「名尾手すき和紙」の向こう側。
モノには魂が宿っている。
私はそう強く信じているから、素敵なモノやモノ作りの裏側にいるヒトに、よく引き寄せられる。
この日も偶然出会った。
車を走らせていると「名尾手すき和紙」の看板が目に留まりました。お店を訪ね名尾和紙に触れ、私はこのときの気持ちを、ブログに残したくなりました。
■左に工房、右に古民家
場所は、佐賀市大和町名尾という、人里離れた山奥の小さな地区です。「あと3キロ」「あと2キロ」と書かれた看板を目印に進んでいくと、にポツンと古民家が見えてきました。
駐車場に車を停め、まず目に飛び込んできたのが、かなり古い建物でした。
こちらは和紙を作る工房で、中を見学できます。作業場や道具を、目で見て肌で感じられる貴重な空間です。
工房の右側には、和紙を販売している古民家です。他にお客様はおらず、人の気配もありません。靴を脱いで「お邪魔します…。」と一声掛け、ゆっくりと扉を開けると、そこには和紙から伝わる、手作業の温かい世界が広がっていました。
■色々な和紙
古民家の中は、今までに見たことがない、様々な和紙が飾られていました。
▼和紙のカーテン
▼和紙を使ったライト
私には、この和紙たちが、まるで生きているかのように、生き生きと見えました。
そのことをお店の方に伝えると、「手作業だからこそ、大きさの違う繊維や葉っぱなどを使って、自由にアレンジができるんだよ」と教わりました。
■実は身近な和紙のセカイ
幻想的な和紙のセカイは分かった。
だけど、ライトも和紙も値段が高く、手が出せそうにない。しかも和紙を買っても、使い道がない・・・。
だから私は思い切って「今はどういう方々が、和紙を使っていますか?」と、お店の方に投げかけてみました。
すると「今も昔もあまり変わりません。実は身近なところで、うちの紙が使われているんですよ」と笑顔で説明をしてくださりました。
▼大分県竹田市に伝わる伝統工芸品の張り子「姫だるま」
名尾手すき和紙では、姫だるま用の張り子紙を制作している。
▼祐徳稲荷神社の神具
祐徳稲荷神社がお祓いの際に使用する「幣(ぬさ)」や、巫女の髪を留める「絵元」用の紙を制作している。
▼博多祇園山笠の提灯
山笠を曳く際に夜道を照らす弓張提灯の紙を制作している。
現在、紙を作る職人さんが減り、京都のお祭りで使う提灯を作って欲しいという依頼もあるそうです。
名尾手すき和紙は、300年以上続く伝統工芸で、現在は、こちらの1軒のみです。
私たちの身近にある、伝統的なお祭りや習わしは、伝統を受け継ぐ人だけでなく、伝統を支える人がいて成り立っていると、肌で感じた瞬間でした。
■モノ作りの裏側
和紙の素材である「梶(かじ)の木」についても、お話しを伺いました。
▼古民家の室内には、栽培や加工中の写真が飾られていた
【梶(かじ)の木について】
・春から秋にかけて栽培する。
・成長中は農薬を撒いたり、つるが巻き付かないように、真っ直ぐに伸びるようにしたりと、梶の木の栽培は手が掛かる。
・夏頃になると、人の伸長ほどの高さに成長する(真ん中写真)
・梶の木に、人が隠れて見えないので「○○さんいますかー?」と声が飛び交う。
・梶の木は1年目のものしか使えない。1月に全て収穫し、乾燥させて使う。
・根っこは引き抜かず、土から数センチの位置で切り落とす。そこから新しい茎が生えてくる。
他にお客様がいなかったこともあり、沢山の時間を使って、丁寧に説明をしていただきました。お話を聞けば聞くほど、名尾手すき和紙の魅力に引き込まれていきました。
名尾手すき和紙ができるまでについては、ホームページに掲載されているので、ぜひモノ作りの裏側を感じていただきたいです。
■感想・思ったこと
目には見えないけれど、モノには、①作る人②買う人③使う人の「共感」があります。
「作る人」は、「どんな人がどんな風に使ってくれるだろう。」「こんな風に使って欲しい。」と想像する。
「買う人」は使う人の喜ぶ顔を想像する。
「使う人」は作る人と買う人の想いや、自分自身の思い出を想像する。
それぞれの想いが響き合い、共感の輪が広がり、深まっていくように思います。
私は買ったモノを大切に使います。モノ自体が気に入っているのはもちろん、作る人と買う人の想いに触れ、モノの裏側を感じ、時に励まされているような気がするからです。
だから思うのです。モノには魂が宿るのだと。
ゆっくり過ごした後は、ポストカードと、梶の木の葉を挟んだしおりを買って帰りました。うん。可愛いすぎる。元気が出る。
次回お邪魔する際は、工房をじっくり見学させていただきたいです。
美味しいお茶を、ご馳走様でした!(茶たくも和紙で可愛い)