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憲法の議論は、「9条」から移りつつある。

子どもの頃から「憲法記念日」が訪れるたびに、不思議な気持ちでニュースを眺めていた。「改憲しよう」と考える人々も、「憲法を守ろう」と考える人々も、いずれもが同じ考えの人同士で集まり、「そうだ、そうだ」と言い合っている。この両者が一堂に会して激論を交わすというなら、相手の主張に対する理解が生まれたり、妥結点を見いだすようなことが起こる可能性もあるけれど、別々に集って怪気炎を上げることにどんな意味があるのだろうと、子どもながらに疑問に思っていたのだ。

そして、彼らが「憲法」と言うときは、きまって9条のことだった。

 第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

この国の安全保障を考えたとき、はたして改憲したほうがいいのか、それとも護憲のほうがいいのか。ここには様々な意見があり、それぞれが主張を展開しているが、いずれにしても憲法改正論議といったとき、その中心に「9条」があることは、誰もが認めるところだろう。

ところが、最近になって、この「中心」がズレていく動きがある。

      キーワードは「緊急事態条項」だ。

改憲を党是とする自民党は、憲法改正に向けた「4項目」を掲げている。「自衛隊の明記」「緊急事態対応」「参院選挙区の合区解消」「教育充実」という4つだ。このなかでも特に関心が高く、最近ニュースでも取り上げられる機会が多いのが「緊急事態条項の創設」についてだ。

緊急事態条項とは、戦争やテロ、大規模災害などの非常事態が発生した場合に、政府や国会の権限を一時的に強化する規定のことだ。

具体的には、2つある。上記のような事態から国会が機能しない場合、内閣が緊急に政令を制定できるようにする「内閣の権限強化」だ。ただし、こうした規定は、ヒトラーの独裁を生んだナチスドイツの全権委任法にも通じるといった指摘もあり、拒否反応を示す人が多い。

もうひとつは、緊急事態により選挙を実施できない場合、任期切れで議員が不在になるのを防ぐため、特別に任期延長を認める「国会議員の任期延長」だ。これらは地方議員には認められているケースもある上、今回のコロナ禍やウクライナ情勢など、「緊急事態」がより身近に感じられるようになったことから、議論が激しくなってきている。

実際、日経新聞が先月末に行った調査によると、「賛成」が49%、「反対」は37%。拮抗しているとも言えるが、賛成が反対を上回っているとも言える。いずれにせよ、国民の間で「任期延長くらい認めておかないと、いざというときに政治に空白が生まれてしまうのではないか」という疑問や危機感が広がっているのだろう。

では、私自身はこの「緊急事態における国会議員の任期延長」について、どう考えているのか。

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