「無残やな・・・」風と共に去ったものは。
それは一瞬の出来事だった。
友人たちと遊びに行った帰り。
「トイレに寄るから先に行って良いよ」と別れた地下鉄○○駅。
用を済ませて、ホームに降りた時、「もしかして、まだいるかな」っと
思ったのが失敗の元。
友人たちの姿を確認しようと、上りホーム側を覗き込んだ時の事である。
タイミング悪く反対側の下りホームに列車が入って来た。
少し頭を下げ気味にしていたのと、思いがけない突風で頭に乗せていた帽子が飛ばされてしまったのだ。
あっと思う間もなく、帽子は線路の上まで転がっていった。
しまった!
少し大きめで飛ばされないように気を付けていたのだけど、油断した。
茶色いフェルトのクローシュを少し変形させたような帽子で
お気に入りだったのに。
すぐ手の届きそうなところにあるが、無断で降りる訳にもいかない。
地上階に近い改札まで行き、駅員さんに事情を伝えた。
駅員さんは、すぐに大きなマジックハンドのような道具を持って出て来てくれた。
しかし、駅員さんとホームまで降りて来た時には、帽子の姿は無かった。
ホームまで往復する間に、列車が通過して、その勢いで線路の先の方まで吹き飛ばされたようだ。
「終電後にチェックしてみますから、帽子の形と連絡先を教えてください」
親切な駅員さんは、詳細にメモを取り、翌日朝に連絡すると言ってくれた。
次の日の朝早く、○○駅から連絡があった。
「見つかりました。でも・・・」
駅員さんの声が暗い。
おそらく列車に轢かれたのであろう、かなり汚れて傷もついている、と言う。
それでもお気に入りの帽子だから、引き取りに行くと告げると、○○駅で預かっておいて直接取りに来ても良いが、拾得物として手配すると、地下鉄飯田橋駅にある「お忘れ物総合取扱所」で受け取れるという。
そこで受け取る方が、こちらとしても都合が良いので、お願いすることにした。
数日後、飯田橋のお忘れ物総合取扱所に行って、名前を伝えると。
駅員さんが、帽子を倉庫から持ってきた。
見覚えのある形と色。間違いなくお気に入りの帽子だった。
だが・・・。
「轢かれちゃったんですね・・・」と駅員さんが残念そうに呟いた。
とりあえずお礼を言って受け取った。
すぐさま鞄に仕舞い、家路を急いだ。
途中で見るだけの勇気は無かった。
家に帰り、恐る恐る鞄から取り出し、じっくりと見直してみる。
ダメージは大きい。
つばには何か所も切れ目が入り、油汚れも全体についている。
まさに轢死状態の帽子である。
「無残やな」
と思ったが、幸いなことに、頭に被る部分はほぼ無傷。
「味があるよ」
と言ってくれる人もいて、少し整えて洗ったら、今後も被ってみる事にする。気に入ったものは大事にしたい。
こうなったら、帽子に合わせて、ダメージジーンズでも履いてみるか・・・。
逆にファッションの幅が広がるかもしれない、と少し明るい気分になった。
おわり
今回、地下鉄で物を落とした時の対応を知ったので、
ついでに書き記します。
まず、ホームから下、つまり線路の上などに落ちた時は
絶対に線路に降りてはいけない。
必ず駅員さんに来てもらって拾ってもらう。
もし見つからない場合は、駅員さんが終電後見廻ってくれるので、そこで見つかるかもしれない。
見つかった時は、その駅で受け取るか、「お忘れ物」として
地下鉄南北線、飯田橋駅の改札外にある「お忘れ物総合取扱所(営業時間は9時~20時・年中無休)」で1週間程度預かってくれます。
その後は、警視庁の遺失物係に渡されるそうなので、
その前に受け取りに行く方が手軽でしょう。
警察で一から説明し直すのも面倒ですからね。
今回は落とした場所がはっきりしていて、帽子の特徴も連絡先も伝えてあったので、受け取りはスムースだったのですが、通常は確認の為に時間がかかるようです。
特に、傘、手袋、マフラー、鍵、アクセサリー、眼鏡、帽子などは数も多く、電話では確認が難しいので、
直接飯田橋駅に行って確認した方が良いでしょう。
それから、受け取りには、身分証明書が必要なので、お忘れなく。
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