「思い出を錆びつかせろ」・・・廃墟を巡る保父の思いは。
「思い出を錆びつかせろ」
先年亡くなった祖父は、晩年孫の私を連れて
世界中の城郭の廃墟を巡るのが趣味だった。
穏やかな市街地の雰囲気とは違う堅牢な造りの城壁。
かつて敵の襲撃に備えた砲台。
だが、それら全てがほぼ廃墟のように朽ち果てているものばかりであった。
私が小学校に入るまでの間であったが、
おそらく100カ所ほども巡ったであろう。
子供だった私は最初、元軍人だから城が好きなのだ、と思っていた。
軍人としての経験を忘れたくない、現役時代の思い出を大事にしているのだと。
しかしそれが間違っていると徐々に感じ始めていた。
祖父はそれらの場所に行っても、記念写真一つ撮るわけでもなく
私の顔をちらりと見て、すぐ帰ろうと言い出す。
場所によっては、山道を何時間も歩いてようやく
たどり着くような城郭もあるのにやっぱりすぐに帰ろうとするのだ。
「もう少し見ていたいな」とか、
「もっとカッコいい城も見たいな」と不満げな顔をする私を、
祖父は微笑んで見つめては、同じように
「さあ。帰ろう」というのである。
そして、小学校に入学する年の春。
とある港にある巨大な城郭を訪ねた時、
私は城郭を巡る理由を聞きたくなった。
「おじいちゃん。どうして壊れたお城ばかり探して歩くの?」
その質問を聞いた途端、父はかつてのようにすっくと背筋を伸ばした。
そして、一つ一つの言葉をしっかりと伝えるように語り始めた。
「よく見なさい。そして、心に焼き付けるのです。
写真やビデオではなく、自分の目で見て、心に刻むのです。
錆びついた戦争の道具こそ、平和の証なのだと」
歴史を語るモニュメントが、夕日に照らされていた。
おわり
日本では珍しいですが、世界各地の城郭遺跡には、
砲台や大砲が残されただとして残されています。
それは平和の時代にこそ感じることができる喜びでもあります。
再び錆びを落としたり、新たな武器を作ることが無いことを
祈り続けための、記念碑なのです。
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