【連載】D2C Design Studio Talk vol.6 – 語ってもらえる、D2Cブランドストーリーをつくるには–
みなさん、こんにちは。
博報堂ブランド・イノベーションデザインの高橋美帆です。
Vo.5では、D2Cブランドの世界観の2つのポイントと世界観を伝えるにあたって重要な姿勢についてお話をさせていただきました。
世界観をより効果的に生活者に伝え共感してもらうためにはブランドストーリーが大切ですが、今回はユーザーが語りたくなる魅力的なD2Cブランドのストーリーをつくる鍵を考えてみたいと思います。
①D2Cブランドこそ、語ってもらえるストーリーづくりが必要
エデルマン社が2018年に実施した消費者調査では、日本人の6割が、社会問題等に対する製品やブランドの姿勢によって、その製品の購買可否を決めるという結果が明らかになりました(出典:2018 エデルマン・アーンドブランド)。これは、つまり、ブランドの姿勢=ブランドの存在意義や社会的意義であるパーパスに共感するかどうかで購入するかどうかを決める生活者が過半数以上存在するということを示しています。社会問題に対して、一生活者が声をあげ、それが世界中の他の人々からも賛同を得る…そんなことが当たり前のように起きるようになった今、この傾向はますます強くなっているのではないでしょうか。
背景にはVol.2でお話させていただいたように、生活者が機能ではなく自分自身の価値観に合致するものを選ぶようになった変化があります。生活者と直接つながるD2Cブランドにとっては、パーパスを分かりやすく伝え、ユーザー自身が語ることを通じて共感を増幅していくようなブランドストーリーが重要となるのです。
このようにユーザー自身が主人公として物語ることを「ナラティブ」と言いますが、もともと臨床心理学の領域で患者の視点で語られる物語を通じて解決方法を見出していくアプローチとして提唱されはじめ、現在ではマーケティングやブランディングの領域にも取り入れられている考え方です。
ではブランドとユーザーを、ユーザーとユーザーを繋ぐ、ナラティブなストーリーとはどのような要素で構成されているのでしょうか?そして、ブランドは、ユーザーが自然と語ってくれるストーリーをどのように形作っていけばよいのでしょうか?
②ユーザーに語ってもらうために;ストーリーを形作る8つの要素と、意識すべきトーン&マナー
ここで、現在ファンに共感され成功を収めている、注目を浴びているブランドのストーリーを分解し、構成する要素を整理してみました。
・ブランドに関わる、人という資産
具体的には、「創業者の経歴・パーソナリティ・強い思い」「従業員」「ステークホルダー」「ファン」が要素として考えられます。
例えば、「創業者」の有名なレストランでの修行やアスリート選手だった過去等、その道のプロとしての経験や、挫折困難の経験、その過程で抱くようになった強い思いは、生活者が憧れ、時には親近感を覚える要素となります。
「従業員」はブランドの良さを発信するユーザーにとってより身近なロールモデルとなり、様々な「ビジネスステークホルダー」との共創はブランドのさらなる飛躍を予期させる要素として、ストーリーに組み込まれることがあります。
さらに、「ファン」がブランドの活動やブランドが受け皿として用意するコミュニティやプラットフォームにおいて活発に意見を交わす現象自体が、ユーザーがブランドに愛着を持っている印としてストーリーとして伝播する例も昨今は増えているように思います。その際、ブランド側が「ファン」の意見に真摯に耳を傾け改良に生かそうとする姿勢が、ユーザーを尊重したプロダクトの改良プロセスとしてストーリーを構成に組み込まれることもあります。
・プロダクトそのものの特徴
ここでは「歴史」「独自性」「新規性」「機能性」「デザイン性」が要素として挙げられます。
商品の前身となったものの深い歴史、これまでにないコンセプトの新規性、研究を重ねた結果生み出された技術を伝えることで、ユーザーはその商品を支持してよかったという安心感を持つことができます。優れた「デザイン性」は、ユーザーが人に見せたくなる大きなトリガーとして重要です。
・プロダクト開発/販売の裏側
「プロダクトの開発に至った背景」「開発/販売のプロセス」を指します。これらをストーリーに含ませることで、生活者はブランドの成長・進化をより身近に感じ、プロダクトに納得感をもつことができます。
上記には、例えば、生活者の潜在的なニーズから新しい提供方法や商品形態を生み出した過程や、立ち上げのためにブランドが重ねてきた地道な努力といった事実が含まれます。
・ブランドが掲げるミッション
生活者の潜在ニーズを解決する、ブランドを通じて社会的意義がある活動に取り組む・貢献するというミッションは、それ自体がストーリーの要素となります。なぜそのパーパスを掲げるのか、なぜ強いこだわりを持っているのか、その理由を生活者に伝えることで、生活者は自分自身の価値観と照らし合わせ支持するかどうかを決めることができるのです。
・制約/希少性
製造上、購入可能な数やタイミングに制約がある等、限られた人的・物的資源の中で作っていることも、ストーリーの大事な要素です。制約があるからこそ、希少であるからこそ、ユーザーは手に入れたときの喜びを誰かに語りたくなるのです。
・タブー/固定概念への挑戦
例えば今までは「購入」が当たり前だったプロダクトに対して「試す/試して買わない」という新しい選択肢を提示すること、または全く異なる業界の知識ややり方を取り入れた挑戦の姿勢をストーリーに組むことで、生活者はブランドを応援したい気持ちを抱くでしょう。ブランドの課題や挑戦は、ストーリーの中では話の“山”のようなものです。
・画期的な/従来とは異なるビジネスモデル
ビジネスモデルに意外性があったり、或いはコストの透明性が追求されたものである場合は、仕組み自体が合理的で魅力的なものと捉えられ、ユーザーがブランドに信頼を寄せる要素となりえるでしょう。
・権威ある第三者による評価
賞を獲得した実績、著名な人から良い評価を得たという事実も、ストーリーの一要素となることがあります。プロダクトを知らない人にプロダクトを紹介するときには、ユーザーは他者の評価を借りながら語ることで、ブランドの信頼度を担保して語ることもできます。
ここまでで様々な要素がブランドストーリーを構成していることは感じていただけたかと思います。どの要素に共感を抱くかはユーザーひとりひとり異なるため、複数の要素をちりばめたストーリーをつくることが大切ですが、この時も語りたくなるような文脈になっているか?は常に意識する必要があるでしょう。さらに、前提として大切なのは、生活者とブランドが対等の立場であることを忘れないこと。つい、ブランド側が商品サービスの特徴や、いかに素晴らしいかを生活者に一方的に伝えてしまいがちですが、ユーザーが自然に自分の経験や考えと照らし合わせ、自他にストーリーを語りたいと思うことができるトーン&マナーが求められているのではないでしょうか。
③ユーザーに語ってもらうために;ストーリーの語り方
では、次に、ユーザーに実際にストーリーを語ってもらうために、ブランドは何ができるでしょうか。ポイントは大きく3つあると考えられます。
・ブランド自身が、生活者にストーリーを繰り返し語りかける
ある意味お手本として、ブランドがストーリーを日々ユーザーに語る姿勢を見せる姿勢が大切です。熱い1回限りの語りかけよりも、ラフでもよいので継続的に語りかけることがポイントになります。snsの公式アカウント、ラジオ、記事配信、ライブ配信といった手段を通じて、ブランドが商品ごとのストーリーや、プロダクトを取り入れたライフスタイルを丁寧に発信していくことで、ユーザーはブランドストーリーのトーン&マナーや重要な要素を自然と理解するようになるでしょう。
・ユーザーが語りやすい題材を、ブランド側が用意する
ユーザーの行動や導線を理解し、語りやすい題材を用意することも大切になってきます。あくまで一例ですが、デザイン性の高いプロダクト、投稿用のフォーマットやギフトボックス等を提供することで、snsでユーザーが配信を行ってくれるパターンもあります。そのようにユーザーが誰かに語りやすい題材を提供することが大切だと思います。そうすることでユーザーは購買・利用したことを他者に発信したいと強く感じ、また実際に他者にブランドを伝える人となることができるのです。
・ユーザーと語り合う場所がある
snsの公式アカウントやクローズドのコミュニティスペースでの意見交換、ラジオなど、ユーザーの声に耳を傾け対話する場を設けることは、先に述べた「人」の資産、ファン/コミュニティを活性化していくことにつながるでしょう。ブランドが、その活動に「人」を巻き込んでいくなかでストーリーの「人」の資産は充実し、語られるストーリーも自然と厚みを増していくでしょう。その結果、より多くの人がブランドとそのコミュニティに惹きつけられる流れがうまれることも考えられます。
上記3つのなかでは、当たり前のようではありますが、ブランドが意識的にストーリーをユーザーに繰り返し語りかけることが実は大切なのではないかと思います。
まとめ
プル型でファンを獲得していくD2Cブランドにとっては、「ナラティブ(語り)」の要素を含むブランドストーリー作りは特に大切だとお伝えしてきました。ブランドストーリーの構成要素には、ブランドに関わる人という資産、ブランドのミッション、プロダクトそのものの特徴、プロダクトの開発工程、制約やタブーへの挑戦など様々なものがありますが、より共感性の高いストーリーにするためには、それらの要素を複数ちりばめたうえで、ブランドがユーザーと対等の立場から語ることが重要だと思います。そして、ブランドが自ら普段よりストーリーを語り、ユーザーと語り合う場所、ユーザーが語りやすい素材を用意することが、ナラティブな、強いブランドストーリーを形作っていくことにつながるのでしょうないでしょうか。D2Cブランドのストーリーづくりにおいて本記事が少しでも参考になれば幸いです。
次回予告
ユーザーがブランドストーリーを語る際には、商品購入/利用に至るまでの体験設計、情報接点設計がいかにわくわくするものか?という要素も併せて語ることが多いです。例えば、プレゼントが自宅に届くという通知をもらった時のドキドキ、いざ届いて開封する瞬間のわくわくは、人に語りたくなりませんか。このように、ブランドに共感してもらうためには、ストーリーを紡ぐだけではなく、あらゆる接点における体験設計が必要ですが、この考え方は、商品そのものではなく、ユーザーが商品を使用することによって生み出される価値に焦点をあて、その価値創造を助ける営みとして事業を捉えなおすことを提唱するサービス・ドミナント・ロジックの考えにも通じています。次回は、この考え方が生まれた背景や、D2Cブランドを企画・開発していく際にどのようにサービス・ドミナント・ロジックの視点を生かしていくか?をお伝えいたします。
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ライター紹介
髙橋美帆 | 東京大学文学部行動文化学科にて社会学を専攻。2017年博報堂に入社し、関西支社を経て20年より博報堂ブランド・イノベーションデザインに所属。ビジネスデザイン局時代は様々な業界のマーケティングコミュニケーション戦略策定/実行を担当。現在はイノベーションプラナーとして、未来洞察、サービスデザイン、ブランディング、事業開発などに従事。