「24分の1」・・・2 絶望のすぐ先に新しい春はあるのか? 連続超ショートストーリー
「24分の1」(2)
『酷い顔をしているのだろうな』
すれ違う同僚たちが、心配と好奇心の混じった顔で見つめて来るのを知って
美晴はそう思った。
「とりあえず、仕事には行こうか」
泣き続けていた美晴が、目覚まし時計に向かって呟いたのは、午前6時すぎ、酔っぱらって転び、泥汚れの着いたワンピースを脱ぎ捨て、クローゼットから黒のビジネススーツに着替えてとりあえず家を出た。
化粧も出来なかった。鏡を見るのが怖かったからだ。
いつものようにデスクに座ったが、仕事は一向に進まない。
というか、書類を見る気にもならないのはマズい。
見かねた塚田裕司が、美晴を会議室に呼び出した。
「前野くん。大丈夫か?」
「課長。大丈夫です、ちゃんとやります」
「そうか? まあ。人生は晴れた日ばかりじゃないよ」
美晴は眉をひそめ、塚田に冷たく返答した。
「課長。私の人生の何が、晴れた日じゃないと言うんですか?
仕事ですか?プライベートですか?
何も知らないくせに、いい加減な励ましなんか、しないでください」
普段は冗談交じりに部下の機嫌を取ることが多い塚田だったが
今回の彼女の反応は想定外だった。
「すまない、そんな風に思われたなら悪かった。
何かできるとは思えないが、話を聞くぐらいは出来るから
いつでも言ってね、ね」
「ね」という語尾の柔らかな言葉の響きが優しかった。
上司ではなく、ただ、人として言葉をかけてくれている。
そんな風に思うと、涙が止まらなかった。
「いつもの美晴なら、そんなふわふわした言葉に、辛らつな冗談で
追い払ところだが、おざなりの励ましさえ心に刺さる。
それだけ、美晴は疲れ切っていたのだ。
「ごめんなさい。わたし、わたし・・・」
「何も言わなくても良いよ。今は一息ついて、自分をいたわる時間を持ってみてはどうだろう? それまで私もここにいてあげるよ」
美晴は、塚田の肩に体をゆだねて、ただ泣き続けた。
つづく
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