「麻田くん、芳一の気持ちを知る」・・・世界で最も人間を殺害している生き物とは?
『麻田くん、芳一の気持ちを知る』
「蚊は、最も人間を殺している恐ろしい生物なんだ。注意しろよ」
麻田くんが南米のペルーに出張すると聞いた会社の先輩が言いました。
人類の生物による死因のトップは蚊だといいます。
蚊は、マラリアとかの病気を媒介するため、
鮫や毒蛇よりもはるかに多くの人類を殺害しているそうで、
その犠牲者は年間72万人にも及びます。
だから蚊にだけは気を付けろ。というありがたい忠告らしい。
「いいか。出かける時は、耳なし芳一並みに、全身に虫よけスプレーを吹きかけておけば大丈夫だ。思いっきり楽しんで来い」
最後は忠告とも餞別とも判断のつかない言葉で送り出され、
麻田くんはペルーに向かいました。
行ってみると、気候がとても合うのか普段より頭がさえ、仕事も快調。
麻田くんは、ペルーの気候と現地の料理を満喫。
仕事終わりに市場を訪ねては、日本では見たことも無いような珍しいフルーツを購入し、夜宿に戻ってから一人で堪能するという生活を続けたのです。
「せっかくペルーまで来たんだ、熱帯雨林を探検したいな」
日曜日、麻田くんはジャングル奥地を探検するボートツアーを申し込みました。密林の奥深くにある先住民の村をガイドが操縦する小さなボートで巡るという、かなりハードなアドベンチャーツアーです。
出発前、先輩の忠告を思い出した麻田くんは、顔や頭はもちろん、袖口をめくって腕や足にまで、虫よけスプレーを吹きかけました。もちろん耳にも。
ボートツアーは実に感動的で冒険心を満足させてくれるものだったそうです。静かに河を遡り、密林の奥深くまで入って行きます。
途中、カラフルな蛇や猿、ワニなど珍しい動植物が次々に現われます。
ところが、ボートが森の半分ほどまで入った頃、急に麻田くんのお腹がキュウっと痛くなってきました。昨日市場で買った珍しいフルーツが良くなかったのか、我慢できない程の便意が襲ってきたのです。
「これは、目的地まで持ちそうにないな」
非常事態だと判断した麻田くんは、ガイドに頼んで、途中にある小さな集落にボートを止めてもらい、ガイドの案内で村の共同トイレを借りることが出来ました。
共同トイレと言っても、倒木を組み合わせ、大きな葉っぱで囲んだだけの大自然のトイレ。中は蚊の大群がで一杯です。
しかし、虫よけスプレーの効果でしょうか。蚊は飛び回るだけで近づいてきません。
用を足し、ほっと一息、安心したのもつかの間、麻田くんの背後、すぐ近くから羽音が聞こえました。
その時、麻田くんは気が付きました。
虫除けスプレーは、袖口から首筋、背中にまで吹きかけましたが、
脱ぐ予定の無いパンツの中は、無防備だったのです。
スラックスとパンツを下ろし、尻を丸出しにして用を足していたので、
白い尻はたっぷり蚊に刺され、すでに真っ赤に腫れていました。
幸い悪い病気にはならなかったのですが、
かゆみは強烈で、帰国するまで、彼はずっと服の上から
尻をかき続けていたそうです。
帰国後、先輩に一連の事件を報告すると、当然のように大笑いされ、
奇妙な噂と共に、あだ名が又一つ増えたのでした。
「麻田はお尻にお経を書ていなかったので、南米でピラニアに食われてしまい、現地では、『尻なし芳一』と呼ばれて伝説になっている」
そんなわけないでしょう!
おわり
ペルーやブラジルなどには、ボートで川を遡る森林ツアーがいくつかあります。珍しい動物や植物に出会えるとして、観光客に人気だそうです。
中には3時間を超えるツアーもあり、森の中でサンドイッチを食べる昼食は他では味わえない醍醐味があると言われています。
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