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【乗車記】ラストラン前日の東武浅草駅[2022.3 きりふり①]

地下鉄銀座線の浅草駅を降り、東武線の改札へと向かう階段を上がる。
今日は、明日の2022年3月6日(日)限りで引退する350型および特急きりふりに乗りに来た。前日に東武線の駅を使う用事があり、そのとき、ふときりふりの事を思い出し、特急券が買える券売機を操作してみたところ、東武日光行きは通路側が、復路の浅草行きはなんと窓側が空いていた。「これは乗らなければならない!」という謎の使命感が働いたため、今この場所に立っているのである。

まずは、今は無き350型およびきりふりについて簡単に解説させていただく。
350型は1991年にデビューした優等型電車だ。実のところは、1800系を改造して生まれている。その1800系は1969年のデビューだから、そこから数えると50余年経過していることになる。
最初は、急行列車として東武線や直通先である野岩鉄道・会津鉄道の各線を走っていたが、急行から特急に格上げされると、こんどは特急列車として足早に駆け抜けるようになる。先ほど、優等型電車と曖昧な表現をしたのはそのためだ。

2005年までは浅草から会津鉄道の会津田島までを結ぶ急行南会津を、2006年からは新藤原まで運行が短縮された急行ゆのさとの運用を担っていた。そのゆのさとも臨時列車化されて、いつのまにか無くなってしまった。
それだけではなく、2020年まで運行されていた東武宇都宮行きのしもつけの運行も請け負っていたのは記憶に新しい。

そして、最晩年まで活躍の場を与えられていたのは、今回乗車するきりふりである。
きりふりは、最後は春日部→浅草→東武日光→浅草→新栃木という運用で土休日のみ運転されていた。この列車の使用車両は350型に限定されており、急行と同等の車内設備しか持ち合わせていないために、特急料金は他列車よりも安くなっていたから、少しでもお金を浮かせたい人々にとってはうってつけの列車であり、使用車両のことも相まって、普段から鉄道ファンに人気の列車だったのである。

そのような歴史ある名列車も、明日をもってとうとう引退してしまう。名残惜しむ鉄道ファンは、こぞって乗りに(撮りに)来たというわけだ。

まだ列車はホームにはいないが、発車案内の電光掲示では「10:38 きりふり281号」と表示されており、駅構内も駅員お手製の掲示物であふれている。それらをカメラに収めるために、改札外も改札内もたくさんのカメラを持った鉄道ファンで埋め尽くされている。

私も記念に写真を数枚撮った後に改札を通る。ちょうど列車が入ってくるというアナウンスが流れ、カメラを持つ人々は殺気立つ。この独特の雰囲気は文章では表現不可能なものである。
駅員の注意喚起がひっきりなしに放送される中、350型はゆっくりとホームに入ってくる。ビデオカメラを回している人は録画ボタンを押したときに鳴る音が、一眼レフ等のカメラで撮る人は連写するシャッター音が構内に響き渡る。

列車が停止をすれば、好き好きの場所で動画を撮っていた人々も列車の先頭部分を撮ろうと集まってくるため、そこの箇所だけ混雑が凄まじく、とてもではないが近づけない。そのため、最初に側面の表示や行先表示幕、車内、座席、お手洗いの写真をおさめてから、元の場所へと戻る。

発車する前から忙しく撮って回っているからか、疲れを感じてしまう。このままでは自席に座しても、ただただ眠ってしまうだろう。今日は、眠るには最適な春のやわらかい陽射しと付き合わねばならないのだから。


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