福山乙女旅【福寿会館編】
広島県福山市で美術館と建築と純喫茶を巡る旅の第三話。第一話と第二話はこちらから読めます。
◇第一話 ふくやま美術館偏
◇第二話 しぶや美術館編
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次の目的地は福寿会館。
福寿会館は海産物商で財を成した安部和助の別邸として昭和初期に建てられた和館と洋館からなる和洋折衷建築の建物で国の登録有形文化財に指定されている。
私は明治から昭和初期にかけての洋館や和洋折衷建築がたまらなく好きだ。ノスタルジックで芸術的なそれらの建物は乙女心と建築好きの両方を刺激する。なんと言うか、とにかくロマンがあるのだ。
勝手な思い込みだが日本にある洋館は山手や丘の上に建っているものが多い印象がある。長崎のグラバー邸も神戸の異人館も函館山の旧函館区公会堂もどれも揃って坂の上だ。フィクションにはなるが、ジブリ作品「耳をすませば」に出てくる洋館風のアンティークショップ「地球屋」も丘の上にあった。
福寿会館も例にもれず、やや急な坂道を登った所に建てられている。曇り空でそれほど暑い日ではなかったにもかかわらず、坂を登り切るとうっすらと汗が滲んだ。登りきったところが福寿会館の表玄関で、切妻屋根が特徴的な洋館と神社仏閣のような佇まいの本館がすぐ目に入った。
洋館と本館どちらから入ったものかと迷ったが本館は管理事務所に許可を得てから入館しなければならず、ちょうどその時管理人の方が外出中という札が出ていたため、洋館から入ることにした。
洋館の1階はメゾンアンベという喫茶店になっている。メゾンアンベという店名は元々の所有者だった安部和助にちなんだ名前だ。
入ってすぐの廊下に面して応接室のような豪華な雰囲気の部屋があり、ここはメゾンアンベの予約席。以前は迎賓館として使用されていただけあって、とても優雅な部屋だった。天井の装飾と照明が素敵で、所有者だった安部和助のこだわりとセンスの良さを感じた。
予約席ではなくても、メゾンアンベは乙女心をくすぐるとても素敵な空間だった。
こちらの部屋もアールデコ調の照明が凝っていて素敵だった。白い窓枠に豪華なタッセルの付いたカーテン、そしてそこから見えるのは新緑の日本庭園。
まるでお屋敷に住む深窓のお嬢様にでもなったかのような気分を味わいながらコーヒーを堪能する。ちなみにメゾンアンベはケーキやパフェなどのスイーツメニューも置いてある。私は先ほどふくやま美術館のミュージアムカフェでアフタヌーンティーセットを食べたばかりだったのでコーヒーのみをいただいた。
コーヒーを堪能した後は日本庭園を散策した。この日本庭園も素晴らしくて、10年もの歳月を費やして造られたというのも納得できる凝った造りの庭園だった。池には石の橋がかかっていたり、緑の中に東屋があったりと見どころが多い。特に東屋が小さな茶室のようで趣があり、ここでも安部和助の風流を好む人柄が垣間見えた。また東屋とは別に茶室も2つある。
庭をぐるりと回って洋館の裏側に出るとどこか既視感のある風景だった。どこで見た風景だろうと考えたら、「となりのトトロ」に出てくるサツキとメイの家に似ているだった。確かにあの家も和洋折衷建築の家だ。
ジブリ作品好きの私はかなりテンションが上がった。テラスを見つけた時にはあまりにも作中のテラスにそっくりで「序盤のあのシーンのあれだ!」と思わず声が出てしまった。
庭を一周して正面に戻ると、管理人の方が戻っているようだったので管理人事務所のインターホンを鳴らして本館の見学をお願いした。行事などで利用者がいる場合は見学ができないが、運よくその日は見学可能だった。
本館は畳敷きの広間が何部屋もあり、高級感旅館を思わせる造りだった。長い廊下から先ほどの日本庭園がよく見える。どこを見ても絵になる風景で何枚も写真を撮った。
写真を見返すと廊下と庭を写した写真ばかり撮っていた。そのくらい本館から眺める庭は素晴らしいのだ。現在は改修工事中で見ることができないが、ここから見る福山城は絶景らしい。改修工事が終わったらまた訪れようと思う。
こうやって実際に名建築を訪れてみると、建築用語や建築様式の移り変わりの歴史などの知識があれば、より楽しめるのだろうと改めて感じた。私は建築を学んだことがないため、どうしても見るポイントや感想が浅くなりがちだ。これを機に教養として建築の本を読んで知識を深めるのもよいなと思った。
大人になってから気づいたが、好きなことを学ぶことは楽しいものだ。そして教養があれば人生はもっと豊かで面白いものとなる。いくつになっても好奇心と学ぶ楽しさと美しいものを美しいと感じる感性を大切にしていきたいなと思う。
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福寿会館
広島県福山市丸ノ内一丁目8番9号