【声劇サシ台本】ヒスイノマガタマ
[人物紹介 女1,不問1]
・卑弥呼(ひみこ) = 女性
邪馬台国の女王
強い能力をもち神と会話ができる巫女でもある
・華弥乃(かやの) = 性別不問
卑弥呼の側近(そっきん)
邪馬台国の民の中で唯一、卑弥呼のそばに居ることを許された人物
容姿は 中性的 ※架空の人物です
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卑弥呼:
「はらいたまえ きよめたまえ
ヒスイのマガタマよ
どうぞ 力を お与えください」
華弥乃ナレ:
卑弥呼サマは、御堂(おどう)に篭(こ)もりマガタマを握りしめ祈りを捧(ささ)げておられる
卑弥呼:
「はらいたまえ きよめたまえ
邪馬台国の平穏が続きますよう
お祈り申し上げる」
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華弥乃:
「卑弥呼サマ」
卑弥呼:
「華弥乃か…」
華弥乃:
「はい! お祈りは、お済みの ご様子で…」
卑弥呼:
「ああ 終えた…」
華弥乃:
「卑弥呼サマ、顔色が悪うございます。
早く、何か お食べになってくださいませ」
卑弥呼:
「どのぐらい時が経ったかのう」
華弥乃:
「半日です。
飲まず食わずで祈りを捧(ささ)げておられていたので心配しておりました」
卑弥呼:
「それは知らなんだ。すまなかったなぁ…」
華弥乃:
「さあ、コチラに食事を用意しましたので召し上がってください」
卑弥呼:
「ありがとう…華弥乃」
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華弥乃:
「それにしても何か あったのですか?!
ここまで体力を消耗すること、能力を
お使いになるのは滅多にないことじゃ
ないですか!?」
卑弥呼:
「少しばかり、お叱りを受けてしまってな…ハハ…」
華弥乃:
「邪馬台国の民に、お怒りなのですか?!
神は」
卑弥呼:
「いやいや 民ではない。妾(わらわ)にだ…」
華弥乃:
「えっ?!卑弥呼サマに!?」
卑弥呼:
「妾(わらわ)に邪心があったのを神は見逃さなかった…」
華弥乃:
「いくら能力者と言えど卑弥呼サマだって人間ですもの、心が乱れることもありましょうぞ」
卑弥呼:
「神に仕える巫女は心を 一定に保たねばならんのだ…いかなる時もな」
華弥乃:
「そんな…」
卑弥呼:
「妾(わらわ)は産まれてまもなく両親から引き離され、ずっとこの社(やしろ)で師匠でもあるオババ様に厳しく育てられた」
華弥乃:
「ご両親とは会ったことはないのですか?」
卑弥呼:
「ない! 名前すら顔すら知らない。
妾(わらわ)は神の子だからな」
華弥乃:
「そんな…酷い…」
卑弥呼:
「そのことは辛いと思ったことはない。
赤ん坊の時から そうやって育つと そう言うものだと思ってしまうものさ。
だがな」
華弥乃:
「だが なんです?」
卑弥呼:
「誰のモノにもならず男と言うものを知らず生きてきただろう?
ただ神に ひたすら祈り続ける日々で。
なんだか虚(むな)しく思えてきてな…」
華弥乃:
「そうなんですね…」
卑弥呼:
「何もかも忘れて、一度でいいから男に抱かれてみたかったと思うてしまってなぁ…ハハ…」
華弥乃:
「何もかも忘れて…ですか…」
卑弥呼:
「こんな能力がなければ女としての喜びを得られたのだろうか…と」
華弥乃:
「卑弥呼サマしかおられないのですよ
この国を守れるのはっ!」
卑弥呼:
「そうだな…妾(わらわ)しかおらんな…」
華弥乃:
「卑弥呼サマに、お縋(すが)りするしかないのです…」
卑弥呼:
「いかん…な…
はっ!?(←驚いた風に)」
華弥乃ナレ:
私は、思わず彼女を抱きしめていた。
弱々しく、どこか遠い目をして寂しそうに語る彼女を…抱きしめていた。
卑弥呼:
「あったかいな」
華弥乃:
「はっ すみません…私としたことが…」
卑弥呼:
「良い! しばし、そのままで居てくれ。
抱きしめていてくれ…」
華弥乃ナレ:
私の腕の中で彼女は、目を閉じた。
自然と唇を重ねていた。
卑弥呼:
「柔らかいものなのだな唇と言うものは…なんなのだ先ほどから胸が熱くドキドキと脈打つぞ。病(やまい)の類(たぐ)いか?」
華弥乃:
「ふふっ 恋と言うものの類(たぐ)いの病(やまい)やもしれませんね」
卑弥呼:
「やはり病(やまい)か…これは…」
華弥乃:
「人を好きになると皆 このような状態になるのです。それは病(やまい)ではございませんので安心してくださりませ」
卑弥呼:
「おお そうか。安心したぞ。これが恋か」
華弥乃ナレ:
そう言って微笑む彼女は、ごくごく普通の可愛らしい乙女そのものだった。
卑弥呼:
「神と国に契(ちぎ)りを誓った巫女である妾(わらわ)が、このようなことをしていると知れば神は、お怒りになり罰を与えるだろうな…」
華弥乃:
「卑弥呼サマは もう充分に辛い思いをしていらっしゃいます!
罰なら私が受けます!」
卑弥呼:
「なあ 華弥乃、頼みがある」
華弥乃:
「なんです?」
卑弥呼:
「お前は、妾(わらわ) 亡き後、自由に生きろ。幸せな家庭を築いてくれ」
華弥乃:
「急に何を おっしゃるのです…
私は卑弥呼サマと共に…」
卑弥呼:
「ダメだ!(←さえぎる ように)」
華弥乃:
「どうなされたのです…なんだか今日は おかしいですよ。ゆっくり お休みになられたほうがよいですね」
卑弥呼:
「妾(わらわ)は真面目に話しておる!
わかったな華弥乃、お前は どんなことが起きようと生きるのだぞ!妾(わらわ)のぶんまで」
華弥乃:
「わかりました。
卑弥呼サマの仰せのままに」
卑弥呼:
「よかった…幸せになれよ華弥乃」
華弥乃ナレ:
この日を境に、卑弥呼サマの能力と体調は急速に衰(おとろ)えていった。
彼女は こうなることを予感していたのか、それとも神からの罰なのか…。
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華弥乃ナレ:
彼女が亡くなる直前、私を枕元に呼んだ
卑弥呼:
「幸せになれ…さあ 行け!愛しい人よ…」
華弥乃ナレ:
私は泣きながら社(やしろ)を出た。
彼女の願いを叶える為、彼女のぶんまで生き抜いてみせる。