「麻田君、魔法の正体を知る」・・・バザールで猫を連れた商人が売っていたものは。
『麻田君、バザールで高い買い物をする』
旅行好きの麻田君は、学制時代から旅先で手に入れた珍しい品を、
日本の骨董屋に高く買い取ってもらい、旅行資金に充てていました。
中東のある国を訪れた時の事。
地面に広げた絨毯の上に、きらびやかな品々が並ぶ
アラビアンナイトそのままのバザールを訪れました。
「ここはどんなものでも売っていると言うからな。
きっと高く売れるものがるに違いない」
バイヤーとまでは言えませんが、多少なりとも旅の経験をつんだ麻田君、
商品の目利きにも少し自信を持っていたのです。
色とりどりのガラスを組み合わせたライトや、
磨くと魔王が出てきそうな金色のランプ、
頑丈な鍵が付けられた宝箱など、面白そうな商品を探して回っている時、
麻田君は猫を連れた商人と、西洋人の観光客との
不思議なやりとりを目にしました。
「今何時だい?」
と観光客が聞くと、商人は膝の上で眠っていた猫を
両手で抱え上げました。
銀の首輪を巻いた猫は、大人しく商人と向き合って
目を見開いています。
「3時ちょうど」
「Oh~」
と自分の腕時計を見ていた観光客が驚きの声を上げました。
麻田君は、
『きっと猫の目の瞳孔の形で、時間を見ているんだろうな』
と考えました。
猫の目は、昼は細く、夜は丸く変わります。
古代から猫の目の形で時間を知る方法が各地で活用されていたと言われています。
麻田君はそんな昔の技術が今も伝えられているんだな、と感心しました。
「知らない人にとっては、まるで魔法みたいに見えたんだろうな・・・」
その後、バザールを一周して、いくつか品を買い込み、
そろそろ引き上げる時間かなと思った麻田君は、
先ほどの猫で時間を知る商人を思い出しました。
「ちょっとした土産話くらいにはなるかもな」
と軽い気持ちで商人に時間を聞いてみると、
商人はやはり同じように膝の上の猫を持ち上げてにらめっこ。
そして、
「4時17分」
と答えました。麻田君の時計も同じです。
『猫の目で、どうやって何分まで細かく分かるの? 本当に魔法なのか?』
麻田君は、俄然興味が湧いてきました。
そこで商人に、猫の目で時間を読む方法を教えてくれるよう頼んだのですが
簡単には教えられない、とのことでした。
麻田君は粘りました。
手元に残っていたお小遣いを全額はたいて、日本円で1万円ほど支払って
ようやく教えてくれることになったのです。
「こちらに来なさい」
商人が、自分の後ろから見るように指示して、猫を両手で抱き上げ。
麻田君はワクワクしながら背後に回り、肩越しに猫を見つめます。
「分かるかな? 今は4時25分だ」
商人は釣り上げた猫の角度を微妙に変えてくれるのですが、
猫の目の形が変わる訳でなく、そもそもどれくらいになったら、
4時17分なのか、25分なのか麻田君には全く分からないのです。
「目の大きさをどう見れば良いんですか?」
「目ではない。その下だ」
商人は、猫の首輪を見るように言いました。
キラキラとした首輪の何を見ろと言うんだ、と少しイラついてきた時、
麻田君が大きな声を上げました。
「ああ。それかぁ~」
猫の首輪には、小さな銀のペンダントヘッドが付いていました。
それが、良く磨かれていて鏡のように周りの景色を反射するのです。
そして、商人が持ち上げて目の前に持ってくると、
その鏡のペンダントヘッドに、すぐ背後にある壁掛け時計が映り込むのでした。
麻田君が、ぽか~んと口を開けて、後ろを振り返ると
壁掛け時計は4時25分を指していました。
「え~! だったら、後ろを振り向けば良いじゃないですか」
とんだ魔法の正体に憤る麻田君に、商人は言ったのです。
「ここはバザールだ。どんなものでも売りものなのさ」
おわり
海外のバザールは、その国の文化や生活を垣間見ることが出来ます。
かつてはどこへ行っても日本円が高く、安く品物が買えたのですが、
今は以前ほどは大胆に買い物ができなくなった気がしますね。
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