アルスフェス2020の見どころ ・ STARTS Prize概要 ・
みなさん、こんにちは!博報堂ブランド・イノベーションデザインのイノベーションプラナーの劉思妤と申します。
私は中国で生まれ育ち、2016年に博報堂に入社し、ストラテジックプラナーとしてグローバルの部署に配属されました。3年半ほど日系企業のグローバル進出や外国企業の日本におけるビジネス展開に伴う、戦略立案やPR発信に携わってきました。昨年ブランド・イノベーションデザイン局に異動し、現在は企業のブランディングや未来洞察アプローチを活用した事業開発を担当しています。
日本、中国、タイ、シンガポール、インドネシアなど幅広いマーケットを担当してきたからこそ、今でも日々企業のダイバーシティ推進の取組みとマーケティング活動にアンテナを張っております。そういう視点を大切にしつつ、今年から弊社とアルスエレクトロニカのプロジェクトにジョインしました!
リンツでの開催に加えて、初のオンライン開催となった今年のアルスエレクトロニカフェスティバル、今年も見どころ満載な予感がビンビンしています。様々な分野で興味深い作品が目白押しですが、私が特に惹かれた「STARTS Prize」について、ご紹介したいと思います。
STARTS Prizeとは
STARTS Prizeの正式名称は、「Grand prize of the European Commission honoring Innovation in Technology, Industry and Society stimulated by the Arts」になります。名前の通り、S(サイエンス)+T(テクノロジー)+ARTS(アート)を融合した作品を表彰する部門になります。サイエンスやテクノロジーとアートのコラボレーションにより、社会や企業が抱える様々な課題の解決に寄与する思いが込められ、2016年から発足した部門です。
STARTS Prize2020の作品
STARTSでは「芸術的探求賞(Artistic Exploration)」と「イノベーティブ・コラボレーション賞(Innovative Collaboration)」の2つの大賞と、「特別賞(Honorary Mentions)」などがあります。ここでは個人的に気になる特別賞作品「Perception iO」をご紹介したいと思います。
Perception iO(知覚 インプット・アウトプット)は人工知能のデータセットにより、参加者の感情を忠実に反映し、参加者の意志が入り込むことによって起こるバイアスを表現できる没入型体験システムです。
本システムの参加者は、不安定な状況における対応を学ぶために、トレーニングビデオを視聴している警官という設定で、ビデオ視聴をしていきます。ビデオの中で、参加者は、犯罪者もしくは精神衛生上の問題を抱える黒人キャラクターや白人キャラクターに接触していくことになります。Perception iOシステムは、ビデオ視聴時の参加者の顔の表情を追跡し、様々なシーンにおいて、どのように反応しているかをデータ分析していきます。分析結果に応じ、接触キャラクターの対応が変化していき、後に続くストーリーが変わっていきます。ストーリーの変化によって、警官役がキャラクターにどのように対峙(逮捕、援助、発砲)するかも変化していきます。
いわば、恋愛シミュレーションゲームのようにストーリーが展開されるのですが、違いは、参加者が自覚していない些細な表情・感情という無自覚な生体反応の変化(上記のゲームは意識的に文言を選択)が、ストーリーの変化を及ぼすところです。
言葉だけでは伝わりきらないこともあるかもしれません笑。作品を是非ご覧いただければ嬉しいです。
Perception iO / Karen Palmer
Perception iOの没入型体験で提唱していることは、神経科学、行動心理学、映画、AI、顔の感情検出、アイトラッキング、バイアス、社会正義の在り方の融合です。没入型のストーリーテリング体験システムを通じて、人の感情が現実にどのように影響を与えるかを明らかにします。このインスタレーションでは、普段気づかない人間のバイアスを明示し、それゆえにAIにおける透明性の大事さを再認識させることができます。
日本でも今年同じような試みとして、分岐型マルチエンディングVR映画『HERA』プロジェクトが、WOWOWとstoicsenseにより発表されました。『HERA』は、アイトラッキングにより無意識の行動情報が入力され、結末に反映される仕組みになっています。
わかり合うアートコミュニケーション
2020年5月、アメリカで起きた事件をきっかけに、黒人差別反対運動が世界中に広がりました。人種に限らず、年齢、性別、国籍、障害の有無などによって、毎日世界中のどこかで偏見が生まれています。アーティストたちは日々こういった社会問題に直面しながら、わかり合う力をアートを通じて表現しています。
「Manic VR」
Manic VR / Kalina Bertin , Sandra Rodriguez, Nicolas S. Roy, Fred Casia Credit:Tom Mesic
これは2019年アルスエレクトロニカのゴールデン・ニカに選ばれた、VR映像を用いた「双極性障害」に関するドキュメンタリー作品です。晴れた空に舞い上がるような高揚感と、暗闇に閉ざされたような生活を再現し、容易に理解できない精神疾患が抱える人の内的世界を明らかにします。
出典:https://ars.electronica.art/outofthebox/manic-vr/
「Help me know the truth」
Help me know the truth/ Mary Flanagan Credit: Mary Flanagan
2018年アルスエレクトロニカ賞のインタラクティブアートカテゴリーで選ばれた優秀賞作品です。訪れた参加者のセルフィーを撮り、画像処理をかけることで、撮られたセルフィーを完璧なステレオタイプ画像へと加工していきます。他の参加者は、誰かのセルフィーの原像と、加工した画像の2つに対して、「楽しいのはどちらか?」といった質問に応える形で画像を選択していきます。そこから心に根付いた無意識的な傾向性を見つけ出します。
出典:https://studio.maryflanagan.com/help-me-know-the-truth/
※STARTS今年の受賞作品です。https://starts-prize.aec.at/en/winners2020/
わかり合うアートと企業のコラボ
アルスには、ジャーナリズムとしてのアートが集っています。そんな側面を持って作品を提供するアーティストもたくさんいます。どんなジャーナリズムを持ってこの作品を作ったかなと見ていくと、今後の社会・企業課題のヒントを得られるかもしれません。
新たなSDGs潮流の中で、例えば食品会社だと、フードロスのキャンペーンにこういったわかり合うアートを活用することができるでしょう。
また、在宅ワークが推奨されている今日では、オンラインでの可能性を模索する動きが多数見られます。オンライン上の新人教育や研修をいかに臨場感が出せるのか、こういったアート視点から再考してもいいでしょう。
あと、プロモーションの視点から見ると、没入型体験を通じて、より自社商品への理解・好感度を高める効果も期待できるかと思います。
最後に
私は、今まで企業のブランディングや商品の戦略企画に携わってきました。そのビジネス視点から言うと、「アート」という領域は、私の日々の業務にとって、とても遠い存在だと思っていました。
しかし、初めてのアルスエレクトロニカフェスティバル鑑賞を通じ、アートは単に鑑賞して芸術性を楽しむような側面だけではなく、社会に対して質問を投げかけ、人々の心を動かす大事なビジネス視点を得られるツールになるのではないかという認識が持てました。アートを通じて、社会とのエンゲージメントをどう作るか、よりよい未来をどう作っていくか、そんな視点をたくさん得られることへの期待が私の中で沸々と高まっています!
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