小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第2話 デジタル庁
デジタル庁は、コスモ連合国の中で、唯一メルクリウス星に設置された省庁だ。
連合国の省庁は通常、主に夜のないヘリオス星に設置される。だがデジタル庁だけはコスモ連合国の中でも抜群のコミュニケーション力を誇る住人が暮らすメルクリウスに設置されている。
デジタル技術が高くコミュニケーション力に長けていれば、物理的にヘリオスに設置される必要性もなかった。他の省庁と連携する業務は、3Dの音声付き惑星間通信を使えばことが足りる。サミットや省庁の合同イベントなどがないかぎり、ヘリオス星まで出張する事もなかった。
コスモ連合国内の各惑星間における転生があたり前になっている昨今では、デジタル庁での採用には惑星間の転生経験が必須となっていた。
コスモ連邦の惑星において数度の人生を送った経歴があるもののみ採用試験に臨める。情報管理者上級検定の保持者であればなお有利になる。
連合国国家公務員の試験は毎年高い壁ではあるが、デジタル庁は異なる惑星間のコミュニケーションに興味のある若者の間で特に人気があり、早い人は10代のうちから情報管理者上級検定に臨む。
私の転生経験は主にテラ星とプルート星が多めであるものの、家族の承諾を得て他の惑星の地上での人生経験も何度か積ませてもらっていた。
おかげで各惑星のバイブレーションの違いを認識する力はついたと思う。異なる惑星間ではテレパシーでコミュニケーションをとるのが普通だ。しかし、やはり現地特有の言い回しや表現もあるので、それに慣れるという意味でも惑星間を物理的に旅してまわったのは良い経験になったと思う。
私の勤務する情報管理局情報管理課は、デジタル庁の3階にあり、正面玄関口と反対側の中庭を見渡せる絶好の場所にあった。昼休みに中庭の休憩スペースで同期のキアやヨーストとおしゃべりしながら昼食を食べるのはいい気分転換になった。
中庭には古い大きなタブレット端末が設置されていた。これは初代のタブレット端末で、大きさも今のものの3倍近くある。製造年は不明とされているが、コスモ年代記に記載によると数億年前のものらしい。マザーコンピューターに初めて接続された端末の残りの一つとされている。
灰色の石の彫刻で、美しい淵飾りと滑らかなスクリーンで出来ている。タブレットの使用上の注意書きは今でも健在。現在この中庭に置かれたタブレットは、昔と同様に常に外気にさらされているせいか、苔と埃にまみれて薄汚れた灰色と緑の混ざった色をしている。
このタブレットをこちらで使用していたのが、現在メルクリウスチームの最古参のトリスメギストスさんだそうだ。その昔テラに転生していたトリスメギトスさんは、当時何を早まったかこのタブレットをテラの地上に伝え、現在でもかの地ではエメラルド・タブレットという名前で伝説になっているらしい。
管理課内には各惑星の担当をする10のチームがある。各惑星のスペシャリストの集団で、それぞれのチームには個性的なメンバーが集まっている。
課長はラーさんというヘリオス星出身の人。トートさんの同期で、以前はヘリオスチームの責任者をされていた。テラにも何度か転生していて、その時代はエジプトでトートさんと一緒にやんちゃをしていたらしい。
ヘリオス地区の住民は性別がなく、普段はユニセックスな服装だが、その日の気分によってフェミニンでゴージャスなドレスや、燕尾服などほとんど舞台衣装に近い格好で出社する。リーダー型の多いヘリオス地区住人の中でも尊敬を集めるラーさんは、トートさんに次いで皆の人気者だ。
私の所属するテラ星(地球)チームは、サラさんという責任者が筆頭だ。温かい人柄で、まるで皆のお母さんのような存在。サラさんはデジタル庁のあるメルクリウスで、何とかテラの時刻に合わせて勤務するためにグリニッジ標準時刻を導入した。デスクにはビッグ・ベンという時計台が置かれ、シフトの交代の時刻になるとまるでオルゴールのような鐘の音が聞こえてくる。
メンバーの一人のケビンさんはコスモにある惑星の転生回数が非常に多く、みんなから信頼され頼られる存在。フォルダーの修理などでわからないことや困ったことがあると、SEに連絡するよりもケビンさんにフォースの使い方やバイブレーションの調整を聞いたほうが早いとの噂もある。
情報課内に大勢いる色々な惑星での転生がある経験者達。通常の業務でも他のチームと一緒になって問題解決にあたることもある。転生してきた惑星の特徴がはっきりしたメンバーたちが揃う各チームか協力しながら業務を進めている。
(続く)
(これはフィクションです。出てくる人物は実際の人物とは一切関係がありません