Jリーグとの違い、世界との差
0-3
アジア王者として戦った浦和レッズはヨーロッパ王者のマンチェスターシティの前に、力の差を見せつけられる結果となった。
日本代表の飛躍が注目される中で、Jリーグのクラブが欧州のトップレベルを相手にどれだけやれるのか試される試合だったが、『世界との差』を痛感させられる内容だった。
どこに『世界との差』があったのかまとめていく。
シティの可変システムvs浦和のコンパクトな守備
シティのボール保持では4-1-2-3のシステムから、RCBのストーンズが前に出てロドリの隣に並ぶ。そしてCFのベルナウドシウバ(フォーデン)が中盤に降りてくることで、浦和のダブルボランチに対して3枚を並べて数的優位を作った。最終ラインは基本的に3枚でボールを動かすのだが、必要に応じてエデルソンがアカンジの脇でサポートすることで、安全地帯を常に確保していた。
浦和はシティの可変システムに対して、しっかりと対抗策を講じた。下の図のように4-4-2の守備陣形を基本としながら、2トップがシティのダブルボランチをブロック。中盤の数的不利に対してはSHの小泉か大久保が中央に絞ることで数的不利を解消した。
2トップのどちらかが直線的にシティのCBへプレスをかけて、ボールを片方のサイドへ誘導をかける。そのタイミングでボールサイドに圧縮をかけてスペースを潰しながらボールを奪うことが浦和の狙いとする形だった。
この浦和のプレスは立ち上がりの5分くらいまでは機能しているように見えた。例えば、1:34の場面ではカンテが内側を消しながら、アカンジへとプレスをかけてパスコースを限定。アカンジからコバチッチへの縦パスに対して、伊藤が鋭い出足で身体をぶつけて、コバチッチからボールを狩り取った。浦和からすれば、このショートカウンターからシュートまで持ち込むことができていればという場面だったが、シティのリアクションも速く、シュートまで到達できなかった。
シティとすれば浦和がどのように守ってくるのかまだわからない状態で、ボールを動かしていたら危険な失い方をしてしまったので、ゲームプランが壊れる危ないシーンだった。
しかし、シティは何度か浦和にプレスの網に捕まりかける場面もあったが、下の図のようにGKエデルソンを使いながらゲームをコントロール。常に浦和のプレスの矢印を下り続ける作業が徹底されており、浦和も高い位置からプレスに出れなくなっていった。
とにかくビルドアップでシティの選手たちは判断を間違えない。プレッシャーを受けながらも常にその状況によって最善の選択肢を出せるので、浦和がボールを奪えた場面はほとんどが状況判断のミスによるものだった。
後半開始早々の45:25ではウォーカーから小泉がボールを奪い、ショートカウンターからホセカンテがシュートまでいった場面があった。あの場面もウォーカーはバックパスでやり直すのが適切な判断だったが、一瞬迷いがあったことでコントロールミスをしてしまいピンチを招いた。シティの選手たちの判断の質が高すぎて、判断ミスをするとそれが浮き彫りになるのがいかにスタンダードが高いかを証明している。
3人目を使ったプログレッション
浦和は徐々にハイプレスは出れなくなり、4-4-2のミドルブロックで構える時間が多くなる。Jリーグではこの浦和の4-4-2を攻略することに手を焼くチームも一定数いるのだが、シティは浦和のミドルブロックを簡単に攻略していった。
立ち上がりの1:10ではハーフスペースでロドリからの縦パスを受けようとしたコバチッチが、DFラインから飛び出してきたRCBショルツのタックルでボールロストする場面があった。
しかし、それ以降の浦和ははシティのポゼッションに圧倒されることになる。5:48では偽9番で中盤に降りてきたベルナウドシウバがロドリからの縦パスを受けるとダイレクトでストーンズへ落としてライン突破。非常に狭いエリアでパスを通すことが難しい上に、受け手は強いプレッシャーを受けるのだが、ものともせずに正確に次に繋げるシティの個人スキルの高さが印象的だった。
この試合の中でも3人目を使ってラインを超えていくパターンは数多く見受けられた。Jリーグでも3人目を使って前進を試みるチームは多いが、ここまでの精度とスムーズさはない。53:08の3人目を使いながら、最終ラインからLWGのグリーリッシュまでボールを届ける一連の流れはぜひ日本のクラブが参考にしたいボールの動かし方だ。
浦和の選手たちの中で「普段はこれだけコンパクトに保っていればパスを通されないが、シティの選手はそれでもパスを通す技術やスキルがある」というような感覚があったはずだ。狭いエリアでボールを受けるシティの選手に対しても、「普段はこれだけプレッシャーをかければミスをするが、シティの選手は全く慌てる様子がない」というのも試合を見ていて伝わってきた。27:27のフォーデンのゴール前の狭いエリアでのテクニックなんかはまさに世界レベルのプレーだった。
リスク覚悟の前傾姿勢
1点ビハインドの浦和は後半から中盤の数的不利に対して、CBのどちらかを前に出す形で対応しようとした。どうしてもボールホルダーに圧力を強めようと思った時に前から人を捕まえに行く必要があるからだ。しかし、CB「前に出すということはそれだけ選手間でギャップが生まれることになり、最終ラインで+1を作りカバーすることも難しくなる。より高い位置でのボールを奪うためにリスク覚悟で浦和は後半勝負に出た。
すると、51:28にシティが浦和のハイプレスをひっくり返す形で2点目が入る。エデルソンからストーンズへの縦パスに対して岩尾が前に飛び出し、それに連動する形でLCBのホイブラーテンもヌニェスに牽制をかける。それに伴いRCBのショルツも中央へスライドして穴を埋めにかかる。しかし、ウォーカーが3人目の動きでストーンズをサポートしてプレス回避をすると、中央にスライドしたRCBショルツとグリーリッシュのマークをしていたRSB関根の間に生まれたギャップに、コバチッチが2列目から飛び出してウォーカーのスルーパスを受けて得点した。
まるでピッチを上から見て空いているスペースを確認しているかのようなシティのボール保持だった。1人ひとりがスペース、フリーの選手、相手の位置を認知してアクションを起こすことができるので、ピッチを俯瞰しているようなパフォーマンスに繋がる。更にはコバチッチのフリーランニングとボールを受けてからシュートまでのトップスピードでの正確な技術は見事だった。
浦和としてはボールを奪いにいった中で上手く剥がされた上に、DFラインのスライドする判断が遅れたことでギャップを与えてしまい、そこから背後を取られる格好となった。関根の絞りが甘かったことは確かだが、本職でない関根がRSBを務めている時点で浦和の厳しさが垣間見えた。
シティの3点目も2点目と似たような状況から生まれた。浦和の2トップがダブルボランチを消しながらアカンジへとプレスを開始。それに連動してショルツがコバチッチまで飛び出してマークすることでハメにかかった。しかし、右サイドから長い距離をヌニェスが斜めの動きでショルツの背後のスペースへと抜け出して一気にラインブレークした。
まず、アカンジからヌニェスへのパスが低弾道の高速スルーパスでJリーグでは目にできないレベルのパスだった。特に、ロングレンジのパスは日本がもっともっと向上させなければならない技術の1つだろう。ロングレンジの速いパスを正確に出せる選手が増えれば、当然そのパスに対応する力も伸びてくるはずだ。
また、途中出場のLSB荻原もヌニェスの動きに付いて行ってたが、ヌニェスがPA角でボールをコントロールした時の間合いが遠く、ヌニェスの切り返しに対して背中を向けてしまったことでシュートを放てるスペースを作られてしまった。何とかGK西川が弾いたものの、最終的にベルナウドシウバが放ったシュートがディフレクトしてゴールへと吸い込まれた。
浦和はとしては前半凌いで、後半からリスクを取りながらもショートカウンターで1点というようなゲームプランだったかもしれないが、リスクを取り始めた途端に、そのリスクとなる部分を正確に突いてくるシティの強かさが感じられた後半だった。
世界に誇れるセット守備
ゲーム内容もマッチスタッツもシティの圧勝ではあったのだが、浦和が唯一通用している部分としてディフェンシブサードでのセット守備は評価できるのではないだろうか。Jリーグ最少失点は伊達じゃなく、この試合でも一定の成果をあげたように見えた。
シティのサイドチェンジ
シティはまず浦和の4-4のブロックを広げて選手間にギャップを作る作業からスタート。シティの凄いところは浦和のローブロックの外側をただボールを回すのではなく、1人飛ばしてサイドチェンジをしたり、内側を使いながらWGにボールを届けることで浦和の対応を遅らせることができることだ。
14:35ではRSBのウォーカーからLWGのグリーリッシュまで大きなサイドチェンジ。これによって浦和のブロックのラインが下げられるだけでなく、グリーリッシュがボール受ける時には多きなスペースと時間があるので、大胆に仕掛けることができる。
浦和の撤退も素早くすぐにPA内の陣形を整えるのだが、どうしてもラインが下げさせられることでPAの前にはスペースが生まれるため、そのスペースでボールを受けたベルナウドシウバがシュートを放った。
シティは決して急がずに左右へサイドチェンジを繰り返して浦和の守備陣形に揺さぶりをかけ続けた。サイドを取るとすぐにクロスを上げる単調な攻撃ではなく、オーガナイズされた攻撃を仕掛けることで浦和を押し込むことができてセカンドボールの回収率も高くなる。左右への揺さぶりはボディーブローのように浦和の選手たちの体力を削って行ったはずだ。特にロドリからWGへの浮き玉のパスは速いテンポで正確にWGに供給されるので、攻守に渡りロドリの存在感の大きさが感じられた。
更にはシティは中央を使ってサイドチェンジすることを繰り返し行ってきたので、浦和はサイドで後手に回る場面が増え始めた。ブロックの外回りでサイドチェンジをすると逆サイドまでボールが辿り着くのに時間がかかるので浦和も対応しやすいが、ブロックの中を経由してサイドチェンジをされるとどうしても対応が遅れてしまう。20:50のようにシティはまずブロックの中を覗いてからサイドへ展開したのでWGのところで余裕が生まれる。
しかし、この場面では岩尾がしっかりとヌニェスに付いていき、シティをPA内に侵入させなかった。
浦和のローブロックの生命線
浦和のローブロックもしっかり危険なエリアを封じる意識は強く、特にワイドでシティがボールを保持している時のPA内のポケットの管理はダブルボランチの岩尾が精力的に行っていた。49:01ではポケット侵入を狙うヌニェスに対して岩尾が付いていき対応、ヌニェスがベルナウドシウバへとバックパスしたところを、明本がボールを奪いカウンターへ繋げることができた。
シティの右サイドはヌニェスがチャンネルランを繰り返していたが、左サイドではグリーリッシュがアイソレーションをされていて、仕掛けるためのスペースを空けておく意図があったはずだ。従って、シティの右サイドでは岩尾のポケット管理、左サイドでは関根の1vs1が浦和の生命線となっていた。29:53にポケット侵入したヌニェスがシュート放った場面や、55:35にグリーリッシュが関根を抜いてクロスを上げた場面など、生命線を破られるとシティのチャンスに繋がっていたことが明らかだ。1失点目に関しても、ヌニェスが岩尾と入れ替わる形でボールを受けてからターンで抜き去り、浦和はセットして守る時間を与えてもらえなかった。ベルナウドシウバにパスをした後にヌニェスのポケット侵入に小泉がプレスバックしたものの、クロスに間に合わずにホイブラーテンのオウンゴールが起こった。
浦和のセット守備では個々のタスクをハッキリさせてゴール前を固め、スペースを与えなかった。3失点ともボールを奪いに行ったところを剥がされたことで、浦和の守備が整う前にシティが仕留めたものだった。従って、世界でトップクラブの1つであるシティを相手に、浦和のローブロックは一定の成果を得たのではないだろうか。
個人戦術の課題が浮き彫りに
浦和のボール保持、特にビルドアップでは課題が浮き彫りになる厳しい内容だった。特にシティの『人』を基準にしたプレスに対して圧力に屈して、技術的なミスが目立った。
シティのハイライン
浦和は前半と後半で少し全体のバランスを変えていた。前半はあまりリスクを取らずにシンプルに前にボールを送り、なるべくセーフティーなビルドアップが目立った。
浦和は下の図のように、ビルドアップ時には2CB+岩尾をベースにビルドアップを行い、必要に応じて西川がサポートしていた。対するシティはヌニェスとベルナウドシウバ(フォーデン)が岩尾を消しながら両CBにプレスに出ていき、WGのグリーリッシュとフォーデンは必要に応じてCBまで飛び出して、ワイドの選手に対してSBが前にスライドする縦スライドを採用していた。
立ち上がりこそはシティのプレッシャーに屈しずに浦和はボールを持つことができていた。9:05では下の図のようにホイブラーテンがヌニェスにプレッシャーを受けながらもベルナウドシウバが西川へプレスに行こうとしているのを認識して、フリーの岩尾へと配球しプレスを回避。
その流れでシティが撤退してブロックを作るとライン間にそれぞれの選手が立ち位置を取り、シティの選手間のギャップを使いながら上手くライン突破することができた場面だった。
残念ながらこの場面では3人目の動きで背後を取った大久保にはボールが渡らなかったが、「意外にボールを持てるのでは」という期待感が感じられた場面だった。
シティはかなり高いライン設定で守備陣形をコンパクトに保ち、ハメにいく時にはマンツーマンで対応する場面もあった。11:51のように上手く浦和がプレス回避をして背後を取りかけた場面があったが、アカンジの足の速さと背後を埋める予測の速さでクリーンに処理をした。
これもシティの個人戦術の高さを感じさせられる局面で、アカンジの危機察知能力や身体能力の高さから、これだけの高いライン設定ができる。しかも、これがアカンジだけでなくウォーカーやアケ、ストーンズといった他のDFも同じように対応することができる。
CBとの繋がり
特にビルドアップの面ではシティとの差が明らかだった。特に後ろから浦和がボールを繋いで前進しようとした時に、2CB+岩尾と他の選手たちとで繋がれていない場面が散見した。
例えば、39:40ではシティのグリーリッシュがショルツまで飛び出して、アケも大久保までスライドする縦スライドでハメにかかった。そこで大久保のサポートに入るのが岩尾しかおらず、ボールロストに繋がった。
構造的な話で言うとこの場面においては伊藤が降りてきてサポートするのがベストだったように思えたが、伊藤がサイドに流れてアケの背後でボールを受けようとしたため、大久保にとって1つ選択肢が無くなってしまった。
個人戦術の差
個人戦術で言うと浦和の選手たちが相手のプレッシャーを受けながらもミスしない選手が少なく、この試合では小泉やショルツ以外でプレス耐性の高い選手がいないことはビルドアップを苦しくした。
後半に入り、浦和はダブルボランチ気味にすることで、シティの4-4-2の2トップ+1WGに対して2CB+ダブルボランチで逃げ道を確保しようと試みた、47:36では下の図のように中盤の数的優位から、中央でズレを作り上手くプレスを剥がせそうな局面だったが、1つひとつパスが微妙にズレていきボールロストしてしまった。
浦和としては構造的に問題を抱えていた場面と、個人の能力や個人戦術の部分で足りないがために、上手くいかない場面の両方が課題として残った。
更には「フリーの選手を見つけられない」、「相手のプレスを認識していない」、「相手を引きつける前にパスを出してしまい、受け手に強いプレスがかかる」、「狭いエリアにパスを通せる、狭いエリアでコントロールできる」というような個人戦術の部分で、シティと比べると大きく浦和は後退していた。
特に状況判断の部分で浦和の選手は「認知→判断→実行」と3段階で処理しているのに対して、シティの選手は「認知/判断→実行」と2段階で処理しているような印象を受け、情報処理能力で違いが感じられた。
世界に通用する部分があった一方で「ここをもっと強化しないと世界とは戦えなくなる」という課題も大きく浮き彫りとなったそんな試合だった。
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