もみじちゃんとももぜりい

 二日連続のエッセイです。

 エッセイと呼んでいいほどの代物なのかわかりませんが、「折にふれて思うこと。また、それらを書きまとめた文章。」(コトバンク)ではありますからご了承を。

 とても久しぶりのことが二つ一緒におきました。

 本を一冊読みきりました。課題で出た本でもなく、誰かのために「読まなきゃいけない」本でもなくて、ただ純粋に自分が読みたいと思う本を。私は徹底的なサボり症と、徹底的な自尊心があるのでやれと言われたことは完璧にしようとするのに、自分から何かを完遂しようと思うことがとても少ないのです。(本なんか読みきったって、誰にも褒められないでしょう?)

 だけど、どうしてか本当に本当に、最後の一ページまでその小説を手放すことはできなかった。時間なんて全くないのに、もう早く家のことを済ませて出かけなくちゃいけないのに、「読んでしまった」のです。これは本当に久しぶりのことです。中学生の恋みたいな。

 二つ目。
 こういう書き方は論文かテストみたいで嫌ですね、ええと、そうだな、つぎ。

サボろうと決心して学校をサボりました。目が覚めているのに。「あたまいたあい」と決死の覚悟で家族に嘘をついて、家で一人でNHKの教育テレビを見ていたことを思い出しました。ええ、そうです、学校をサボって一冊本を読み切ったのです。ああ、行きたくないなあって。誰も家にはいやしないのに、「あたまいたあい」と私は何回も心の中で唱えました。「あたまいたあい」人は学校に行かなくてもいいのです。

 家族が全員いなくなった後の家は、ふんわりコーヒーの匂いがして子供の私は牛乳などを飲みながら「あたまいたあい」私に母が買ってきてくれた「ももぜりい」を食べて、テレビをつけます。夏休みにしか見れなかった、午前中のテレビは私にとっても魅力的に見えたものです。

 ベッドから起きて、自分でコーヒーを淹れて、「あたまいたあい」と思いながら(本当に二日酔いで頭が痛かったりもするんですけど)、「ももぜりい」をコンビニに行って買って、ああ、「にいと」だなあ、と思って(昔も思いました。優等生だったので学校をサボるのはとても勇気のいることでした)、本を一冊最後まで読みきったんです。その時の感動。ああ、私ってば、まだ好きな小説っていうのがあって、まだそれを最後まで読めるんだなあって、感動しました。

 そう、それで。
 ちょっとだけ別の話。おんなじ話なんだけど、別の話。

 三歳くらいの女の子が道で転んじゃったんです、私の目の前で。だから手を出して、大丈夫? って聞いたら、その子、どうしたと思いますか。

 大丈夫って、涙をこらえながら、でも、手を借りずに一人で立って、ありがとうって言ったんです。私の方がうるっときちゃって、偉いねえ、偉いねえ、ってお母さんの方とその子と交互に見てたんですけど、その子、もみじちゃんっていうらしいんですけれど、もみじちゃん、「お兄さんも、もみじのこと助けてくれてありがとう、偉いねえ」って言ったんです。

 子供だって、大人だって、もっと褒められていいんです。一冊本を読める私、偉い偉い、学校に行っている私、偉い偉い、死なないで生きているみんな、偉い偉い、badを探すより、どうやってgoodボタンを押せるかを探したいと思った次第でした。

 ええ。久しぶりのいいこと、でした。
 でした。

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