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「総務不要論」 裏方と言われるのを嫌いながら、表に出ない人々の巣窟
「1円も稼いでいないのにボーナスまで出るの?」
何かと風当たりが強い間接部門の中でも、総務部のそれは別格です。
本当に要らないか?
主な間接部門でいえば、例えば経理や人事は、その部署名から担当業務内容が容易に想像できます。経理、人事、なんとなくでもやっていることがわかりますし、組織に必要な気がしますね。
「総務」
まず、「何やってるの?」から始まります。総務は主に…、主に……、主に「色んなこと」をやっています。だから「総」務なのです。やっていることが「コレ」と言いづらいところが、総務にとっては大きな痛手だと言えます。
「〇〇チョウ」ならば、それが蝶々だとわかります。姿かたちが想像できます。「○○カブトムシ」なら、だいたい、あんな感じでしょう。
「バイオリンムシ」
ちょっと想像できませんね。バイオリンのような音色のキリギリス的な虫を想像しましたが、実はまったく違いました。ぜひググってみてください。確かに、バイオリンムシです。
総務は、名前から具体的にやっていることが連想されないだけで、その業務内容は多岐にわたります。その業務内容は、組織の業務分掌によってまちまちです。中には、業務分掌によって「総務部」が存在しない組織もあります。
逆に言えば、どの部署にも属さない、あるいは、どの部署にも共通する業務を一手に司るのが「総務」、だと言えます。総務部がなくなってしまえば、その業務を直接部門も含めた各部署が負担することになります。
要るか要らないか、で言えば、答えは「どちらでもいい」ということになりますが、あった方が合理的だと考えられます。
なぜ不要論まで囁かれるのか
実際、総務部がなくなったら大変です。各部署に細々とした業務が、一気に増えることは容易に想像がつきます。
なのに、なぜ「不要論」まで囁かれるのでしょう?
他部署、特に直接部門からは、こんな風に見えているのではないでしょうか?
その業務、本当に要る?
生産性0の業務に、どれだけ時間と金を掛けているの?
さっさとやって、こっちを手伝ってよ
実際にやっていない人にとっては、その必要性や苦労はわからないということもあるでしょうが、要約すれば、こうなると考えられます。
「そこは合理的にやってくれよ」
総務部がやっている業務の全てが無駄ではないことは理解でき、総務部の必要性は感じてはいる、だからサラッとやって欲しい、ということです。
どうもそこが、客観的にはサラッとやってるように見えないのではないでしょうか。
本当に必要な業務だけをサラッとやってくれればいいものを、わざわざ難しくしてみたり、無駄なことばかりやって足を引っ張るぐらいなら、「不要」だということでしょう。
間接部門の役割とは
実は、これが非常に重要です。
間接部門は、あくまでも直接部門の後方支援です。
納得いかない方々もいらっしゃるでしょう。確かに、間接部門は組織の運営に不可欠な重要な業務を多く担っています。
ですが、どんなにキレイな組織運営をしたところで、何も付加価値を生み出さないことは事実です。運営は成り立てど、経営は成り立ちません。
逆はどうでしょう。
経営が弱く、運営が強いとすれば、運営のための経営になります。つまり、今ある組織を存続すためだけに存在する、コンプレイセンシー(complacency=ある程度の目標を達成し、それ以上の成長を望まないこと)な組織です。
おや?
日本の企業そのものではないですか?
後方支援や裏方はゴメンです
高い生産量を誇るものの生産性が向上しない日本においては、多くの企業が間接部門を無駄に肥大化させてしまっているという実態があると考えられます。
とはいっても、この根拠を示す具体的数値はありません。“直間比率”の国際比較ができれば示せるかもわかりませんが、直間比率は人数や人件費の比率、つまり人の規模を計ることはできるものの、業務の規模を計る指標にはならないため、正確ではないかもしれません。
そもそも、間接部門の業務の規模が妥当かどうかという判断指標がないことが問題で、だからこそ間接部門は容易に肥大化してしまうのでしょう。
日本の多くの企業がそうなってしまっていることは、全体の生産量の高さと生産性の低さが裏付けています。
これは「間接部門は、あくまでも直接部門の後方支援」という間接部門の役割を、対等であるか、むしろ逆であるかの如く歪めてしまっているために起こっている事実です。
「間接部門は、あくまでも直接部門の後方支援」
実際そういうと、カチンとくる人が少なくありません。もちろん、カチンとくるのは間接部門の人々です。確かに、一生懸命やっているのに「お前は後方支援だ」と言われれば、ちょっと腑に落ちないところがあるかもしれません。
でも、後方支援や裏方の仕事が決して劣っているとか、意義が薄いと考えるのは大きな誤りです。広く見れば、世の中のすべての仕事が「裏方」です。
間接部門が無駄に肥大化する不思議
間接部門には、業種や業態に関わらず共通する業務が多く存在します。自分の会社が給与計算や伝票処理をやっているように、隣の会社も、そのまた隣の会社も、同じような業務が行われていることでしょう。これは今に始まったことではなく、大昔からそうでした。
真っ先にアウトソースによる合理化が考えられます。委託先には高い需要が見込まれます。
隣の会社、その隣の会社、そのまた隣の会社がそれぞれどんな業種であれ、近隣で間接部門の合弁事業でも立ち上げれば、大幅に間接部門の業務を合理化できます。「東海国立大学機構」のような形も考えられます(本来は教学上の目的があるのでしょうが)。
しかし実際は、それほどアウトソースされることもなく、合弁会社が次々と立ち上がる様子もなく、多くの組織が依然として間接部門を抱え続けています。昨今、多くの企業がバックオフィスの業務を支援するSaaSの活用を始めていますが、裏を返せば、それは全国の企業が同じ機能を使ってできる業務だということです。
それでも間接部門は残ります。残るばかりか、無駄に肥大化し続けています。
全国の企業が、同じようことを、独自にやり続けなければならない相当な理由があるのでしょう。
間接部門の言い分
よく、企業を神輿(みこし)に例えて、担ぐ人、傍観する人、ぶら下がる人がいる、のようなスピーチのネタがありますが、傍観する人、ぶら下がる人にもそれなりの言い分があるのでしょう。
間接部門が無駄に肥大化する言い分も、きっとあるに違いありません。
先ほどのカチンとくる人は、「ものすごく煩雑な業務を、自分たちが一生懸命やっている」、こう言うでしょう。
業務を簡素化することは難しいかもしれませんが、煩雑にすることは簡単ですし、煩雑そうに見せることも簡単です。幾らでもできます。間違いなく一生懸命やっているのでしょうが、何のために一生懸命やっているのかが問題です。自分たちのためではないですか?そもそも直接部門の人々のために一生懸命やっているなら、そうカチンとは来ないはずでしょう。
間接部門は、直接部門を傍観することも、神輿を担いでいるフリをすることも容易にできます。そうしたところで生産量にはほとんど影響しません。ですが生産性には大きく影響します。
どんな理屈を捏ねようと、直接部門に比べて間接部門は「楽」なのです。
別に「楽」なことをやることが悪いことではありません。楽なら楽なようにサラッとやれば良いものを、わざわざ大変そうに見せかけるところが問題なのです。間接部門が生産性ゼロなのは仕方ない、“当たり前”のことですが、半ば自己保身のような理屈でゼロどころかマイナスにしてしまうから、「1円も稼いでいないのにボーナスまで出るの?」と言われてしまうのです。
さらに言わせていただくと、直接部門の業務は自分の利益だけのために遂行することは不可能です。やれば嫌でも組織や社会の利益に繋がります。直接部門の人々は、そのことを理解しています。
まとめ
直接部門の具体的な生産活動に係る業務は組織ごとに異なります。生産しているものも様々です。一方で間接部門で行われている業務は「全国共通」であるものが多くあります。法令に由来する業務は全国共通です。
組織ごとに異なる「生産管理システム」よりも全国共通の「労務管理システム」の方が圧倒的に多く売れる見込みがあります。各ベンダーは間接部門の業務合理化に係る製品やサービスを次々に開発し、これからも開発を続けるでしょう。その先には、社会全体がその業務自体を取りまとめる発想に転換されることも考えられます。同じ方向性であるためです。
残念ながら、総務は大幅に縮小され、よもすれば不要になりつつある、と考えられます。だからと言って悪あがきをすることは「無駄」を生み出してしまいます。「1円も稼いでいないのにボーナスまで出るの?」と言われてしまいます。
そうした中でも「いつもありがとう」と言われるような総務は必ず残るでしょうし、それこそが総務の本来の姿ではないでしょうか。
直接部門も間接部門も組織の中の「役割」であり、直接部門は成果が見えやすい一方、間接部門は成果が見えにくく、油断すると神輿担ぎを傍観する人やぶら下がる人の巣窟になりかねません。
間接部門は直接的に付加価値を生み出さない部門です。そのことは“当たり前”で、付加価値を生み出さないからと言って無駄というわけではありません。付加価値を生み出さないからこそ業務は最大限合理的に進めるべきです。ただし、直接部門の後方支援という大きな役割を担っているとこを忘れてはいけません。直接部門の後方支援によって生産活動に大きく寄与できる部門です。この機能を果たさない間接部門は「無駄」、不要です。
従って、間接部門の業務の合理化だけを進め、それを間接部門の実績とするのはまったくの「御門違い」です。生産活動に何も影響しない無駄です。神輿担ぎの傍観やぶら下がりを助長するだけの、当事者が楽をするための行為に過ぎません。あくまでも、組織において間接部門が本来の機能を果たすべく、業務の合理化と機能改善が両輪で求められ、それを実現するのが「業務改善」です。
そろそろ本気の業務改善を始めませんか?