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(書評) ブックレビュー

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本は魔法。本は友達。本は師。本は世界への窓。子供の頃から読書が一番の趣味。ほぼ毎日色んな本を読んでいます。好きな本やおすすめ本のごく一部。有料記事はnote非会員の方も購入可能。
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記事一覧

(書評・番外編) ---追悼 楳図かずお『わたしは真悟』

追記:noteからこんなお知らせが。ご覧下さった方、スキを下さった方、 ありがとうございます。 今回は先生の訃報を知り、以前別の所に書いた書評をnoteにも貼りますね。書いたのは8年位前で、まだAIはポピュラーではありませんでした。 ★「わたしは真悟」 楳図かずお 全7巻(小学館文庫) 「『わたしは真悟』は楳図かずおの最高傑作である。それだけではない。現代日本マンガが到達しえた頂点の一つでもある。そして、マンガ以外にも、文学、映画、演劇、音楽などをひっくるめた1980年

(書評) 最近読んだ本からランダムに③---行旅死亡人、神仏、台湾

私の読書傾向には一貫性がなく何でも読むので、ご紹介する本も色々です。 ★「ある行旅死亡人の物語」共同通信大阪社会部 武田惇志、伊藤亜衣(毎日新聞出版) ※ある程度ネタバレしています。知らずに読みたい方はスルーを。 「2020年4月、兵庫県尼崎市のとあるアパートで、女性が孤独死--- 現金3400万円、星形マークのペンダント、数十枚の写真、珍しい姓を刻んだ印鑑…。記者二人が、残されたわずかな手がかりをもとに、警察も探偵も解明できなかった身元調査に乗り出す。 …「行旅死亡人

(書評) 最近読んだ本からランダムに②---虫と山の本

私の読書傾向には一貫性がなく何でも読むので、ご紹介する本も色々です。 ★「足もとの楽園 ちっちゃな生き物たち」ぺんどら(さくら舎) 子供の頃、東北の田舎で育ったので、放課後はいつも外で遊んだ。ワイルドな野遊び。あちこちに林や草むらがあって虫も多く、男子だけでなく女子も虫捕りが好きな子が多かった。でも私はテントウムシとチョウ以外の虫は駄目だった。今も特に虫好きではないけれど、コウモリに関わるようになって彼らの主食である虫について調べる機会も増えて、「好きという程じゃないけど

(番外編) 書評をお読み下さったnoterさんの記事---ショーン・タンの世界

昨日と続けての投稿になりますが、前に書いたこの記事 に興味を持たれて、紹介したショーン・タンの本をお読みになった、noterのエトさんが素敵な記事を書いて下さいました。当方の記事にも触れて下さっています(^-^) ショーン・タンはとにかく画力が凄くて、絵も幻想的で美しいんですが、「絶対あり得ないけど、もしかしたらあり得るかも…」と思わせる、日常からちょっとスピンオフしたシュールな世界を見せてくれるんですよ(文章も彼)。 『遠い国から来た話』『内なる町から来た話』おすすめで

(書評) 好きな短編から①---「つゆのひぬま」山本周五郎

1冊の本の紹介ではなく、好きな短編を独立して紹介する新シリーズです。 (固定テンプレ) 洋の東西を問わず、長編小説より短編小説のほうが好きだ。 短いとか読みやすいとかではなく、作家の真髄が最も発揮されるのが短編だから。人生の一瞬を切り取り、光と翳を描く技が最も活かされるから。 たとえば、好きな作家(私の場合は故人が大半だけど)の未読の短編集を読んでいて、胸に響く珠玉の作品に出逢った時の喜びは、私には「至福」としか言えない。読者にそう思われたなら、作家には本望じゃないかとも

(書評) 20世紀ホラー系文学の金字塔 、“こわ美しい” 名作---『丘の屋敷』

★「丘の屋敷」 シャーリィ・ジャクスン (創元推理文庫) 私はスプラッタ系のホラー映画は見ないが、超常現象系のホラー映画は好きで結構見る。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』とか『サイン』とか、そっち系。コアなホラー映画ファンに比べると見ている本数も少なく、傾向も偏っているけれど、今まで見たホラー系映画の中でのマイベストが、ロバート・ワイズ監督の『たたり』(1963)。 有名な映画なのでオールドファンにはご存知の方も多いかもしれない(ロバート・ワイズは『サウンド・オブ・ミュー

(書評)日本の山には何かがいる---『山怪』(全3巻)

★「山怪 山人が語る不思議な話」(全3巻) 田中康弘 (山と渓谷社) 夏といえばホラー、怪談。 いやー、この本は地味に怖かった。スティーヴン・キングの本がどんなに怖くても、それはフィクション、作り話。読んでいる間は怖くても、自分でも作り話の前提で楽しんでいる。 でもこれは作り話ではなく、ごく普通の人々が淡々と語る体験談集なのだ。 「日本の山には何かがいる 生物なのか非生物なのか、個体なのか気体なのか、 見えるのか見えないのか。 まったくもってはっきりとはしないが、何かがい

(書評) 人生の先輩の、いぶし銀の輝き---『過疎の山里にいる普通なのに普通じゃない すごい90代』『80代で見つけた 生きる幸せ』

この2冊は高齢の身内にプレゼントするために買ったのだけど、パラパラ読んでいるうちに私のほうが引き込まれてしまった。「80だの90だの、まだまだ先で実感が湧かない」人が多いと思う。でも例外なく誰もがいずれその年代になる。高齢者といっても様々な人がいるのに、老害という浅薄な言葉で括りたがる今の時代にこそ、若い世代にも読んでほしい2冊。 上の絵は、平凡な農家の主婦が76歳から自己流で絵を描き始め、80歳で初の個展を開き、101歳で亡くなるまで1600点以上の絵を描き続けた、アメリ

(書評) 最近読んだ本からランダムに①---脳、山人、ミステリー、剣客

私の読書傾向には一貫性がなく何でも読むので、ご紹介する本も色々です。 ★「思い出せない脳」 澤田 誠 (講談社現代新書) 「最新脳科学が明かす、記憶のミステリー」というキャッチ。認知症などの病気というより、日常に起きる「思い出せない」メカニズムを説明した本。思い出そうと頑張るほど思い出せない理由、思い出すたびに記憶は強化されるが必ず変容する理由、睡眠時に何が起きているか…等の、記憶の不思議。 これを読むと記憶というのは絶対ではなく、本人は意識しなくても変わることが分かる

(書評) 美しく優しく香り高い、小さな物語---『雪のひとひら』

主に旧作を中心に、おすすめの本を紹介しています。旧作でもマイナーでも良い本は沢山あるので、そういう本が目に触れるきっかけになればと思っています。 ★『雪のひとひら』 ポール・ギャリコ (新潮文庫) ポール・ギャリコは私の大好きな、敬愛してやまない作家の一人。 スポーツライター出身の彼の文章は平易で読みやすいけれど、繊細で深い。 面白くてヒューマニズムに溢れ(弱者の立場に立った視線など)、温かい。 演劇・映画化された『七つの人形の恋物語(『リリー』)』、映画化された『ポセ

(書評) 長く厳しい冬の後に巡りくる、春の歓び---『長い冬』(大草原の小さな家シリーズ)

主に旧作を中心に、おすすめの本を紹介しています。旧作でもマイナーでも良い本は沢山あるので、そういう本が目に触れるきっかけになればと思っています。 上の写真(出典) ★「長い冬」<ローラ物語1> ローラ・インガルス・ワイルダー(岩波少年文庫) 中年以上の人なら、NHKで放送していた『大草原の小さな家』を覚えている人も多いだろうし、ファンも多いのでは? 何シーズンも(何年も)作られたし、DVDボックスも出ている。今も世界中に熱心なファンがいるそうだ。 私もテレビ版は好きで見

(書評) 犬を愛するすべての人に---絵本『いぬ』

主に旧作を中心におすすめの本を紹介していますが、今回は割と近年(2020)の絵本です。(上の写真はジャーマン・シェパードの子犬 出典) ★ 「いぬ」 ショーン・タン(絵・文)  (河出書房新社) 子供の頃、ジャーマン・シェパードの子犬を飼っていた。 毎日夕方に一緒に散歩して、休日は同じ布団でお昼寝をした。 利口で活発で家族に忠実で、お風呂とドライブが大好きな子だった。 ほんとうに可愛くて、とても愛していた。大事な家族の一員だった。 でもある日突然、あっけなく死んでしまっ

(書評) 奥多摩の大自然と人情。異色の警察小説---『駐在刑事』『尾根を渡る風』

主に旧作を中心に、おすすめの本を紹介しています。旧作でもマイナーでも良い本は沢山あるので、そういう本が目に触れるきっかけになればと思っています。 ★「駐在刑事」「尾根を渡る風」 笹本稜平 (講談社文庫) 行楽の秋、読書の秋---。どこかに行きたいけれど難しいという方にも、ちょっとした小旅行気分と、しっとりした読後感が味わえる本をご紹介。 何を隠そう(?)私はテレビ東京のドラマシリーズ「駐在刑事」のファンなんです。たまたま旅先で見て気に入り(当地では放送していなかった)、

(書評) 人間を信じたくなる、痛快で爽やかなリベンジ長編---『誇りと復讐』

主に旧作を中心に、おすすめの本を紹介しています。旧作でもマイナーでも良い本は沢山あるので、そういう本が目に触れるきっかけになればと思っています。 ★「誇りと復讐(上・下)」 ジェフリー・アーチャー (新潮文庫) 前に「現代の欧米のエンタメ系小説家で最も資質に恵まれているのはジェフリー・アーチャーとスティーヴン・キングではないかと思う」と書いたことがある。ジャンルは違えど、どちらも稀代のストーリー・テラーだから。 キングはホラーの帝王だが、『スタンド・バイ・ミー』のような