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「最近の若者は・・・」なんて言えないね。


打ち合わせが伸び、食べそこなっていた昼食を取ろうと
駅近の蕎麦屋に入ったのが2時過ぎ。

あっさりとした京風出汁のとろろ蕎麦は美味しかった。

他の料理も美味しいのだろう。ランチの終わった店内にも
常連のような客が大勢いた。

蕎麦を堪能してお茶を飲んでいるところに
若い女性が入って来て、二つ隣の席に座った。

二十代だろうか、長くカラフルな付け爪をして、
高級ブランドに身を包んでいる。

『その爪で箸が握れるのか?』

勝手な心配が的中しそうな予感がした。
彼女は席に座るなり、置かれた紙ナプキンを摘まんで、自分のテーブルを拭き始めた。

そんな彼女の食べる姿が見て見たくなった。
長いその長い爪で、どの様に箸を使うのか
好奇心がそそられた。

本当に悪趣味だが、酒の肴のつもりだったのだろう。
午後は特に予定もなく、店内も空いて来たので、
ビールを一本頼んで席に留まった。

「月見蕎麦とライス、お待たせしました」

注文した品が運ばれてきた。

彼女は、長い爪を器用に動かしながら
月見蕎麦の卵を潰さぬように食べ始めた。
出汁が汚れるのも嫌いなようだ。

ところが、いつまでたってもライスは食べない。

「蕎麦の出汁とご飯の取り合わせは最高なのに、
分かってないな」

と内心で思いながらビールを口に運んだ。
小さな優越感がその味を高めていた。
本当に悪趣味だ。

「お待たせしました。とろろです」

半分ほど蕎麦を食べたところで
店員がとろろの小鉢を運んできた。

軽く礼を言った彼女は、
月見蕎麦の上に残っていた玉子の黄身を
注意深く匙に乗せ、ライスの上に乗せた。

そして、その周りに届いたばかりのとろろを手際よく流し込み、蕎麦の出汁と少しの醤油をかけた。

「旨そうだ。これは、通の食べ方だな」

と思った。

長い爪の彼女が、まるで下町にある老舗の女将さんのように思えた。

私は、それ以上ビールを飲むのを止めて
会計を済ませた。

そして、店を出る時、満足そうな女性の姿を振り返って
こう思った。

「オヌシ。中々やるな」


おわり

*これは、先日実際に見た風景です。
全く場違いに思える見た目の女性が、美味しそうに蕎麦とご飯をアレンジして食べる姿が印象的でした。
「まったく、最近の若いもんは・・・」と嘆くのは
哲学者プラトンの時代からだった、というのは間違いらしい。
確かに嘆く大人はいるが、まだまだ悲観するものでもなさそうだぞ。

#蕎麦 #卵 #とろろ #女性 #ブランド #ご飯 #ランチ #通の食べ方

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夢乃玉堂
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