目標は目標であって計画ではない
明治大学経営学部で「中小企業の経営戦略」について、年1回、講義をしています。
もう6年ほど経ちますが、正直、100分間で戦略論を語るのは難しいです。戦略論の講義が通年(明治の場合で言えば100分×14回×2(前後期))で成り立つボリュームですから、100分で語るには無理があります。
ですからかなり絞り込んで話をしています。その中で重視しているひとつが「悪い戦略とは」です。
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」
故野村克也監督の言葉がありますが、戦略も同じだと思っています。良い戦略はその企業の置かれた環境、組織文化、持っているリソースによって変わってきます。絶対の成功法則などあるわけがない。
しかし、悪い戦略には、一定のパターンがあると考えています。
そのパターンのひとつが、「目標と戦略をはき違える」があります。
以前、次年度の計画と戦略策定を相談されたことがあります。すでに骨格は固まっているとのことだったので、どんな戦略を考えているのか聞いたところ
「償却前営業利益の黒字化」
とのことでした。
もうおわかりだと思いますが、これは目標です。戦略とは言えません。
こうして聞くとおかしいなあ、と感じると思いますが、なぜか世の中には同じようなことをしている企業がたくさんあります。
「売上10%増」
「売上高○○円必達、営業利益5%以上」
「お客様満足度の向上」
「地域社会との共存共栄」
などなど。
これらは目標、ないし、理念です。戦略・戦術は経営理念や経営目標を達成するために具体的にとるべき策です。そして戦略・戦術を具体的な行動に落とし込み、合理的で実現可能性の高い数字に落とし込むのが「計画」なはずです。
ちょっと冷静に考えればわかるはずですが、これらを堂々と「戦略」と称し、さらに目標=計画として、株主や金融機関など関係先に説明している企業は枚挙に暇がありません。
結果、毎年のように計画は未達に終わります。たまたま未達だというならいいですが、何年も続けて計画が未達、それも計画と着地が2割以上乖離していれば、徐々に関係先から相手にされなくなると思います。
さらにどのようにしてその戦略(という名の目標)を作成しているのか確認すると、部門毎に戦略を考えさせ、それを足し合わせて全社戦略(という名の目標)にしているとのことでした。「現場の意見が大事、ボトムアップで決めないと自分事として考えられない」と言われていました。以前、僕が勤務していた会社と同じだ、と思ったのですが(苦笑)
ベクトルが逆です。全社戦略があって、全社目標があって、それを達成するために各部門ごとに自分たちがやるべきことを決めるのです。部分最適の総和は全体最適になりません。全部門がその目標と自分事として捉え、必死に部門目標を達成したとしても、全社目標は未達、という状況が頻発します。
目標は目標であって計画ではありません。まして、戦略でもありません。ちゃんと区分けして考えないと痛い目にあいますよ、というお話しでした。