恋人たち
恋人たち(2015年 橋口亮輔監督 出演:篠原篤 成嶋瞳子 三石研等)
あなたはなぜ映画を観ますか?現実逃避?または今何か辛い事があって、乗り越えるヒントが欲しい?映画には色んな楽しみ方があると思います。甘いお菓子のような夢の世界もいいでしょう。ですが、そればかりが映画ではないと思うのです。
今回紹介する映画「恋人たち」はフィクションなのにより濃度の濃い現実をまざまざと見せつけられるような作品です。監督自身がうつ病や、前作「ぐるりのこと」が大ヒットしたにも関わらず、信頼していた人から印税を盗まれるなど辛い経験をしているからか、安易なハッピーエンドはゼロ。現実を乗り越えるヒント?そんなもん自分で考えろと言わんばかりに辛い現実が続いていきます。夫と姑との代わり映えのない生活から逃げ出したいと願う主婦瞳子、叶わぬ片思いに苦悩する弁護士四ノ宮、愛する妻を通り魔に殺された無念が晴らせず苛立つ日々を送る男性アツシの三人の日々。そんな中でも地味だけど救われる場面はあります。
無断欠勤が続いたのを心配した先輩黒田は弁当を持ってアツシの家を訪れます。冷めた弁当をもさもさと食べるうちに本音がぽろぽろこぼれるアツシ。「妻を奪った犯人を殺してしまいたい」と苦しい胸の内を打ち明けたアツシの話を先輩はただ黙って聞き、一言
「殺しちゃだめだよ。そんなことしたら君とこうやって話せないじゃん。俺はあなたともっと話したいと思うよ」
と優しく諭します。アツシは嗚咽しながら弁当をかきこみます。絶望のままならアツシは弁当に手をつけずに怒りをぶつけたままだったはずですが、痛みにもがきながらも食べるという行為に闇の中で少し見えた光のような温かさを感じさせる素晴らしいシーンです。現代に即した新しい希望の表現に試みた力作と言えるでしょう。観るのにエネルギーはいりますが、お勧めしたい作品です。
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