【読書】町工場の娘/諏訪貴子
2014年12月18日
自分の親が、なんの前触れもなく「余命4日」と宣告されたら、それだけでももの凄いショックを受けるでしょう。
しかもその親は、中小企業の社長で、少なからず社員を抱え、一人で切り盛りしていて後継者については何も決まっていない、としたらパニックになってもおかしくないと思います。
この本はそんなエピソードから始まります。
著者の諏訪さんは、東京都大田区にある「ダイヤ精機」の社長です。急死された父親の跡を急遽継ぐことになり、試行錯誤しならが会社を立て直してこらたら方です。
幼少期に亡くなった兄の代りとして「男」として育てられたので、「ひょっとして私が会社を継ぐのかな…」という予感はあったそうですが、大学卒業後は取引先に就職。結婚して専業主婦に。その間、父に請われダイヤ精機に入社するも、経営方針の違いから2度のクビになりました。先代が亡くなられたときは、専業主婦に戻り。旦那様の海外転勤についていく準備をしていました。
そんな状況で、社長を継ぐことになります。自分がその場におかれた時に覚悟を決めることができるかどうか。自分も中小企業に勤務していて、(5等親離れていますが)創業家の末席にいるので、できる限り自分事として捉えて読んでみました。自分で覚悟を決めなくてはいけないことはないと思いますが、誰かの覚悟の背中を押さなくてはいけない場面はこれから出てくると思ったからです。
諏訪さんが覚悟を決める過程で周囲の人からさまざまな背中を押される言葉をかけられています。会社の幹部の人からは
「全力で支えるから社長になってくれ」
と言われています。
そうしたいくつかの言葉の中で、僕が一番印象に残ったのが上記の言葉です。人が覚悟を決められない大きな理由は「失敗したら失うものが大きい」と考えてしまうからだと思います。
そうした時
「自己破産すればいいのよ」
と言われて
「そうか」
と思えますか。そう思える人は少ないと思います。そもそも自己破産について正しい知識を持っている人は少ないですし、もし知っていたからといって簡単に「そうか」思えるとも考えにくい。
覚悟を決める時というのは、どこか軽やかに一線を越えていかないといけないのだと思いました。
実際に経営にあたられてからの様子も興味深いものがありました。
経営学の本などほとんど読まないし、どこかで勉強したこともない、という中で、こういわれます。
組織人としての社会人経験は2年ちょっとで、こうした原則を確立されています。理系的思考なのかなとも思いますが、理系だからできるわけでもないでしょう。単なる社会人経験だけでなく、幼少からも含め、さまざまな経験(家庭を切り盛りするなども含め)の中で身に付けてきたのだと思います。そして、「経験」を積みさえすれば誰でも身に付けられるわけではないので、それには秘訣があると思います。
それはいくつかあると思いますが、そのうちのひとつがこのような考え方ではないかと思いました。
「失敗してもいいからやれ」
と言って、本当に失敗すると責任を取らせる組織は枚挙に暇がありません。
しかしダイヤ精機では本当に失敗を奨励? しています。人は失敗の中から学ぶことのほうが多い。諏訪さんもきっとさまざまな失敗をされてきたんだと思います。でもそれはチャレンジした証であり、だからこそ学べたことが多かったのだと思います。大きな組織で「失敗しないこと」を優先に仕事をするより、はるかに成長が早いのだと思いました。
そして、製造業の中小企業が胸に刻んでおくべき言葉もありました。
この言葉は、得意先の担当者に、「なぜダイヤ精機と取引するのか」とたずねたときの回答です。
「うちは品質には自信があるが、売れない」
という話をされる方によく会いますが、品質が良いのは当たり前。そこから先が求められているのに、それを認めようとしない方が多いと感じています。
また、対応力を「知識の問題」と捉える方も見受けられます。知っていれば対応できるはずだ、自社商品の知識さえあればいい、という話になりがちです。もちろん、知識は必要条件ですが、それだけで対応できるわけがありません。コミュニケーション力も必要だし、なにより得意先に寄り添う気持ちをどう持つかが不可欠です。
このへんは強く自戒を込めて書くことになります。「対応力」ってなにか、そのために必要なことはなにか、を突き詰めて考える必要があるのだと思っています。
最後に諏訪さんの夢について。この夢は、商工会議所の太田支部会長をされていたお父様の夢ともつながっていると思います。
「おわりに」に天国のお父様にあてた手紙が書かれています。言葉にできないので細かくは書きませんが、もの凄く感動しました。そして、遺された人間は、その想いを引き継ぎ、次世代につないで行く役目を背負っているのだとあらためて思いました。
読み終わると元気が出る本です。たいていの人にとって自分が感じているプレッシャーなどたいしたことはない、と思って頑張る気持ちが湧いてくると思います。
PS
講演会の質疑応答の時に手をあげられるかどうか、というのは小さな勇気と行動の一つの例です。ただ、ここに書かれているエピソードは諏訪さんの生き方そのものを象徴するような話だと思います。
諏訪さんの人生を変えた小さな勇気と行動とは何か?それ知りたい方は、ぜひ本書に手に取って確認してみてください。
*本書の続編は
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