読書 1月19日 小倉ヒラク『日本発酵紀行』(角川文庫、2022年)
小倉ヒラク『日本発酵紀行』(角川文庫、2022年)を読んで付箋を貼ったところの記録。
阪神百貨店、食祭テラスで何度もご一緒させて頂いている小倉ヒラクさん。とにかくお話が面白いし、新しいことに気付かせて頂けるお方です。
フットワークの軽さで、コミュニケーションの連鎖がおき、知的好奇心の扉は次々に開かれ、そして奇跡も起きる。
そんな事例をさらっと一般人でもわかるように、例えを使って説明してくれますが、その例えがこれまた秀逸なんです。
発酵も講談も日本を代表する伝統文化。
色々と通じるところを感じました。
「旅とは移動の連続だ。ある地点から別の地点へ。振り返ってみれば、旅先での用事よりも多くの時間を割くのは移動という行為。出発地から目的地までの無為の時間が旅の本体であるとも言える。
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この移動に伴う体験が、旅の身体感覚を磨いていったのではないだろうか。土地ごとのテクスチャーを認識し、風の流れを読み、季節の変遷を感じ取る。
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つまり、道を歩くということは過去の人々の感覚を追体験するということだ。」(100頁)
「生存に必須ではないが、ないと生きている気がしないものを「文化」というのではないだろうか。
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最初は食べ物を腐らせないため、少ない食材で栄養を補うためのサバイバル術として出発した加工技術が発展し、やがて焼きまんじゅうやくずもちのように、日々の楽しみとしてのレシピに昇華されていく。生きる工夫が楽しむ工夫になり、楽しみを求めて集まるコミュニティが文化の母体となる」(138頁)
「酒は日本人を富国強兵の夢に酔わせ、その夢はやがて色褪せていった。」(147頁)
「高度経済成長の時代は、大きくすること、均質化することが正解だった。しかし経済の成熟を迎え、人口が増加から減少に切り替わった現代では、いったんダウンサイジングして売上の「規模」ではなく、利益の「価値」を大事にしていくことに未来がある。むやみに成長を求めるのではなく、まず原点を見つめ直す。」(149頁)
「時代は常に「自分込み」で動いている。流れは「起きる」だけでなく、「起こす」こともできる。そのためには、まず地面に降りてくる。一人から始める。始めたことを仲間とシェアする。そのプロセスを楽しみことこそが、「今を生きる」ということだ。」(160頁)
「厳しい冬を生き延びるために、千の手間をかけ、千の知恵をこらす。」(197頁)
「この列島に生きる人たちの多くが、足りないものばかりの、厳しい環境で生きてきたからなのだ。制限された世界を生き延びるために、無名の人々が何代もかけてその土地にあるものと、目に見えない自然の力を組み合わせる方法をアップデートさせていった。その試行錯誤のアプローチに多様性があらわれる。
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不思議なことだが、「何でも自由に使うことができない」ということが、創造性を生み出す。
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「無い」ということが「有るようにする」という意思を生む。その意思の発露が、生きるということだ。」(207頁)
「いかに文化を未来に受け継いでいくのか。ここには大事なヒントがある。伝統の本質を「様式」だと捉えると文化は変動の時代を生き抜くことはできない。「様式」ではなく「発想」、スタイルではなくコンセプトこそが文化の核なのだ。」(212頁)
「ローカル文化が消えるか生き延びるかを決めるのは時代の必然ではなく、個人の創造性。かつての役割を終えたならば、新しい役割を発明すればいいのだ。」(213頁)
この本の中を読めば、紹介されている全ての発酵食品が食べたくなります。
そして、その土地に行きたくなります。
そこに人が生きてきた証、それがその土地にしかない発酵食品であり、その中に歴史も文化も、人々の会話も息遣いも含まれていることを感じました。