両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓くを読んでみて
「探索」と「深化」
両利きの経営は、ambidexterityという企業活動の事例を紹介する書籍です。両利きとは、探索「既存認知の範囲外に認知を広げる活動」と深化「得た認識を磨きあげる活動」の2つを指しており、この両利きの事例を収集し、共通点を探す事例研究書籍です。
またイノベーションのジレンマを読了されてた人はご存じかと思いますが、イノベーションのジレンマは深化の「ジレンマ」と「新たな市場」の繰り返しを説明した本と捉えられます(上記のフレームを使うと)
社会的信頼を得やすい深化活動の深みに陥り、最終的に「探索」活動を続けた企業に敗れる構図を示しております。
※これをコンピテンシートラップ・サクセストラップと定義
ちなみに大好きな理論の「ダイナミックケイパビリティ」が触れられているのは個人的に嬉しかったります(ぜひ読んでもらいたいです!)
「秀でた組織能力」による制限
そしてこの両利きを実現させる手段として、もしかしたらありきたりに見えるかもしれませんが、鍵は「リーダーシップ」であると断言しています。この点他のベストプラクティスがないだろうかと考えたいですが、探索部署の統廃合などがイノベーションのジレンマでも出ていたケースかと思うので、決断の重要性は不可避であることは感じます。
事例の紹介も新鮮で面白く、SAPにおけるSaas事業の失敗は探索と深化の組み合わせがうまく機能しなかった事例として紹介されております。
概要
SAPはエンタープライズERP市場の覇者です。ただ2006年時点では既に高いシェアを獲得しており、エンタープライズERP市場自体の成長は見込めないとされていた。
その為SMB顧客向けのSaasサービス、ビジネスバイデザインを展開する。
ただし、エンタープライズで培った組織能力はSaaSビジネスで展開する組織能力(よく出るSaaS KPIで見る能力)とは異なる組織能力が求められる。
※これ図出したいほど感動するまとめ・・・!!
その為、時間が経つにつれて、SMB分野の市場の強者はSalesforceなどのSaaSに適した組織能力を獲得していた企業になり、SAPはこの分野で損失額 が推定30億ユーロ(約3800億円)にまでなった…。
個人で活かせること
探索と深化のバランスこそが両利き、それを実現する為にはリーダーシップが本書のポイントだと思いますが、個人に当てはめてみると考えさせられます。私は思い返すと探索が社内で、深化が社外が多いかなという感じです。
社外活動は収益目的の活動ではありませんが、成長性を考えるときに、この両利きにあてはめて考えてみると適した行動ができそうな気配がします…この活動は探索と深化、それぞれどちらに近いだろう。
メモ的に重要だと思ったポイントを下記に記載します。
ある事業が成熟事業と新規事業の両方で競争に打ち勝つ──すなわち、既存の資産と組織能力を深化しながら、それらを使って新しい資産や組織能力を創出してこそ、長期的に成功することができる。
サクセストラップの根本原因は、組織的な調整力ならびに構造上や文化的な惰性におおむね関係している。これらは戦略と実行が密接に結びつくと生じやすい。
チャールズ・A・オライリー;マイケル・L・タッシュマン.両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く(Kindleの位置No.2451-2453).東洋経済新報社.Kindle版.
両利きの経営のリーダーは、あるユニットには利益と規律を求めながら、別のユニットには実験を奨励する。一方の事業では戦略を支援しながら、他方の事業ではカニバライゼーションを追求させるのだ。
チャールズ・A・オライリー; マイケル・L・タッシュマン. 両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く (Kindle の位置No.4505-4507). 東洋経済新報社. Kindle 版.
以上です。ありがとうございました。