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(書評) 犬を愛するすべての人に---絵本『いぬ』

主に旧作を中心におすすめの本を紹介していますが、今回は割と近年(2020)の絵本です。(上の写真はジャーマン・シェパードの子犬 出典)

★ 「いぬ」 ショーン・タン(絵・文)  (河出書房新社)

子供の頃、ジャーマン・シェパードの子犬を飼っていた。
毎日夕方に一緒に散歩して、休日は同じ布団でお昼寝をした。
利口で活発で家族に忠実で、お風呂とドライブが大好きな子だった。
ほんとうに可愛くて、とても愛していた。大事な家族の一員だった。

でもある日突然、あっけなく死んでしまった。
外で飼っていたのだけど、誰かが餌の皿に毒を入れたらしい(獣医がそう言った)。愉快犯の可能性もあるが、成長に伴い夜鳴きするようになっていたので、それをうるさく思った誰かではないかとも。


家でも夜鳴きの声は気にして、それなりに対策もしていたけれど、その誰かは直接苦情を言うより毒を選んだのだろうか。
どんなに苦しかったろう…家族が見つけたときには既に息絶えていた。

家族で何日も泣き明かした。みんな犬が大好きなのに、それがトラウマになって二度と飼えなくなってしまった。
あのまっすぐな視線も、出かけるときの興奮したはしゃぎようも、ご飯を待ち切れずにいた姿も、名前を呼ぶと弾丸のように飛んでくる姿も、ふくふくした柔かいお腹も……もうどこにも無いなんて信じられなかった。



その子が死んで何十年も経つのに、今も動画サイトでシェパードの子犬を見る度に涙が出る。道でシェパードを連れている人を見ると、あの子も大きくなったらこんな風になったのかなと思う。私の中で、あの子は永遠に子犬のままで歳をとらないけれど。


ショーン・タンは言う。「犬と人間の関係は、ほかのどんなものとも似ていない」「この強くて愛情あふれる奇妙なつながり」。

ジャーマン・シェパードの子犬(写真)


この絵本は犬好きなら胸を衝かれること間違い無しで、私がどうこう言うよりも百聞は一見に如かず。テキストは少なく、画力で読ませる大人のための絵本だ。
この話はショーン・タンの『内なる町から来た話』に収録されていて、そこから独立して『いぬ』のみの絵本が出版された。(「大傑作!」---ニューヨーク・タイムズ)。

主人公と犬は、ある時出会い、共に過ごし、時の経過と共にどちらも亡くなる。それぞれが別の時代と場所に、様々な姿で生まれ変わる。何度も何度も生まれ変わり、その度にすれ違う。そしてある日…

「犬たちのまっすぐな忠誠心とひたむきな希望は、しょっちゅうそうした美徳を見失い、世界のどこに身を置けばいいのかわからなくなっておろおろしてばかりいるわれわれ人間に、多くのことを気づかせてくれる。

この先地球にどんな運命が待ち受けていようと、それがどんなに途方もなく過酷で、この世の終わりのように思えても、僕らの隣にはきっと犬がいて、前に進もうと僕らをいざなってくれるにちがいない。そうでない未来なんて、僕には想像できない。」(ショーン・タン あとがきより)


『内なる町から来た話』はショーン・タン・ワールド全開の、動物たちが主役のシュールな物語集。幻想的で妙に心に残る美しい絵が印象的だ。


都会の高層ビルの87階にひっそり暮らすワニ、夜中に高速道路を疾走するウマ、入院患者を見守り、導くフクロウ、人間を相手に訴訟を起こしたクマ…あり得ないはずなのに、どこかあり得る気にさせられる不思議ワールド(ただし、彼の作品をお読みの方はご存知のように、単純に感動するとか癒やし系ではありません)。
どの話も魅力的だけど、やはり『いぬ』の静謐な迫力に心を揺さぶられる人が多いんじゃないだろうか。


『ピーナッツ(スヌーピー)』の作者、チャールズ・シュルツの名言---「幸せとは、温かい子犬を抱きしめること」。世知辛い世の中でも、いつも犬たちは、疑うことを知らないまっすぐな愛情で私たちを包んでくれる。

『いぬ』を別にして、私はショーン・タン作品では『遠い国から来た話』の中の『エリック』が一番好きだなあ。

彼の画力に圧倒されます


❤好きな犬動画から。無愛想なお父さんが、子供からのプレゼントを開けた途端…

兵役から帰還したご主人と再会して、狂喜乱舞が止まらないジャーマン・シェパード。人間でもこんなに熱烈に愛してくれない。

●ネットの拾いもの。©たぐちひさとさん だそうです。
ピュアで正直な動物は犬に限りませんけどね。

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こちらはフィクションですが、野生動物関係者の方からもご好評を頂いています。       


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樹山 瞳
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