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ゼロヨンパブリカ チーム橙組【桜年代記】3/3
Fragment 3:ささのご
僕は桜を知らない。見渡す限りの橙畑しか知らない。
新しいバイオエネルギーの原材料に、病の治療薬に、有用な橙を植え続けた結果だ。
桜とはどんな花が咲くのかな。
桜色とはどんな色ですか。香りはありますか、食べたらどういう味ですか。実は生りますか、樹の肌を触ったら、ざらざらとしますか、つるつるですか、ふかふかですか。
僕は、桜を知らない。ただ物語に残るうつ
ゼロヨンパブリカ チーム橙組【桜年代記】2/3
Fragment 2:山田佳江
「ねえパパ、退院したらハナミに行きたい」
娘の言葉に、僕は興味のないふりをする。自分の心拍数が上がっていくのを感じ、ひそかに呼吸を整える。
「ハナミ?」
「昔のアニメで見たの。ピンク色の花の下で、お弁当を食べたりお酒を飲んだり」
「五月になればこの木にも花が咲くから、病院の中庭でお弁当を食べようか」
彼女はありふれた橙の庭木を見上げ、木漏れ日に目を細める。
ゼロヨンパブリカ チーム橙組【桜年代記】1/3
Fragment 1:湫川仰角
かつて桜には、女神が宿っていた。
古事記によれば、名をコノハナサクヤビメといい、桜が咲映えるように美しい姿だったという。
神話の時代から、桜は美しさの象徴だった。
人々を誘惑する、或いは蠱惑的とも言える何かが、桜にはあったのだ。
都内で働く医師であるS氏は、我が目を疑った。
見目麗しく、院内でも蝶よ花よと可愛がられていた入院患者の少女が一人、中庭の桜