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だから、私は電話をかけ続けた。(後編)
前回の続きから。
《前回のあらすじ》
サッカークラブ「ONE TOKYO」でGMを務める私は、リーグ戦の第3節を現地で観戦。試合後に「MOM(Man of the match)」と「MIP(Most impressive player)」を選出することとなった。
MOMにはチーム最多4得点を挙げた選手を選んだが、MIPには出場時間わずか10分足らずの選手を指名。選手たちから、どよめきの声が上がった。はたして、その場面に「教員時代を思い出した」理由とは——。
2007年度からの3年間、私は杉並区の公立小学校で教師を務めていた。後半の2年間はクラス担任も受け持ち、23名の子どもたちを担当していた。このときの出会いと経験は私の人生にとってかけがえのないものとなった。
※このときの思いを綴った小説『だいじょうぶ3組』は映画化もされているので、良かったら秋の夜長にお楽しみください!
“手足のない教師”という前代未聞の展開を、子どもたちも保護者の方々もごく自然に受け止めてくれた。そのことは本当にありがたかったが、私としては他の先生方と同じようなことができないことに対する悔しさや申し訳なさが消えるわけではなかった。
だからこそ、「私ならではのこと」にこだわった。放課後、保護者の方々に電話をかけることも、そのひとつだった。一般的に、担任教師から放課後に電話がかかってくるなんて、子どもが何かをやらかしたときと相場が決まっている。しかし、私は子どものことを褒めてあげたいときにこそ、保護者の方々に電話をかけるようにしていた。
なぜ、子どもたちを褒めるために、いちいち電話をかけるという、おそらくは双方にとって面倒なことをしていたのか。理由は、いたってシンプルだ。
それは「通知表にはそぐわないこと」が多いから。もちろん通知表でも子どもたちの頑張りを伝えることができる。だが、その多くは「結果が出たこと」に限られる。けれども、子どもは(子どもに限らないが)頑張ったけれど、結果が伴わなかったということも往々にしてある。そうしたことは、なかなか通知表には書きにくいのだ。
たとえば、学期末にもらった通知表に、
「頑張って跳び箱の練習をしていましたが、最後までできませんでした」
「勇気を出して学級委員に立候補してくれましたが、結果は落選でした」
などと書かれていたら、本人も保護者もずっこけてしまうと思うのだ。
だから、通知表にはなるべく結果が伴ったことを書いてあげたい。その代わり、結果には結びつかなかったけれど頑張ったことを、逐次、保護者のみなさんに伝えていきたい。そんな思いから、私は放課後にその日の子どもたちの頑張りを電話で伝えるようにしていたのだ。
そうして思い出すのは、やっぱりTさんのことだ。
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