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これまでとこれからの間

増田町が重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)に選定されることが決まり、翌年には国民文化祭を控えていた2013年10月。町や市、そして県全体が「増田」に注力してくださり、先駆けて内蔵を公開していたお隣さんやお向かいさんのご苦労にぶら下がるように、くらを は静かに店を開けた。

あれから丸っと6年。早いものだ。

そもそも、なぜこの場所で麹屋が食堂をやろうと思ったのか。

目的の一つは建物の維持。
くらをの建物は江戸時代に建築された醸造蔵を内蔵に持った旧勇駒酒造。建物全てが国の指定を頂いている。
空き家になったこの大きな建物を「活かして残す」。今ほどリノベーションという言葉が浸透していなかったように思うけれど、意味としてはそういうことだと思う。
江戸時代から大正にかけて増改築を繰り返してきたこの建物は、傷んでいるところがたくさんある。実際に営業に使っている部分は建物の前側ほんの一部。「全体を活かす」という目標に向かって、少しずつ修繕している。
今年の春、ようやっと一つ目の蔵の雨漏りが治った。

もう一つは食の原風景を「作り、伝え、残す」こと。
くらをがある秋田県横手市は雪深く冬が長い。そのおかげで美味しいお水を飲むことができるのだが、水が良く土が肥えているので良質のお米が採れる。厳しい冬を乗り越えるための保存食を作り、独特な嗜好品もたくさん生まれた。麹屋の数も多い。人口10万人を切る横手市に、麹屋が20軒以上ある、と言えば、その規模が伝わるだろうか。
かつては日本のどこにでもあった「台所に麹のある暮らし」。
待つことで生まれる素朴で素直な美味しさは、現代の忙しい私たちが心地よく暮らすためのヒントになるのではないだろうか?という想いから、発信の場所にしたいと思った。
場所柄、観光客の店というイメージがあるかもしれないけれど、私たちにとってはどんなお客様も「お客様」でしかないし、実際に現段階で観光目的で増田に訪れる方と純粋に麹をたっぷり使った増田の食べ方を目的に来てくださる方とが半々である。ありがたいことに繰り返し食べに来てくださるお客様も年々増えている。これまで麹を使ったことが無い世代の若い方たちにも、喜んでいただけるのがたまらなく嬉しい。少しずつ初めた「麹の教室」も、回数を増やしてできるだけたくさんの人に伝えていきたい。世界的な発酵ブームが追い風になっていることは間違いないけれど、麹はそういう土俵では勝負しないものなんじゃないだろうか、と思っている。
なので、流行りが終わったらどうしますか?という質問には決まってこう答えている。

「全く心配していません。」

気づいた人から、台所に麹のある暮らしを始めたらいい。

前置きがだいぶ長くなってしまったが、この冬を利用して断熱をしっかり回した温かい部屋をつくろうと考えています。
土間を挟んで提供に時間がかかってしまったり、暖かいものが冷めてしまったりしないように、同じ空間に私たちがいる部屋を。お客様に快適に利用してもらえて、長居してもらえたら嬉しいし、これまで以上に【身体の内側から元気になるごはん】を精一杯作らせていただきます。
麹の教室も本格始動できるように、味噌や味噌漬けなどを計り売りにて購入していただくお買い場も整える計画をしています。


建物の歴史から考えたらくらをの存在はまだ「点」のようなもの。
昔々から未来に向かって。重伝建エリアという景観の縛りもあるけれど、ピンチをチャンスにするような発想で新しい空間が生まれことを、どうぞ楽しみにしていてください。


建物を「守る」ということは、「活かす」ということ。

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