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ようこそ、宇宙塾へ!『横断歩道の魔法の粉』


「ママ、なんであのおじさんは、赤信号なのに渡ったの?
おめめが見えないの?」

信号待ちをしていた、私たち親子の横を、
何人もの人々が、赤信号と知って、渡っていった。

「ほら、また!あのお姉さんも渡ったね」

娘は3歳。
とても純粋だ。

大きな声で、見たままのことを言ってしまう。

その女性は、一瞬止まってこちらを睨んだ。

私が悪いわけじゃないのに!と思いつつ、
私は小さく頭を下げた。

早く青になれ、
青になれと、
私は、願った。

ここの横断歩道は赤でも、
ほとんど車が通らない。

そんなことは私も知っている。

私だって、
一人だったら渡っちゃうよ!と思った。

でも今は、娘と一緒。

『赤信号は、止まれで、
青になって、左右の確認をして、
手を挙げて、渡る』と、
正しい交通ルールを教えなければならない。

いま、車がほぼ通らない、この小さな横断歩道で、
信号待ちをしているのは、
左の手で下の子を乗せたベビーカーを持ち、
右の手で娘の手を繋ぐ私たち親子だけ。

だから、
ベビーカーと娘のことを邪魔そうに避けて、
人々は渡っていった。

これではまるで、私たちが悪いみたいだ。

そのとき、
70代ぐらいの男性が、
手をつないでいた娘にぶつかった。

そのはずみで、娘はシマシマの部分に飛び出た。

もし、いま手をつないでいなかったら。
もし、いま車が通ったら。
もし、娘が転んだら。

70代の男性は、舌打ちして
「邪魔だな、危ないだろ!」と言った。

信号無視の自分が、
正しく信号待ちをした娘につまずいたのに。

私はベビーカーを握る手に力が入った。

我慢できない!
言い返してやる!
そう思ったときだった。

娘は、自分が悪かったのだと思い、
「おじちゃん、ごめんなさい」と言った。

信号待ちをしていた時間は、
1分ぐらいだったのかもしれない。

しかし、
今日の私にはそれは何十倍も長く感じた。

「ママ!あお!」

娘と手をつなぎ直し、
ベビーカーを押しながら6歩ほどの横断歩道を渡った。

娘は、何か私に話しかけていたけど、
悔しさと、怒りで、私の耳には何も入ってこなかった。


その夜、私は布団に入り、
今日の横断歩道でのことを思い返していた。

あのとき、私はどうすれば良かったのか。

あんなにイヤな思いをして、幼い娘に危ない思いをさせ、
信号待ちをした私たちは、正しかったのか。

流れに従って、赤でも渡ればよかったのか?

娘は私に聞かなかったけど、
「あなたは悪くない」と、どう伝えればよかったの?


誰か教えて。。。

**********************

「ようこそ、宇宙塾へ!」
jujyaku先生は,教室の前でそう言った。

ここは、宇宙にある宇宙塾。

宇宙では誰もが知り、
どの星も当たり前のように使いこなしている、
『思いやりの方程式』を学ぶことのできる
専門の塾である。

『思いやりの方程式』とは、
512GBのUSBを、
肩掛けのカバンにパンパンに入れたぐらいの
数式からできていて、
この方程式から色々な思想、理論が生まれている。

この方程式の存在を知らない、地球人からすると、
ここで教わることは、
まさかと思うような視点から、物事を解決し、
すべて愛に満ち溢れた内容だという。

多くの偉人もここで
『思いやりの方程式』を学び、
地球のために使ってきたらしい。

「今日は、地球から三浦鈴江さんが、
体験授業で来てくれました。
皆さん仲良くしてくださいね。」と
jujyaku先生は言いった。

私は、名前を呼ばれ、
ここはどこだろうかと、周りを見ると、
見たことのないような生物?
宇宙人?
えっ、誰?
何?

生徒たちが席に座っている。

一人の生徒と目が合った。

私は知っている、彼の名を。
あれは、ケンタウロス。

ケンタウロスは、私を見つめ、
親指を立ててニコリとうなずいた。

なんでだろう。

私は、ずっと前からここを知っていたような
懐かしい気持がしていた。

このビックリするようなシチュエーションを
当たり前のように受け入れていた。

「さあ、授業を始めますよ」
Jujyaku先生が言った。

「今日は、教科書16ページ
『魔法の粉』のところね
読んでもらうよ。さあ、誰にしようかな」

こうなると、
だいだい自分があてられると思う。

しかし、
jujyaku先生は違う人を指した。

「木の芽の妖精さん、読んでください」

みかんの缶詰ぐらいの大きさで、
深緑色をした『木の芽の妖精』は、
「はい」と言うと、
恥ずかしそうに教科書を音読した。


妖精だ!
私は、ずっと見てみたかった妖精を目にし、
さらに、教科書の音読を聴けることが不思議でならなかった。

木の芽の妖精は、教科書を読みだした。

「横断歩道で、
信号を待っている人々の上では、
妖精たちが幸せになる魔法の粉をまいています。
待つのが長ければ長いだけ、
たくさんの粉がふりかかります」

「はい、そこまでで、ありがとう。
そうですね、
横断歩道妖精連合の皆さんが、
赤信号で待つ間だけ、
幸せになる魔法の粉をまいていてくれていますね。

歩道側が青になったら、
今度は信号待ちの車の上に飛んでいき、
またたくさんの魔法の粉をまいています。

つぎの所を、三浦鈴江さん読んでください」
とjujyaku先生が言った。

私だ!
木の芽の妖精さんが読んでくれた内容で、
昨日のことを思い出していた私が指名された。

私は、慌てて、読む場所を探していると、
隣の席のゴーレムが、
「ここだよ」と、教科書を指さしてくれた。

私は、続きを読んだ。

「全宙妖精パウダー研究所の調べでは
(そんな研究所、どこにあるのだろう)、
近年、その粉を受け取りたくないために、
危険をかえりみず、
粉を避けるように赤信号を渡って行く人々が多くみられる。
研究所では、
時代に合わせ粉の成分を変え、
まき方も改善したが、
多くの人間は幸せになる魔法の粉を受け取らないでいる」

私は読みながら、色々言いたいところがあった。

受けとりたくないから、
赤信号を渡ると思われていることにも驚いた。

「はい、ありがとう」と
jujyaku先生は言うと続けて話した。

「もう、
幸せになる魔法の粉はいらないという程、
ハッピーで心が満たされているならいい。

しかし、
あの不機嫌な顔から、
ハッピーを感じ取れなかった妖精たちは困惑したそうです。

妖精たちは、
全宙妖精パウダー研究所にその事実を報告し、
すぐさま、全宙妖精パウダー研究所から捜査員が、
その人々を対象に、
スイスイパンポー(宇宙で使われているハッピー度計測スキャン機器)を
使い、計測をしました。

すると、驚くべきことがわかったそうです!

粉を避け、赤信号を渡って行く者たちと、
粉を受け取りたいから、
信号待ちしている者たちのハッピー度に、
大きな違いが出たそうです!

もう粉などいらないと、
避けていた人々の方が圧倒的に、
ハッピー度が低かったのです」

jujyaku先生のこの話に、
教室は、ざわついた。

ここではハッピーでいることが、
通常の状態なのだ。

そうでないことは、
異常なのだと私は判断した。

手を挙げ、
ラミア(すごい美人だな)が、
早口で言った。

「それでは、
妖精たちは理解できず困ってしまいます。

なぜ、ハッピーが満たされていないのに、
満たそうとしないのですか?

幸せになる魔法の粉で、
ハッピー度を高めたくないということですか?

妖精たちの仕事は、
人間の迷惑になっているのということでしょうか?

私には理解できません。
どうしよう。

jujyaku先生、
私は何から理解していけばよいですか?」

私は、ここで気付いた。

宇宙塾の皆の考え方と、
私たち地球人の考える方や、
視点に大きなズレがあるのだ。

宇宙で、
信号無視がこんなに大きな問題になっているなんて。

とてもじゃないが、ここで
「信号を待つのが面倒くさいだけだと思います」
なんて、言い出せない。

しばらく、ディスカッションが続いた。

もはや、
何に対して論じているのか、
何のことを指している言葉なのか、
人間の私の脳では理解できず、

ただただぼーーっと宇宙の偉大さを感じていた。

途中の会話から、
隣の席に座っているゴーレムの
大好物がマーボー豆腐だということだけは
理解できた!

同じ地球の人と、
これについて一度、
ちゃんと考えてみたいな~と思った。

「横断歩道で、
信号を待っている人々の上では、
妖精たちが幸せになる魔法の粉を、まいています。
待つのが長ければ長いだけ、
たくさんの粉がふりかかります」


これを、伝えたい!

jujyaku先生は言いました。

「みなさん、
まだまだ考えたいと思うので、
これについては宿題にします。

お家の人にも意見を聞いたり、
ゆっくり考えてみて下さい。

先生は、これに関して、
受け取りたいときはたっぷり受け取る。
受け取りたくないのなら、
そのときは受け取らない。
ということでいいかな?と思う。

受け取らない理由を探すより、
いま自分は、
どれだけ幸せでありたいのかで、
粉の量を調整する地球の人々の考えを尊重します。

ただ、地球には車やバイク、自転車があります。

地球の皆さん、
なぜ横断歩道に信号が存在するのかも含めて
考えてください」


「はい!」
声のする方を見ると、私の他にも地球人がいた!

私は、この話を早く娘に伝えたいと思った。

娘に、
なんで赤信号なのに渡る人がいるのかを聞かれたら、
その人たちが正しいかどうかを
ジャッジするのではなく、

信号を待っている私たちには今、
妖精さんが、幸せになれる魔法の粉を
たくさんまいていてくれているのだよ、
たくさん粉を浴びようねって話そう。

ありがとう!宇宙塾!


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