いつか結婚しても
バイトに行くまでの短い道のり、必ず音楽を聴いている。テキトーにシャッフルボタンを押すと、My Hair is Bad (以下マイヘア) の『いつか結婚しても』が流れ出した。最近はこの曲を全く聴いていなかったので、新鮮さを感じながらも、複雑な気持ちだった。
高校2年生の頃、私は当時の彼氏と初めてカラオケに行った。彼は服や音楽のセンスが良くてお洒落で、運動神経も良く、皆に優しい素敵な人だった。私の知らない世界を一緒に居ることで魅せてくれる、そう思って私から猛アタックをした末に、ようやく付き合えた。私は彼のことが大好きで大好きでたまらなかった。
お互い部活が休みだった日に、放課後デートをすることになった。普段しないリップを付け、スカートを少し折って短くした。浮かれていた。2人で一緒に帰り、どこも行くところがなかったのでカラオケに行くことにした。歌うのが恥ずかしい、と照れていた彼を今でも忘れられない。
私は、かっこいい音楽を知っている彼に、かっこいい音楽を知っている子だと思われたくて、デンモクの月間ランキングには載らないような、可愛くてお洒落な曲をチョイスして歌った。
「あ、これ知ってるんだー。いいね」と言われて嬉しかった。
彼は私の知らない曲を入れた。初めて聴いた彼の歌声は素敵だった。歌も上手く歌えてしまうのか。更に大好きになった。私は彼が歌った曲を全て自分の音楽アプリにダウンロードした。
2時間ほど経った時、彼が「塾に行かなければならない」と言った。今日はデートだから他の予定はないものだと思っていた。大学受験を控えていたので、塾に行くことで会えなくなるのは仕方がない。けれどその日は塾に行ってほしくないと思ってしまった。
「まだ行かないで」と言った。
「じゃあもう少しだけ」と彼が言った。
その時に入れた曲が『いつか結婚しても』だった。
彼の声と心がギュッとなる歌詞が相まって、涙が出そうになった。
普段から、私のことを想ってくれているような言葉は言ってくれなかった。それを沢山欲しいと思ってしまっていたけど、この曲を聴いて、欲しがらなくなった。
想ってくれているから言わないのか、と理解した。
私のためにこの曲を歌っているということが嬉しかった。
歌い終わり、じゃあ塾行くわ、と言われても離れるのが嫌だった私はとにかくグズグズした。(なんて面倒な女なんだ…と今なら思える)
すると彼は私にキスをして、帰ろ?と言った。あ〜〜〜私この人のこと大好きだ、と思った。
素直に帰った。
結局その後すぐ振られることとなる。きっと私からの愛がしんどかったのだろう。結婚どころか、ちゃんと長く付き合うことすらできなかったが、今となっては笑い話だ。あんな曲歌っといてすぐ振るんかい!と喋ると、呑みの場では爆笑の嵐。(笑)
でも彼から教えてもらった沢山のかっこいい曲たちは今でも聴いている。
同窓会が開かれ、つい最近その彼に会うことができた。2人で話す機会があった時に
「今はすごく人気だけど、マカロニえんぴつがまだそこまで有名じゃなかった時に、カラオケで『恋の中』歌ってくれたよね。あんな前から知ってたのすごいなって思ってたんだよ。テレビとか見てマカロニえんぴつが出てくると、たまに思い出すんだ」
彼は昔と変わらず、素敵な人だった。
でも私は結婚しても、愛の言葉は欲しい派だ。