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「お化け踏切」・・・実話。恐ろしい「幽霊」の正体は。


それは、『お化け踏切』と呼ばれていた。

ある地方の私鉄沿線にある、小さな踏切である。

線路と地元の人々が使う狭い生活道路が交差するところにあるあまり人の通らない場所にある。それなのに、その踏切は不思議と事故が多かった。

昔のことだから、まだすべての鉄道に遮断機が設置されているわけではなかった。
当時はこの私鉄だけではなく、日本中にそのような踏切が多くあったのだ。

「こんな恐ろしいものを置くなんて、何を考えているんだ」

初めてそれを見た人々は口々にそう言った。

だが、「恐ろしい」とは、遮断機の無い踏切のことではない。

その踏切のすぐ脇に置かれた人形のことだ。
それは、長い乱れ髪に白い着物。
まるで棺桶から出てきたような死装束の幽霊そのものの姿をしていた。

「うわあ!」
「ひええ~」

踏切を通る住民たちは、突如現れた「幽霊」に、誰もが度肝を抜かれ、夜などは誰も底を通らなくなっていたという。

だが、住民たち以上にその「幽霊」を恐れた者たちがいた。

その踏切を通過する私鉄の運転手たちだ。

「幽霊」は、地面から2メートル以上も高いところに
頭が来るよう細い支柱で支えられていた。

だから、地上を歩く人は見上げなければ大して気にはならない。
しかし、電車の運転席からは、ちょうど目の高さになって
空中に「幽霊」がいるように見える。

分かっていても、通るたびに「幽霊」を目にするのだから
運転手は平常心ではいられない。

「ずっと、こちらを見ている」

「電車が通りすぎるときにニヤリと笑った」

「もしかしたら本物のお化けがとりついているのか」

などと噂をするものまで現れ、その路線を運転するのを嫌がる運転手も出てきたという。
勇気を出して、非番の日にその踏切を確認に行った男がいた。
その男は、踏切の脇に置かれた看板を読んで
「幽霊」が現れた理由を知った。

「これは、早く踏切に遮断機を設置してくれという
陳情だったのか」

この踏切は、近所に住む子供もお年寄りもよく利用する道で、たびたび事故も起こっていたらしい。
遮断機が無くて危険な踏切だと、住民たちは感じていた。

そこで自治会長が私財を使って、「幽霊人形」を置いたのである。

しばらくして、運転手からの進言もあり、
その踏切に遮断機と警報機が設置された。

そして、人々は、
「幽霊」が遮断機を付けさせた、と噂したという。

                  おわり


このお化け踏切の「幽霊」は、一見、『都市伝説』と思われがちだが、かつて千葉県流山市に実際にあったものである。

浅草の材木商から木材加工の会社を興した松田英治郎氏が、
無人踏切で交通量が少ない割に事故が多いこの踏切のことを憂い、危険防止のために九州の人形師に等身大の「幽霊」を二体注文して踏切に設置したのである。

その効果は抜群で、中々陳情しても動かなかった鉄道会社も根負けし、警報機と遮断機を設置したのだという。

今、このようなことをすれば、炎上必至であろう。
遮断機を設置した当時の鉄道会社も、立派な対応だったといえよう。

英治郎氏は、地域奉仕とかボランティアも大胆な発想で行うべき、と考えていたのかもしれない。

この話は友人から聞いたものであるが、流山市HPの「昭和の流山産業史 」の中にも記されている。


https://www.city.nagareyama.chiba.jp/tourism/1013077/1013080.html




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夢乃玉堂
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