あっという間に読める、超ショートファンタジー「アラスカを買った男」
あっという間に読める、超ショートファンタジー。
旅先での不思議な出会いに翻弄される女は・・・
「アラスカを買った男」by夢玉
「アラスカの土地は、2セントで1200坪買えたんじゃよ」
アラスカの氷河見物ツアーを待つ港の桟橋で
レトロなファンションに身を包んだ、奇妙な老紳士が話しかけてきた。
『何かの売り込みか宣伝かしら・・・』
一瞬面倒くさく思ったけど、どんな話でも、
取りあえず聞くのが旅のルールだ。
「1867年。アメリカは当時ロシアの領土であったアラスカを、
720万ドルで購入したんじゃ。
この広大な土地を720万ドル。たった720万ドルじゃ。
1エーカー1200坪あたり2セント。5万坪でもたったの1ドルじゃ。
それなのに、アラスカ購入を決めたスワードは叩かれまくった。
『馬鹿でっかい冷蔵庫なんか何に使うんだぁ!』
とそれはもうひどい言われようじゃった」
黙って聞き流しても良かったが、少しだけ興味のあるふりをした。
「スワードって?」
老紳士は、遠い異国から来た観光客である私に、呆れながらも親切に教えてくれた。
「知らんのか。
国務長官のウィリアム・スワードじゃ」
「は、はあ」
「偉大なるスワードは、厳しい批判にさらされたが、
反論や言い訳は一切せず、5年後に亡くなった」
老紳士は、心から残念そうな顔をした。
「不幸な方だったんですね」
「不幸? とんでもない! それから25年後の1897年、
スワードの評価は一変したんじゃ」
スワードの評価のように老紳士の表情も一変した。
「アラスカで金鉱が発見され、
一攫千金を求めるツワモノどもがアラスカに押し寄せたんじゃ」
「ゴールドラッシュですね!」
「そうじゃ!」
「アラスカを買ってよかったんですね」
私は心からそう思った。
ゴールドアラッシュが去った今でも
アラスカは、美しい自然という財産で多くの観光客を集めている。
私はアラスカの空気を満喫するように大きく深呼吸をして、周りを見渡した。
すると、港に掲げられた観光看板が目についた。
『スワードの日
毎年3月最終月曜日。アラスカ購入の
英断を記念して制定された』
「あ。おじさん。
スワードの日っていうのがあるんだね」
振り返ると桟橋に老紳士の姿は無かった。
「あれ? おじさん?」
私は老紳士を探し、もう一度港の観光看板を見返した。
「あれれ? おじさん・・・え? まさか」
そこには、ウィリアム・スワードの名前と共に
先ほどの老紳士の姿が描かれていた。
おわり
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