行政書士開業に向けての準備について その3
行政書士登録までにすること・してはいけないこと の続き
行政書士の民事法務 人の死亡関係
というわけで、その2に続く「民事法務」のもうひとつのジャンル、人の死亡関係です。まあ簡単に言えば、遺言・相続ということになります。
この話は軽く済ませましょうね。
遺言に関する相談
行政書士が「できます」と言っている仕事のひとつが遺言です。
遺言書にはいろいろありますが、その方式の中にはいままさに死にそうな人やすぐにデスクの前には戻れない人の言っていることを聞き取って遺言とする特別方式遺言というのがありますが、これらは性質上行政書士の仕事ではないと思います。
普通の遺言には3種類あります。
自筆証書遺言
公正証書遺言
秘密証書遺言
です。自筆証書遺言は、自筆して印を押す一番多い方式です。公正証書遺言は、遺言者と、それを紙に記していく公証人と、公正に聞き取りが行われている証人ふたり、この4人しかいない部屋で遺言者の言うことを公証人が文章に起こして公証役場で預かる方法です。秘密証書遺言はいわば合わせ技で、自分しか知らない状態で遺言者が紙に書き、署名し封し、それを公証役場に預けておくというものです。
それぞれの特徴とか長所短所は省きますが、まず自筆証書は基本的に自分ひとりでやるものですので行政書士の出番はありません。公正証書遺言対応を謳っている事務所もありますが、公証人ありきの方法ですので行政書士が入り込む隙なんてあるはずないんです。ですから行政書士がやっているのは依頼者と公証人のスケジュール調整をして、証人のひとりになるぐらいのものです。言っておきますが、この証人に行政書士がなるべし、と書いてある法律は全くありません。公証役場に頼めば従業員などを公証人が用意してくれます。秘密証書は自筆証書と似ていますが違うのは本文に関しては代筆やワープロ打ちでもいいという点で、なので行政書士が代筆したがるわけですね。念のためですが署名は自筆ですよ。
というわけで遺言に関しては行政書士がやる必要はありませんし、他の民事法務と同様単価も安いですし紹介の連鎖で入ってくる可能性は低いですし、元が取れる仕事とは思えません。
相続に関する相談
行政書士が「無料法律相談会」の類いを開くと一番多い相談がこれなんですが、皆様もうご想像できるのではないでしょうか。特定の人に対して有利になる法律構成なんていうことを話してしまったら弁護士法違反です。できることは、民法に定められた相続割合について説明をする程度にとどまるでしょう。
というわけで、やっぱり民事法務ってギリギリの割にお金にならないのです。
「専門性を打ち出せ」は事実か?
行政書士開業講座の類でやはりこれもよく言われているのですが「専門性を打ち出せ」です。
あなたはこれを言われたらどうしますか?多分、自分の得意なことを専門性として打ち出していこう、なんて考えてしまうのではないでしょうか?
でも、はっきり言いますけど、あなた自身いま他人を驚かせるほど強い専門性ってありますか?せいぜい「自分はこれが好きだから、これを専門として打ち出していこう」と考えるぐらいじゃないですか?
その程度の強みを「専門」として打ち出してしまうのは「好きな仕事以外はやりたくない」というわがままでしかないんです。
昔、あるところで出会った人でした。行政書士として、合格はしているけれども開業はまだという人でした。行政書士になる前は葬儀屋さんにずっと務めていたそうで、それゆえに飾りの花などがいかにぼったくり価格か知っていると。だから行政書士に登録して開業したら、遺族の方が葬儀屋さんと話し合う席に同席して、適正価格まで値切るお手伝いがしたいと、そう言ってました。
このことを知り合いの弁護士に話したら「交渉代理として非弁行為認定される、という結果でほぼ決まりですね」とのことでした。
行政書士開業に向けての準備について その1でご紹介しました社会経験が数ヶ月のアルバイトだけの29歳行政書士さんですがこの専門性に関してもぶっ飛んだ発言をしていました。
ザックリ彼の経歴をまとめますと、上場企業に勤務しているお父さんと、県庁の幹部の娘といういいところの令嬢であるお母さん、その間に関東某県で生まれたのですが、何をしたのか知りませんがお父さんが独立起業、おそらく失敗したのでしょう、離婚してお母さんの地元に転居することになったらしいです。まあ田舎あるあるでヤンキーの存在感が強く、ずっといじめられ続けて、それで地元の無名大学に入学、例のアルバイトをしたりして過ごしながら、三半規管に影響が出る病気に罹患して喋ることも食べることも立っていることすら難しい病気にかかったと。それが原因で大学を2年次で辞めたらしいんですね。ネットで調べると「最も重篤なケースではメニエル病になることもある」みたいなことは書かれていますがこの病気単独で「喋ることも食べることも立っていることすら難しい」なんて説明しているサイトは見つかりません。何よりこの人、元気なときには普通に街中を歩いたりしているのに、都合が悪くなると重症化するんですよ。そして記念受検も含めれば5回目の受験で行政書士に受かった、そんな彼でした。
で、彼が打ち出した「専門性」が何だったかと言うと、まず子供のころいじめられた経験があるから「児童問題専門」、両親の離婚を経験したから&友達だと思っていた男にち●こを触られて痴漢に遭う女性の気持ちがわかったから「男女問題専門」、新興宗教の信者から勧誘を受けたことがありそれを断ることに成功した経験があるから「宗教問題専門」…。
そんな薄い根拠で専門家を名乗るな!!!!!
って思いません?特に最後の宗教問題専門は酷いですよ。話をよく聞いてみたら、合格後登録前、開業準備をしていたころタクシーに乗ったら運ちゃんがいろいろ聞いてきたので行政書士開業準備中であることを話したらしいんですよ。そしたら司法書士事務所の人に紹介してあげるとか何とかそれらしいことを言い始めてだんだん宗教の勧誘の方向に話が流れていき、車はもう自宅前に着いているのにアサッテの方向に連れて行かれて、その運ちゃんの息子を名乗る男性と握手までさせられた、そこまでされても逃げ切った!というのですが…。
普通はそこまでされるまでの間のどこかでそのタクシーから降りるわ!
一般人よりスキルの低い専門家という非常に珍しい存在が爆誕してしまったわけです。ついでに言うとそのタクシー会社に苦情を入れるために内容証明郵便を出そうかと思ったそうで(結局出さなかったらしいですが)民事法務志向の行政書士がよく使うのが内容証明というツールではあるんですが、このケースで内容証明郵便を使って何かご利益はあるんですかねえ?電話で怒鳴った方が絶対有効だと思いますけど。
本人には悪いですが私はこう想像しています。親が離婚で田舎に引っ越して、そこで孤独な少年時代を過ごしていたころは「親の離婚と引越がなければ俺はこんなもんじゃない」、病気になってからは「病気がなければ俺はこんなもんじゃない」とずーっと思ってきて、ティーンエイジャーのころまでには済ませておかなければいけなかったはずの適度な挫折を経験せず、子供のころには大抵誰もが持っている全能感を冷凍保存したまま29歳になってしまったんでしょうね。なーんにもない人生の中に起こった出来事は両親の離婚とイジメと友人による痴漢もどきと新興宗教の勧誘、これだけ。だからそれ以外の出来事は人生にないんですよ。だったらそれを専門にしようという発想に至るのも理解できます。共感はしないけど。
まあ特殊な事例ですので詳しめに話しましたけど、開業講座の類で「専門性を打ち出せ」と言っているのを真に受けて「私はこれが専門だ」なんて言っちゃうのはこの特殊な行政書士さんを何倍かに希釈した発想ですよ。
「なんでもやります!」最初はそう言って下さい。まあ実際にはなんでもやるというわけには行かず、例えばこれは○○士以外が書いたらいけない書面だとか、そういうものが持ち込まれたりもするでしょうが、それは丁寧に説明した上でお断りして下さい。その専門家と人脈があり紹介できればより良いでしょう。
「なんでもやります」の方向性にもいろいろあるでしょうが、私は役所に行って「●●申請の手引き」的なパンフレットを片っ端からもらってきた上でそれを熟読し、その後に中小企業の社長さんをターゲットにして人脈をフル動員して営業をかけ「この手続きできる?」なんて聞かれたら「できます!」と言うのが一番良いと考えています。たとえ何も知らなくても。知らないことは恥ではありません。誰だってはじめは何も知りません。だから、書面を書いていてわからないことがあったら、役所に聞きに行くんですよ。理解できたら事務所に戻り続きをやって、わからないことがまた出てきたらまた役所に行く。20回でも30回でも、労を厭わず役所に出向いて下さい。本来なら、それは依頼して下さった社長さんかその従業員のやるべきことです。それを代わりに引き受けるんです。行政書士の商品とは、その手間と時間の節約です。
そんなことをしているうちに、人より詳しい分野というのが出てくると思います。そこまで至って始めて専門性を打ち出せば良いんです。繰り返しになりますが、いきなり大した知識もないのに「●●専門」を謳ってしまうことは、それ以外の仕事はやりたくないという意思の表明です。ド新人が言っていいことではありません。
「事務所のホームページは立派なものを作れ」は事実?
これは既に述べていますのでさらっと行きましょう。はっきり言います。ホームページなんて1ページのもので構いませんし、なんならなくても構いません。行政書士が狙うべき最高のターゲットは、誰に頼むかをWeb検索して決めたりはしないからです。
私あんまりテレビは見ないんですけど、月1の定期通院の時には見るともなしにテレビを見ています(本読んでる間にチラッと見るだけですけど)。
なんか弁護士法人とか司法書士法人のCMがたくさんありますね。平日の昼間だけなのかな。
行政書士に限らず、弁護士も司法書士も、ホームページを含めてあまりに広告が煌びやかなところはやめておいた方が無難だと私は思います。
本当にまともな士業者のところには、煌びやかな広告なんて打たなくてもまともな仕事が入るんですよ。
過払い金返還請求という、ほとんど定型ワンステップで終わる業務がありますが、煌びやかな広告を打ってそういう簡単に終わるけれども単価は安い仕事を大量にこなして、それで大きくなったのがアデ●ーレとかベリ●ベストです。
「司法書士法人も広告よく見たなあ」と思ったんですが思い出せない、それで考えたら司法書士法人の過払い金はYouTubeでよく見たんでした。「スキップ」の表示が出るところを凝視して出るなり押してますので、事務所名が記憶に残らなくて当然です。
さて「開業講座の類に騙されない」を語る第一歩、開業講座が語りがちな三箇条を覆している間にずいぶん長くなってしまいました。
次回からは開業講座のもっとえげつない部分に踏み込んでお話をしたいと思います。
とりあえず今日はこの辺で。
最後にやはり宣伝です。
私はココナラで行政書士に関する相談を承っております。
↓30分バージョン
↓60分バージョン
小説なんかも書いております。
こちらもぜひよろしくお願いいたします。
今日もありがとうございました。