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No.1 煙るマグレブに降り立つ

Ⅰ.はじめに──あれ、なに焼いてんの?

ホテルを出た瞬間、暑く乾いた空気を全身で感じた。
湿気の少ない国って、こうも日差しが肌を刺すものか。
ゆうべの飛行機は到着が1時間以上遅れた。とはいえ、よく眠れたし今日も元気だ。
これから一週間、これまでとは文化圏も言葉も違う国での滞在になる。少し緊張はするが、なんとかうまくやっていこう……。

などと思っていた筆者の行く先の道の先に、煙が上がっている。
羊だ。
煙の正体は、若い男性らによって焼かれる羊だった。
どうやら真昼間から羊を路上で焼く集団に遭遇してしまったらしい。
ああ、せっかく来た観光地が開いていないからせめて海側からの外観を見たかっただけなのに、なんという不運……とりあえず回れ右をして元いた大通りに戻って、気を取り直してショッピングモールに行くことにしよう。
ところが今度照り付ける日差しの下の大通りで見たのは、台車に乗せられた羊がどこかへ運ばれていく光景だった。

さて。
その後も筆者はこの都市で何度も羊を焼く場面に遭遇し……
動物を屠殺するための刃物をバケツに入れて運ぶ男性たちも何度か目撃することになり……(日本なら即通報レベルのむき出し具合)
赤っぽい液体が混ざる水たまりを踏み抜いて靴とズボンを汚すことになって……(これで食欲が少し消えた)
路上のゴミ箱で見たのは恐らく、解体された羊のどこかの部位だったのだと気づいてしまったし……(これで食欲が完全に消えた)
たくさんの羊の皮を馬やロバに運ばせる人も目撃することになる。

何かおかしい。いくらなんでも街にあまりに人がいないし、いたとすれば上述のような光景の中でばかりだ。
ついでに言えば、やっとのことでたどり着いたショッピングモールも休館だった……。

(図1)両サイドは店だと思うが全部閉まっていた

Ⅱ.記事の内容、筆者

初回なので、記事と筆者について簡単に説明・紹介する。

1.記事の内容

この記事は筆者と友人の、数か月にわたった旅行の記録である。今後も不定期で記事を投稿する予定だ。
旅行中の出来事をまとめるのが本来これを作成した目的だが、せっかくなので異文化を知ることへの楽しさ、非日常感などを共有できれば幸いだ。

2.筆者

記事を書くにあたり、GymSlideBoy(じむすらいどぼーい)と名乗っておく。気の利いたペンネームが思いつかなかったので、過去に友人からつけてもらったニックネームを復活させてみた。

(図2)アーチーズ国立公園(アメリカ)にて。友人撮影、筆者加工

自己紹介も兼ね、旅行での担当をいくつか書き出してみる。
①ルート作成・地理担当
筆者は訪問する国や都市の大まかなルート、スケジュールを作成している。観光地までのルートを把握し案内する担当でもある。ただし時々方角を間違えて友人ごと道に迷わせる。
②窓拭き職人(職人?)
ガソリン補給中にフロントガラスをピカピカに磨き上げる担当。アメリカ・ドライヴ期間の終了とともに自動的にこの担当から外れた。
③袋詰め職人(職人?)
スーパーのレジを通されベルトコンベヤーを流れてくる商品を、次々に猛烈なスピードで的確に袋詰めすることが要求される。過去にコンビニバイトだった経験を活かして自動的に筆者が担当していた。
④荷物運び職人
スーパーで買った物を宿舎まで運ぶ担当。購入した物をいかに丁寧に運べるかが勝負といえる。
⑤修理担当
眼鏡用ドライバーと十徳ナイフとテープとその他諸々で応急処置を施す担当。ただし直せないことは多々あるし、本当に応急措置なので道中で壊れることもある。

Ⅲ.伏線回収

1.モロッコにて

初回と冒頭はインパクトが重要だと信じている人間なので、「はじめに」には記憶にも強烈に残ったエピソードを選んで載せておいた。しかし冒頭のエピソードをもって「外国ってやっぱり怖い」などと思わせるのは本意ではないので説明を簡単に付け加えておく。
これは北アフリカの国、モロッコのカサブランカで体験した話だ。

(図3)カサブランカのムハンマド5世通り。トラムが走っている

カサブランカに続いて訪問したフェズの宿の管理人から聞いた話では、筆者と友人がモロッコを初めて訪問した期間は「イード・アル・アドハー(大祭、犠牲祭)」という、ラマダンと並ぶイスラームの祝祭期間にあたっていた。この期間、店などはほとんどが休業で観光客も少ないという。

2.イード・アル・アドハー

旅行後、イード・アル・アドハーについてもう少し情報を収集した。
これはコーランに記載がある、アブラハムが捧げる動物を獲れなかったため息子を代わりに神に捧げようとした逸話に基づいていて、ラマダンと並ぶ二大祝祭だという。祝祭では神に羊などの家畜が捧げられた後、屠殺される。(道理で街中で屠殺用の刃物を持ち歩く人がいるわけだ。納得した。まあ、刃物はできるだけ隠しておいてほしいけれど。)解体された肉などは貧しい人と分けあうのが祝祭の中でも重要となるというから、あちこちの路上で羊が焼かれていたのもその一環だったのだろう。
最初はとんでもない地域に来てしまったと心底思ったけれど、街であまり人を見かけず、観光客も多いであろうショッピングモールまで開館していなかったのはこれが理由だったと分かり安堵したのはとてもよく覚えている。

結果としては、イード・アル・アドハーにカサブランカやフェズを訪問したことは良い面もあったと思う。
まず本来は相当賑わっているはずの両都市の静かな面を観察することができたこと。特に滞在途中に祝祭期間が終了したフェズでは静かな旧市街と、人々で混雑し簡単に道に迷いそうになる「世界一の迷宮都市」に相応しい旧市街という二つの顔を見られたのも貴重な経験だった。
外国の歴史文化に関心を持つ身でありながらこうした宗教的な行事に関する知識すら持ち合わせなかったことは恥じているが、宗教が生活に直結することを肌で感じられた点では良い経験だったと考えている。日本とは全く文化が異なると頭で理解はしていても、実際に見聞きすることでより深い理解に繋がるし、外国を旅行する醍醐味でもあるだろう。

(図4)フェズのルー・タラア・ケビーラ(タラア・ケビーラ通り)

Ⅳ.おわりに

今回はモロッコで体験した祝祭やその様子について主に書いた。モロッコは筆者の中では訪問した数ある国の中でも印象に残った国としてはダントツのナンバーワンである。
今後も書ききれなさった体験などは記述予定なので楽しみにしてもらえれば幸いだ。

ちなみにカサブランカの旅程を全てイード・アル・アドハーに当ててしまった筆者らにできたことは、晴れと曇りを行き来するような空の下のビーチを微妙なテンションで歩いたり、祝祭に関係なく開いていた外資系の某大手バーガーチェーンでバーガーとアイスクリームを楽しみながら少しでもリゾート気分を味わうことだけだった。

(図5)アイン・ディアブ・ビーチ(カサブランカ)
(図6)アイン・ディアブ・ビーチ付近の道

No.1 煙るマグレブに降り立つ 終


【補足】

1.キャプションに書けなかった撮影場所
トプ画:カサブランカのハッサン2世のモスク
(図1)カサブランカの旧市街

2.次回投稿予定記事
アメリカ・ドライヴを計画中。今後も訪問順や時系列でなく、書きやすいもの、できたものからランダムに投稿する予定。

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