【MLB】戦力均衡についてを考える会

はじめに

 いつもお世話になっております。日ハムファン兼レイズファン兼サンダーファンです。
 佐々木朗希選手がロサンゼルス・ドジャースに入団を決めて早くも数日が経とうとしております。そんな中で世間の声は賛否両論でございました。「ドジャースばっかりずるい」「お金ありすぎ」「スモールマーケットに行きたいとはなんだったんだ!」「佐々木の難しい決断?KDみたいなこと言うなよ」等非難もありましたしそれに対してバチる方々もいました。(まぁタンパリング疑惑があると言われてたり大谷の後払いのくだりとかが余計にドジャースファン以外から顰蹙を爆買いしていた訳ですが)
 それはそれとしてLADはこれで10年契約の大谷や12年契約の山本由伸だけでなく3人目の日本人投手で6シーズン分を安く保有できる佐々木朗希、他にもスネルのようなプレイヤーと長期契約を締結して圧倒的なオフをすごしております。そもそもフリーマン、ベッツ、グラスノー等とも長期契約しており、何連覇を目指せるのかというレベルでガチガチなチームを保有できています。そんな中で他チームのファンは「戦力均衡が維持できてない」というふうに感じる人も多いと思います。そこで今回はゆるーく戦力均衡についてを色々なスポーツ含めて考えた事を適当に書いていこうと思います。

ちなみに皆さんお気づきのように僕はスモールマーケットを見て育ちスモールマーケットの勝利を願うタイプのファンなのですがクソデカマーケット軍団の悪口は言わないように気をつけます。

そもそも戦力均衡がなぜ必要?

 これを言ってしまえばこれまでなのですが戦力均衡なんかやらなくてもいいやろって考えをする方々もいると思います。例えばNPBにおいて戦力均衡を維持するためのシステムはほとんどありません。「1巡目指名のくじ引きを含めたドラフト制」「FA権に伴う補償」このふたつくらいしか僕は思いつきません。他にも世界各国のサッカーリーグにも戦力均衡を重要視するシステムは多くはないと思います。FFP(フィナンシャル・フェア・プレー)と呼ばれるルールは存在しますがこれは戦力均衡のためのシステムというよりかは健全なクラブ運営のためのシステムです(詳しくは調べて欲しいですが選手獲得の支出が収入を超えてはいけないというルールです)。しかしそれらに疑問を持つ人は少ないと思います。
 その理由は1つはそれでもやって行けたから、NPBはリーグ優勝は1/6、日本一は1/12の割合なので常勝軍団になれなかったとしても数年に1度にはプレーオフに進出出来る……はずなんですよね(中日に目を逸らす)。もちろん例外もありますがずっと最下位あたりにいるのにいきなりリーグ優勝をするヤクルトのようにいきなりセ界転覆が起こったり今年の横浜のような逆転日本一のような事も起こるからそんなに戦力均衡を願う声も大きくないかと思います(それはそれとしてソフトバンクのような金満ムーブを非難する人もいますが)。
 一方海外サッカーは別の理由で戦力均衡を推進しません。サッカーは国内にリーグが複数存在し、昇降格制度を採用している関係からプロとアマチュアが明確に地続きになっています。例えば日本国内ではJリーグの1部から3部までがプロリーグ、その下のJFL(4部)、その下に地区リーグがあり合計7部まで存在しています。また世界有数のリーグであるプレミアリーグがあるイングランドにはWikipedia調べで上から下までで20部まで存在しているようです(そのうち11部までが全英フットボール協会が管轄しているようです)。そのため理論上は小さな5部のチームだとしても実力をつけていけばトップリーグまで駆け上がることも可能です。プレミアリーグに行けばきっと放映権だけでがっぽりです。そんな感じでアメリカのスポーツと違って複数のリーグがひとつに繋がっていることが戦力均衡と相反するものに繋がっていきます。例えばひとつの国の協会が全チームに収益を分配しようものならどれだけ収益を上げても1万円くらいしか貰えなくなるのでそこまでしてしまうとアンフェアだし、ドラフトをすると1順目だけで(Jリーグだけでも)60人が指名、更にはJ3側の方が圧倒的に収益が低いことから将来の稼ぎにも影響が出ます。これもこれでアンフェアでしょう。
 このように戦力均衡は必ずしも厳格に行う必要はないというのは他のスポーツや文化、財政システム等で理解頂けるかと思います。

アメスポと戦力均衡

 それではアメリカのスポーツはどうして戦力均衡をするのか、今回の本題についてです。各スポーツごとの戦力均衡事情についてを軽く見ていきましょう。なおアメリカでは高校や大学スポーツが人気でドラフトも大卒が前提となることが多いのでアマチュアとプロの境目がしっかりと着いていることから戦力均衡を行えるという事情があります。

NFL(アメリカンフットボール)

 世界一の経済力を誇るスポーツであるNFL、NFLの戦力均衡は初期から考えられていたものであり、NFL JAPANによると

NFLのリーグ運営は設立当初から、スポーツの魅力とは最高のレベルで戦力の均衡したチームが繰り広げる競争状態である、という理念のもとに行われています。リーグ全体が継続的に繁栄しアメリカ全土を熱狂させるためには、戦力や資金力が特定のチームにだけ片寄ってしまうことのないシステムを構築することが必要である、という信念がそれを支えています。

https://nfljapan.com/guide/about/system

と戦力均衡を重要視しています。NFLはこの哲学を守るために「サラリーキャップ」「レベニューシェアリング」「ウェーバー制ドラフト」を採用しています。これらはアメスポの多くリーグで採用されていますがNFLが1番厳格に守られています。
ほとんどのチームの半分以上は収益を持っていかれて32分割して渡されています。これにより小さな街でもある程度の補強資金は使えます。
 実際2024年のサラリーはカロライナ・パンサーズが最高額の261M、最低はタンパベイ・バッカニアーズの216Mと大きな差はありません

NHL(アイスホッケー)

 NHLも同様に厳格なサラリーキャップとレベニューシェアリングを行っていますがドラフトの仕組みが異なります。ロッタリードラフトの仕組みを採用しておりこちらは勝率に基づいて確率が割り振られその確率の元でくじ引きを行い指名順を決めるシステムです。これにより意図的に負けてドラフト高順位を狙う行為であるタンギングをしてもドラフト上位を取れない可能性があります。23-24シーズンではトロントメイプルリーブスが103Mで最高額、アナハイムダックスが70Mで最低額でした。(NHLは触れてきていないのでいちばん知識が浅いので知ってる方がいたらコメントとかで教えてください)

MLS(サッカー)

 近年NHLやMLBを追い抜いていこうと勢力を伸ばしているアメリカのサッカー、アメリカではサッカーにもドラフトシステムやサラリーキャップはあります。しかしMLSにはサラリーキャップは厳格に超えてはならないという線ではありません。
 特別指定選手制度というルールがありサラリーキャップに換算されず、ルール上選手の契約最高額を超えて契約できる制度があります。これにより海外のスーパースターの獲得ができます。最近ですと2023年の夏にインテルマイアミは年20Mの契約でバルセロナ、PSGで活躍したスーパースターであるリオネル・メッシの獲得をしました。
 2024年はインテルマイアミが最高額で42M、CFモントリオールが最低額で12Mの年俸合計金額になっています

NBA(バスケットボール)

 四大北米スポーツ(NBA、MLB、NFL、NHL)の中でも最も平均年俸が高いと言われるNBA。彼らもサラリーキャップのルールがあります。
 ただしNBAではソフトキャップ制を採用しておりわけわかんない量の例外条項があります。 
 例えばバード権と呼ばれる3年間同一チームでプレーをした選手はそのチームと再契約もしくは契約延長を行う際にはサラリーキャップの影響を受けない+普通のFAよりも待遇が良く契約できることでスーパースターを保有し続けられるルールがあります。これによりかつての王朝であるゴールデンステート・ウォリアーズはステフィン・カリー、クレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーンのビッグ3をサラリーキャップのシステムに脅かされることなく維持し続けることが可能でした。
 他にもトレード、FA等で様々な例外条項によりほとんどのチームはサラリーキャップを超えています。その上で一定の条件を満たすことでその時点でのサラリー額がハードキャップになる等の制限はかかっていきます。このシステムでNBAの15人の少数ロスターでチームを運営していきます。
 NBAではゴールデンステート・ウォリアーズが最高額の224M、ユタ・ジャズが最低額の131Mでした。補足ですがウォリアーズは年俸最高の3人で125Mの支払いをしていました。

MLB(ベースボール)

 そして今回の主役のMLBです。このnoteを見ている方なら恐らくわかっているとは思いますがMLBのシステムについても軽く説明します。
 他の4つのスポーツとの大きな違いとしてサラリーキャップは存在しません。サッカーやバスケは例外条項を用いてサラリーキャップを超えた資金利用が可能ですが野球に限っては例外条項等の制限によらなくとも使い放題です。代わりに作られたものとして戦力均衡税(CBT)、いわゆる贅沢税があります。選手雇用に使った金額に一定ラインを越えると追加で税金を取られその税金はスモールマーケットに再分配されるという仕組みです。これは他のスポーツよりもかなり(その気になれば)お金を使いまくれるという利点があります。ニューヨーク・メッツのオーナーのコーエン氏が参入した際にはこの贅沢税も強化されることになり(コーエン氏はメッツの大ファンかつ超大金持ち)、コーエンtaxなんて呼ばれていましたがドジャースもしっかり払っています。後払い云々で言われていますが普通に払ってます。大事なので2回言いました。このように税金をいくら払おうとも優勝のためなら関係ないという考えに振り切りさえすれば戦力均衡もへったくれもありません。このシステムの欠点です。贅沢税のラインを大幅に上回った場合にはドラフト指名権の後退等の罰則はありますがMLBのシステム的にもあまり痛手では無いなと言ったところですね。

実際戦力均衡はできているのか

 ではこれらの上のリーグが行っている均衡のシステムが実際戦力均衡に貢献してるのかが気になりますよね。24-25シーズンのNFLのレギュラーシーズンを見て見ましょう最高勝率はカンザスシティ・チーフスとデトロイト・ライオンズの15勝2敗、一方最低勝率はテネシー・タイタンズとニューヨーク・ジャイアンツが3勝14敗という結果でした。
 勝率88パーセントと勝率17パーセントの圧倒的な差をつけた今シーズン、果たしてこれは戦力均衡になっているのでしょうか。そう疑問を覚える人も多いと思います。でもひとつ確認して欲しい部分があります。最高勝率を取ったデトロイト・ライオンズとカンザスシティ・チーフスというポイントです。彼らの本拠地であるデトロイトとカンザスシティはビッグマーケットでは無いと言う点ですね。一方ニューヨークは超ビッグマーケット、ヤンキースが2023シーズンに低迷をした際には30年振りの最下位になるかもしれないと言われていました。その勝率すらも下回る12パーセントの勝率、もっと言えばジャイアンツは2022年に9勝でプレーオフに進出したもののその前のプレーオフ進出は2016年まで遡ります。つまりビッグマーケットだから常勝軍団では無いのは何となくわかるでしょう(ところでなんですが、実はNFLの人気球団の代表格がダラス・カウボーイズやニューイングランド・ペイトリオッツなのでNFLに限ってはビッグマーケット≠強くて人気です)。優勝回数も最多がピッツバーグ・スティーラーズとニューイングランド・ペイトリオッツでそれぞれ6回の優勝を誇ってます。
 では何故ここまでの差が産まれるのかですがこれはシンプルにスポーツ性です。アメリカンフットボールはクォーターバックの力が成績に左右される傾向にあるのです。優秀なクォーターバックであるパトリック・マホームズを保有しているカンザスシティ・チーフスが3連覇を今狙える立ち位置にいるのはマホームズのプレイヤースキルが尋常じゃないからです。そんなチーフスでさえスターのワイドレシーバーであるタイリークヒルの保有が出来ずにトレードした後もスーパーボウルを制覇しています。実際にスーパーボウルを6度制覇しているペイトリオッツはその6回すべてクォーターバックがトム・ブレイディの時であり、ブレイディ本人はタンパベイ・バッカニアーズに移籍したあと1回優勝の合計7個のチャンピオンリングを持っています。
 NBAはどうでしょうか、NBAはほとんどのチームがサラリーキャップの限度を上回りある種無秩序に見えるのですが、過去数シーズンを見返すと2017、2018の2シーズンでのゴールデンステート・ウォリアーズ、2012、2013シーズンでのマイアミ・ヒートの二連覇が印象的でしょうか、他にはスモールマーケットではミルウォーキー・バックスやデンバーナゲッツも優勝しています。彼らは土地と資金による優勝と言うよりかはスーパースターを保有しているかどうかが大事な印象です。レブロン、ウェイド、ボッシュのビッグ3で連覇したヒートやカリー、トンプソン、グリーンに加えKDまで加入という夢のような軍団となったウォリアーズ、ギリシャの怪物ことヤニスを中心にミドルトン、ホリデー、タナシスらを擁したバックス、そして現役最強のセンターと名高いニコラヨキッチを中心としたナゲッツなどのようにスター選手の有無やその周りにどれだけ優秀なプレイヤーを固められるかが優勝への道でお金があるから優勝できるということでは無いようです(もちろんスター選手を手に入れるサラリーは必要ですが)。
 さらにNBAやNFLはドラフト指名権をトレードの対価として利用できるのもポイントです。特にNBAは1シーズンに60人しかドラフトされないのでそのチケットの価値、特に1巡目指名権の価値は高くスター選手をトレードで獲得する際には合計で3〜4枚の1巡目指名権を対価として支払うことがあります。これらの指名権が沢山あることで再建に回ったとしても将来的には優秀な若手を大量に抱え込んで最強のチームになっていることもあります。例として2022年は10位と再建中だったオクラホマシティ・サンダーは1年全休をしていたルーキーのチェット・ホルムグレンの活躍、同じ年にドラフトされたジェイレン・ウィリアムズの成長をしながら一気にカンファレンス1位に上り詰めました。他にも昨シーズン全体1位指名されたビクター・ウェンバンヤマは1人でNBAを破壊しうるパワーを見せつけ新人王を獲得、最優秀守備選手賞は2位となりました。もう1例として2024シーズン優勝を果たしたボストン・セルティックスはかつて栄光を掴んだポール・ピアース、ケビン・ガーネット、ジェイソン・テリーをブルックリン・ネッツにトレード放出し、その対価として貰ったドラフト指名権で後にジェイソン・テイタム、ジェイレン・ブラウンを指名、このダブルエースを主軸として2024年にようやくリングを手にしました。
 このようにドラフトで新しく獲得した選手がスター選手になることで弱かったチームが強くなり、かつてのスーパースターが年齢とともにスターとしては物足りない成績になっていきチームも弱くなっていく、その際に優秀な選手をトレードし指名権を得ることでチームを解体、再建側に回るというサイクル各球団が回すことで戦力均衡という意味ではお金以外の部分で指名権が手伝いをしています。

MLBについて考えてみる

 MLBではどうするべきか、その前に現状のMLBをもう少し深掘りしましょう

贅沢税に意味が無い?

 上記でもずっと書かれていますが贅沢税というシステム自体が今や死にかけています。贅沢税を設けることで「お金を出しすぎると罰金になる」という壁ができ上がることでお金を出し渋る状況を作ることで戦力均衡を行う、チーム編成の事情で支払う事になった金額の1部を主にスモールマーケットに再分配することで「格差を減らす」という目的がありました。現在はいかがでしょう、「多少どころか結構MLBに金払ってでもクソでかいチームを作る」チームが約2つ出来ました、一方その他のチームはたくさん贅沢勢を払うことを嫌がり超えたとしても多少、基本は超えないように財務管理を行う球団が大半、そしてそんな贅沢税を払う払わない以前に予算が大してない球団が残りという状況が現状です。そりゃ戦力均衡以前の問題ですね。LADやNYMが今後を顧みずに馬鹿みたいに補強するのも問題として語りがちですが、TBやMIA等の資産が少ないから贅沢税の基準ラインの1/3程度しかお金を使えてない状況の方がもっと問題です。

なんなら贅沢税の逃げ道がバレた

 大谷翔平選手の10年700Mドルの大型契約の97%を後払いにするという訳わかんない契約を昨シーズンにドジャースと締結しました。この際にAAV(平均年俸額)が46Mドルに設定された事にやり事実上24Mの節税に成功してます。これに賛否両論になりました。今回のnoteにおいてはそこまで重要じゃないし僕も炎上したくないのであまり触れませんが理論上バレましたよね、限界まで後払いを実行すればAAVの圧縮ができること、大谷選手のように金より野球、スポンサー等により稼ぎが安定してある選手にしかできない荒業ですがこれによりAAVをちょろまかすことは不可能では無いことが証明されました(これは個人的な意見なんであんま踏み込まないつもりですがパドレスが行ったジャッジへの14年契約が棄却されてこれが普通に通ることに違和感あるんですよね。有識者さん教えて)。ぶっちゃけ後払いとか言いながらお金を普通に渡すことって出来ると思うのでこの贅沢税のシステム自体の組み直しは求められる頃合なのではないでしょうか。

サラリーキャップ制度ってどうなん?

 多くの人が導入を求めているサラリーキャップのシステム、これが実際どのようにMLBに影響するのかを予想していきましょう。

前提として

 サラリーキャップを導入のルールを定義しましょう。NFLもNBAも(恐らくNHLも)リーグの収益を球団数で割った後、その額の半分くらい(正式な割合は調べてもあまり出てきませんでした)をサラリーキャップに設定しています。

In 2023, Major League Baseball, the North American professional baseball league, reported overall revenue of 11.34 billion U.S. dollars, corresponding to an average revenue of roughly 378 million U.S. dollars per team.

https://www.statista.com/statistics/193466/total-league-revenue-of-the-mlb-since-2005/

2023年、北米のプロ野球リーグであるメジャーリーグの総収入は113億4,000万米ドルで、1球団あたりの平均収入は約3億7,800万米ドルに相当する。

Deeplより翻訳

 1球団辺り378Mの収益が得られています。仮に55%をサラリーキャップのラインとすると207.9Mとなります(きり悪いので208Mとします)。2024年の贅沢税の閾値は237Mなのでさらに年俸は少なめになっています。このルールを適応した場合セントルイス・カージナルスがギリギリキャップ内、13球団がサラリーキャップを超えた金額になります。MLBはインフレが進んでいると言われることも多々ありますが本当かもしれませんね。なお、ここからのサラリーキャップはハードキャップ、208Mより多くの給与は与えてはならない原則という前提で進めていきます。

サラリーキャップを導入すると?

 多分MLBが1番競技的に戦力均衡を行いやすいです。スーパースターの力に左右されるNBA、NFLよりも一人一人の貢献は均等になりやすいと思います。WARというスタッツの元考えると野手は1人で引っ張っていくとしてもMVP選手で10勝分の積み上げが限界です。今の大谷が仮にホワイトソックスに移籍してもプレーオフには出られないでしょう。そういう点では年俸を均等にすることで勝率も均等になりやすいと考えることは容易です、後は各フロントの手腕の見せ所になるでしょう。
 しかしサラリーキャップの設定には選手、球団、それぞれに多くのリスクも伴います。

あまり語られないリスク①

 不良債権問題ですね。MLBは基本全額保証なので長期大型契約に対するリスクがさらに増えます。例えば多くの中堅選手の大型契約は最後の数年は活躍できなくてもペイできる、若しくは他の球団との獲得競争時のオプションとして計算はしていないものの誠意の1つという考えの元することが多いと考えられます。37,38歳の大谷に期待して今から70Mを出すのはどう考えてもリスクです。今まではそのリスクが贅沢税というシステムだったのでお金を支払えば済むものだったのがハートキャップになった場合その70M(もしくは46M)がそのまま使えないものとしてロックしてしまいます。これによりFA補強の際に他のチームよりも安い条件しか提示できなくなるリスクはあります(ただしこれを健全なシステムと捉えることも可能です)。

あまり語られないリスク②

 上記のリスクは回避する方法があります、それは単純に契約を無保証にする=シーズン途中で解雇した場合支払いをしていない部分の枠は球団は支払わなくても良い。NFLやNBAでも無保証契約をする選手も多くいるのでこのルール自体は有効です。このルールをMLBに適応すればサラリーキャップのシステムで不良債権に困ることはなくなります……と言いたいところなんですがこのシステムを導入されたところで問題が生じます。
 基本的に契約を結ぶ際に皆さんならどちらがいいでしょうか
A 全額保証の5年100M
B 2年間保証、残りの3年は保証無しの5年100M

 もしみなさんの中にBがいた場合この理論が終わるので皆さんAを選んだと仮定して、そりゃAの方が貰える額は基本多くなります。もし先発投手ならBの契約2年目で大怪我してトミージョンとなった場合解雇されてもおかしくない、こうなってしまうので無保証ベースはあまり多いケースにはならない。そしてもっと言えばスター選手は保証されても中継ぎや守備固めのような5-7Mの契約を持っている選手には保証無しのような格差を生み出す恐れもあります。こういう点はリスクと考えられるのではないでしょうか。

あまり語られないリスク③

 契約を無保証ベースに変えた上でこれはリスクともメリットとも捉えられる事なんですが解雇が増えることになります。中継ぎをそれなりに使い潰しながら無保証なので解雇、というカスみたいな投手運用をやってのけそうな球団が出てきそうですよね、レイズさん?
 解雇からのウェーバーにかけられての移籍も増えるため市場は活発になる、トレード以外の選手獲得がより容易になるというメリットはあります。それでもお互いに使い潰した中継ぎを売り合うカスのセカンドストリートになる恐れがあります。見切りをつけられた若手打者とかを上手く回収されるといいなとも思います。

あまり語られないリスク④

 最大のリスクとして「サラリーキャップを設けられても80Mくらいしか使わない球団がいる」ことです。一体どんなレイズなんだンパ。200Mに天井を設けるだけだとこういう弊害が起こります。ということで割と世間ではサラリーフロアの方を提唱してる方も多いです。仮にフロアを設けるならキャップの90%187Mになります。これ、2024だとコロラド以下15球団がこの額を満たさない、という事案が発生します。多くの球団はあと少し手を伸ばせば良いのですがタンパベイ・レイズやオークランド・アスレチックスのようなスモールマーケットの球団は収益がそもそも300M程度に抑えられてること(revenueなので支出は選手の年俸以外にも当然あります)、そしてそういう球団は200Mどころか100を超えるので精一杯です。
 これの対策としてある程度、だいたい1球団辺り150M近くを分配すること、例えば球団収益の半分近くを回収して30等分するというやり方を行えば戦力均衡のためのサラリーフロアを用意できるのではないでしょうか。

2027シーズンはどうなるか

 CBA(労使協定)の更新がある2027シーズンにはこのサラリーキャップの導入が争点になると言われています。機構が導入を試みた場合、ほぼ確実に揉めるということだけは先にお伝えします。上記のリスクは選手にとって不利になってしまうものが多いものになっています。特に中継ぎや立場が低い野手は給料のカットをガンガンされるようになります。これを選手会は認めないのは選手を守る立場として当然の考えでしょう。
 NHLではサラリーキャップ制度の導入の際に揉めに揉めて310日間のロックアウト、公式戦が全休するという事態にまで発展しました。今回のサラリーキャップも同様にそうなるリスクは当然あります(というかMLBもサラリーキャップ制度の反対で大規模ロックアウトをしていましたからね)。

それでもサラリーキャップ制度を勧めたい訳

 ここまでは自分の考察及び事実をただ語っているだけなのですが自分の中ではサラリーキャップ制度は賛成です。
 これら上記のデメリットやリスクを負ってでと推進して欲しいと思える以上に魅力的なメリットがあります。それは街にスーパースターを留めさせる力です。例えばトム・ブレイディ選手は(ゴタゴタはあれど)ニューイングランドの英雄です。今後はパトリック・マホームズ選手はカンザスシティの英雄になるしステフィン・カリーはサンフランシスコで永遠に愛される存在になれる。ニコラ・ヨキッチやヤニス・アデトクンボのように街にリングを届けてくれた存在を小さな街であるデンバーやミルウォーキーは絶対忘れないでしょう。これはサラリーキャップには名門に移籍をさせない力があってくれる、そうさせてくれると僕は強く信じています。実際にはサラリーキャップ内での移籍は可能ですがFAの選手のマネーゲームに確実に屈してしまうという結果からは遠ざかると思います。そしてそんな忠誠心を見せてくれるスターのためにフロントは全力を尽くす、こういうものを僕は見たかったんです、ポートランド・トレイルブレイザーズさん(泣)
 これがただの感情論を割り切ることは可能ですし日本人からしてみてはただ「お金を出さない方が悪い」と言い切ることも可能ですがその街に住むファンはきっとそんなことを言いません。そしてそんな小さな街で戦い続けるファンのためにもスモールマーケットでもある程度それなりにチャンスがあることを示す物差しとしてサラリーキャップを導入する事はエンタメとしても大事だと思います(ついでに野球は優勝しても7割の勝率を叩き出すのが難しいスポーツなので戦力が拮抗すると毎年どこもワンチャンが生まれるかも知れません)。

さいごに

 今回は戦力均衡について考えてみました。ガチガチに理論詰めしたりするものではなく緩く考えてみたものなので改善の余地や意見の相違は沢山あると思うのでコメントで思ったことをガンガン伝えてくれると嬉しいです。皆さん良き野球ライフを!

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