「共鳴」・・・ホラー。とある姉妹が考えた事とは?・・・心臓が悪い人はご遠慮ください。
「ねえ、幼稚園の時、ぬいぐるみを取り合って、結局バラバラに壊しちゃったの、覚えてる?」
エミの声が、狭い浴室の中にこだました。
「覚えてるわよ。お姉ちゃんがアタシのポンちゃんを持ってこうとした時でしょ」
アユミは、滑りそうになりながら、浴槽の中にいる姉に鋸を渡した。
エミはちょっと不満げに声を上げながら、鋸の歯を確かめた。
「ありがとう。でも、ポンちゃんは最初アタシに買ってきてくれたのよ」
「嘘よ。アタシのクリスマスプレゼントだったのよ。お姉ちゃんはピンクのランドセル貰ったじゃない」
「あれは次の年の春でしょ。クリスマスはポンちゃんだったの。あ、そっち押さえてて」
「え、これ? うん。ポンちゃんがお姉ちゃんのだったら、アタシのは何だったの?」
「覚えてないわよ、あんたの貰った物なんか。ほら、アレ、青い鉛筆削りだったんじゃない。削り方が変えられる奴、あんたの部屋にあったじゃない」
「鉛筆削りな訳ないでしょ。父さんも母さんも、そんなに勉強熱心じゃなかったし、そもそも幼稚園児に鉛筆削りは無いでしょ。あ、そこ、少し浮かした方が切りやすいわよ、きっと」
「こう?」
「もうちょっと下から、カニの足取るみたいにやってみたら? で、ポンちゃんがどうしたの?」
「あの時もさ、ポンちゃんの腕が千切れて、中の綿が飛び散って、後片付けが大変だったな、って思い出したの」
「そうね。お母さんに叱られて、二人でべそかきながら腕と胴体持ち合って・・・」
「ふふふ。『お母さん、ポンちゃんを直してください』って、揃って頭を下げたのよね」
「そうそう。喧嘩してる時は憎らしくって仕方ないんだけど、結局最後は二人並んでお母さんに叱られてた」
「進歩しないわね。私たち。でも、邦男さん痩せてるから助かるわ、もっともそこがタイプだったんだけど」
「ワタシは本来のタイプじゃなかったんだけどね。優しさに負けちゃったのかな」
「だから。アユミが優柔不断だから、こんな事になるのよ。そもそもアタシが先に付き合ってたんだからね」
「紹介された時には、ただの友達って言ってたじゃない」
「普通そう言われても、手は出さないでしょ」
「だってクニちゃん、アユミちゃん可愛いって言うんだモン」
「彼女の妹に対する社交辞令って分かんないの。それにもしかしら彼氏だってこと隠してるかもって考えて、先にアタシに確認するでしょうよ。ホントに! あ、取れたかも。ホラ、アユミ、愛しの『クニちゃん』の腕、引っ張って」
「イジワル」
アユミは言われるまま邦男の右腕を引っ張り、エミは肩口にのこぎりを当てて最後の筋を切断した。
「あ~あ。こんなんなっちゃって、ホント、ポンちゃんみたい」
「でしょう。だからアタシ思い出しちゃってさ」
「今度はお母さんに繕ってもらう訳にはいかないもんね」
「繕われても困るわよ。又取り合って喧嘩するのがオチでしょ。あとであっちも掃除しなきゃいけないんだからね」
エミはキッチンに繋がる廊下を、顎で指した。
浴室から続く血の跡の先に、割れた食器や調理道具が散乱している。
「分かってるわよ。何度もやってるんだから。でぶっちょの金井くんの時もちゃんと手伝ったでしょ。あの時はお姉ちゃんが刺しちゃったのよ。アタシが先に付き合ってたのに」
「はいはい。失礼いたしました。でもカッとなると、やっぱり包丁持って突っ走るのよね。あの時のアユミの気持ちが良く分かったわ。ほれ、次は足行くわよ。くるぶし持って・・・」
好みが正反対なのに、相手が持っているモノは欲しくなる。
喧嘩ばかりしていても、非常時には冷静に一致団結する。
エミとユミは幼い時から、そんな風にして過ごしてきた。
そして今も、二つの事柄で同じ考えを持っている。
一つは、「浴室に運んだ邦男の死体を早く片付けてしまおう」
そして、もう一つは・・・
「次はこの女だ」
である。
おわり
*猟奇ですみません。気分が悪くなった方がいたら御免なさい。
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