見出し画像

対5バックのSBの高さ調整と効果

1-0
世界一のクラブを決めるクラブW杯に今年は浦和レッズがアジア王者として参加して、北中米王者のクラブレオン(メキシコ)と対戦。堅守を保ちながら後半にシャルクの1発で勝利をもぎ取り、浦和がヨーロッパ王者マンチェスター・シティが待つ準決勝へと駒を進めた。

個人的には戦術のディテールで浦和がクラブレオンを上回り、それが結果に反映されたように感じられた。では、どのような差が両チームにあったのかまとめていく。


3つの5バック攻略法

クラブレオンは攻撃時には3-2-5となり、守備時には両WBが最終ラインに入り、右シャドーの13番が前線に残る、5-3-2で守備陣形を使った。しかし、クラブレオンは5-3-2の守備ブロックを作り、ゾーンディフェンスを行う訳ではなく、各選手にそれぞれマークする選手を決めて『人を捕まえる』守備をベースにしていた。

浦和は数はそれほど多くはなかったが、クラブレオンの守備を上手く攻略してチャンスを作った場面があった。

WBのピン留め

この試合でRSBに入った関根が右サイドの攻撃を活性化した。基本的に浦和の攻撃時に関根は20番とマッチアップすることが多かったのだが、関根が前線に入って高い位置を取ることで、20番の脳内に「そのまま付いていき最終ラインに加わるべき」か「中盤に残ってスペースを埋めるべき」の2択で迷わすことができた。

11:46では下の画像のようにRCBショルツからの縦パスをハーフスペースで受けた関根が華麗なターンで相手を置き去りにして、チャンスの局面を作った。どうしても曖昧なマークだと対応が緩くなるため、この時も関根への縦パスに対して、クラブレオンは寄せ切ることができていなかった。また、この時にRSHの大久保がサイドに張り出して24番のLWBをピン留めすることで、ショルツがボールを受けるスペースを確保。

11分の浦和のチャンス

21:08でも同様に24のLWBをピン留めすることでLCBとLWBの縦スライドを封じ、ショルツの前には大きなスペースを確保。この時にはCMの5番が中央から飛び出して、ショルツに運ばれないように対応してきたが、逆に浦和は中盤に生まれたギャップに伊藤が顔を出してショルツからの縦パスを受けた。そして、そのまま前を向いてミドルシュートまで持っていくことができた。

21分の伊藤のミドルシュート

先程の場面と同様にクラブレオンは人を捕まえることができていないことがよくわかる。特に関根が前線に入ることで、LCBとLSBがピン留めされるためLWBの前には大きなスペースが生まれる。クラブレオンからすると20番の選手が前に飛び出してショルツにアタックするような、器用さがあれば良かったが、そこまでの適応力は見られず、タスクの明確化をしない限りはショルツのところにプレスがかからない状態が続いた。

WBから距離を取る

一方で浦和の左サイドでは明本が上手く立ち位置を取ってRWBに捕まらない工夫をしていた。サイドで下手に張り出すとRWBがスライドして明本まで出てきてしまうので、低めの立ち位置を取ってRWBから距離を取ることで、捕まらない状況を作った。

17:55では左サイドで小泉からの素晴らしいスルーパスから大久保がGKと1vs1という決定機を作った。このプレーになる前の一連の流れを見ていると明本が敢えて低めの位置を取ることで最終ラインで3vs2の状況を作り、プレスの逃げ道になっていることがわかる。

17分の大久保の決定機

68:24も似たように途中出場のLSBが荻原が13番の斜め後ろに降りてくることで、相手のRWBから離れてホイブラーテンからボールを受けた。そこから上手く逆サイドへと展開して相手のプレスを回避した。

ローテーション

後半に入るとクラブレオンは「誰が誰に付くか」を明確にしてきた印象を受けた。前半よりもより人を捕まえる意識が強く、自分のポジションを離れてでも付いて行く意識があった。

浦和は逆にその習性を利用して、選手のローテーションをすることで、スペースメイクとスペース活用した場面がいくつかあったら、

例えば、57:37では下の図のように18番の脇からショルツがボールを運び前進。そのタイミングで、RDM伊藤がサイドに抜けて、大久保が降りてくる。そして、中央に生まれたスペースにRSB関根が大外から内側のレーン(ハーフスペース)に入ってくることでショルツからの縦パスを受けることができた。

57分の右サイドのローテーション

そして、浦和の決勝点もローテーションから生まれた。岩尾がボールを持った時に途中出場のシャルクが前線から降りてきてポストプレー。この瞬間では浦和の選手は相手に捕まっているが、5バックに段差を作ることでスペースを作ることができている。そして、フリーのショルツがボールを受けて運んでいる時に、シャルクと中島が交差するように背後への動きで、マークを撹乱して5バックの中央にできた穴を利用して得点が生まれた。

77分の浦和の得点シーン

クラブレオンは『人』を基準に守備をするため、特に人に食いついた後のカバーは統率が取れていなかった。浦和の得点の場面も一度ハメ込んだ場面から、逃げられた時の修正が遅くDFラインに穴だらけの状況が生まれていた。今シーズンは得点力不足が課題となった浦和だが、相手が自ら守備のバランスを崩してくれるチームが対戦相手で運が良かったところもある。しかし、そのアンバランスな守備を突いて得点を取れたことは評価に値する結果だろう。

食いつく基準

浦和はこの試合通じて、ほとんどPA内に相手を侵入させなかった。6:14の岩尾のスリップからピンチを招いた場面や、31:04の岩尾からホセカンテへの縦パスを狙われてカウンターを受けた場面のような、自分たちのミスから生じるピンチ以外はあまり危ないシーンがなかったはずだ。

クラブレオンは後ろから繋ごうとするも、浦和のミドルプレスを攻略することがなかなかできずに、CBから浦和のDFラインの背後を狙ったロングボールから押し込む形が何回かあった。下の図のように3-2-5気味でボールを保持するが浦和が中央のギャップ(特にSH-CM間)を閉じているため、中盤を省略して18番の馬力を活かした配球が多かった。

クラブレオンの中盤を省略した前進

この場面以外にも67:24のように特に21番からロングボールが配球されることが多かった。しかし、J屈指の両CBホイブラーテンとショルツがクリーンに対応していた。

浦和の課題はミドルブロックからプレスをかけにいった時にダブルボランチの岩尾と伊藤が「どれだけ相手の中盤まで食いつくか」というバランスである。例えば、16:50では浦和の左サイドへとボールを誘導してボールホルダーを囲い込むように守りたかったのだが、中央の5番を経由されてプレスを剥がされてしまった。この時に小泉が前に飛び出して明本もそれに連動してスライドすることができており、ホセカンテと安居も近くの選択肢を消すことができている。この時に5番をマークするべきなのは、RSHの大久保なのかボランチの伊藤なのかが曖昧になっている。

浦和のプレスとクラブレオンのプレス回避

浦和は逆サイドのSHの絞りとボランチが飛び出して中盤まで食いつくハメ方を、状況に応じて使い分けており、個人的にこの場面だけに関して言えば、大久保が中央まで絞りボランチを管理するのがベストに感じる。

特にクラブレオンのように中盤を省略してロングボールを入れてくる相手に対しては、中盤にスペースを空けるとセカンドボールが拾えなくなるのでリスクが大きい。よりリスクを取って、プレスの強度を高めるのであればボランチが前に出た方がいいが、そうすると中盤にスペースを空けることになるので、食いつく基準は非常に繊細である。

運べないCB

クラブレオンは丁寧に後ろからボールを繋ぐ姿勢も見せていたが、あまりにも個人戦術、チーム戦術のところで厳しいものがあった。もちろん浦和の守備が良かったというのもあるのだが、浦和のコンパクトな4-4-2の守備を前になかなかチャンスを作り出せなかった。

11:05では大久保が6番のLCBへと飛び出して、それに連動する形で関根も24番のLWBまでスライドする縦スライドでパスコースを限定。24番が関根の背後へとボールを送るも誰も反応できずに、ショルツがボールを回収した。

11:05のクラブレオンのボール保持

浦和はそれほど激しくプレスをかけていた訳ではないが、クラブレオンはダブルボランチから攻撃を組み立てることに苦労し、3バックと両WBがブロックの外でボールを回す時間帯が多かった。ブロックの中に入れるパスが3バックから配球されないので、浦和からするとサイドに誘導してボールサイドに圧縮をかけることでボールを奪うことができた。

特にクラブレオンのボール保持での問題はCBがボールを運べないことだ。ボールを運ばないので中盤(特にシャドー)の選手との距離が遠く、縦パスが入れづらい状況を自ら作り出してしまっている。そして、中盤の選手はボールを受けようと降りてきて立ち位置を下げ始めるので、『後ろに重たい』状況が生まれてしまっていた。下の図の74:10はその典型的な例で、6番のLCBが運ばないのでLWBがボールを貰うためにシャルクの前まで降りてくる。そしてボールを受けた時にはシャルクからの強いプレスを受けて、判断ミスが起こる。安居が横パスを狙ってインターセプトして、浦和のカウンターへと繋がった場面だ。

74分のクラブレオンの後ろに重たいボール保持

CBが運べないと相手を引き出してからパスを出すこともできないので、CBからパスを受ける選手へのプレスの圧力も強くなる。浦和としては相手にボールを持たれてもブロックの外でボールを持ってくれるので非常に助かったはずだ。更にいうと、WBに対して浦和のSBがスライドして出て行くので、浦和のSBの背後はJのチームであれば狙ってくるのだが、クラブレオンにはSBの背後のスペースにランニングする選手は居らず、ただただハマっていくのを前線の選手は見ているだけだった。

ボール保持では13番を大外に配置してRWBの7番をインサイドに入れることで、13番の1vs1からサイド突破してクロスというような意図も感じられたが、明本が完璧に封じ込んだので、クラブレオンは攻め手がないような時間が続いた。

クラブレオンは空中戦に強い選手が多かったので、逆にもっとラフにボールを前線に放り込んでくるような戦いをされた方が、浦和はキツかったかもしれない。セットプレーでは空中戦に勝利することが大半だったので、どれか一つのセットプレーから点が取れていればというような内容だった。しかし、ゲーム全体を見てみると、チームとしても個人としても浦和の守備に解決策を見出せない苦しい試合となったはずだ。

今回の結果から浦和はペップ率いるマンチェスターシティとの準決勝へと駒を進めた。シティ相手にどのくらい浦和が通用するのか楽しみである。

この記事が参加している募集

もし宜しければサポートをよろしくお願いします! サポートしていただいたお金はサッカーの知識の向上及び、今後の指導者活動を行うために使わせていただきます。