで壁際は黒柿材を使用してデザイン違いにしている所が粋だなと思う。
入船山記念館は見れば見るほど建築として、そして文化的にも貴重で魅力的な場所だった。説明していただいたガイドの方の解説がとても詳細で興味深く、そのおかげで何倍も見学が楽しめた。
濃密なガイドツアーの時間はあっという間で、本当はもっともっとじっくり見てみたかったのが本音だ。今回の解説を思い出しながら、ぜひもう一度訪れたいと思う。
余談だが、入船山記念館のすぐ近くに呉市立美術館がある。この美術館の前の通りは「美術館通り」と呼ばれる美しい通りだ。その美しさは日本の道100選に選ばれたほど。並木道のあちこちに彫刻が設置されていて、歩いているだけで芸術鑑賞ができる。
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今度は呉市立美術館もあわせて訪れようと思う。
◆ ◇ ◆
入船山記念館
広島県呉市幸町4-6
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