勉強だけしてればいいなんて、そんな幸せなことはない
これは中学受験に向かっていた小学生の僕に向かって、父が言った言葉です。
僕を懐かしむことにする、と前の記事に書きました。僕を懐かしむ時、やはり小学生時代の僕、中学生時代の僕のことに還っていきます。
小学生の僕は、その小さな町ではちょっとした有名人でした。それは、昭和50年当時、京都で中学受験の模擬試験としては唯一といってよかった京洛社という会社の試験で、ほぼ毎回のように1位を刻んでいたからでした。
その当時は、成績優秀者が返却資料に学校名とともに載せられていたので(今では考えられませんが)、田舎の小学校名が京都市内の名だたる名門校を抑えて堂々とトップに君臨するという異例の事態が生じたわけです。すると、こいつは一体だれだ、という話になる。その後、第1志望の京都市内の私立中学に進学した時、何人もから「おまえやったんか」と言われ、実は市内では結構な話題になっていたということを知りました。
こんなことを書くと、それこそ今や「二月の勝者」などというドラマになるくらいの熾烈な中学受験戦線を戦っている小学生やその親御さんに刺されそうですが、当の本人はなんで自分が1番になるのか皆目わからない、という感じでした。5年生から母親に連れていかれた地元の進学塾(これも田舎の塾なので、無名の小さなものでした)に通ってはいましたが、宿題をやっていくくらい。模擬試験の前には、受験研究者の「要点」(ポケットに入るくらいの参考書)をざっと見返すくらい、といった勉強ぶりでしたから。
それでも、受験勉強をしている、というプレッシャーはやはりありました。それ故にいやだなあ、と思うことも多かった。でも、不思議とやめたいとは言わなかったですね。やっぱり、田舎をでて京都市内に通う、ということへの憧れがあったんでしょう。
そんな僕に、父は、もっと勉強しろ、というようなことは言わなかったです。時折わからない算数の問題を一緒に考えてくれたりしました。そんな時、父は結構楽しそうでした。そんなある日のことです。いくつもの分からない問題に手こずった僕は、きっと不服そうな顔をしていたんでしょう。父は、苦笑しながら僕にこう言いました。
「勉強、したくないんか?」
できることなら、あんまりしたくない、と言う僕に、父が言ったのが、タイトルにある言葉でした。
「大人になったら、勉強だけやってたらいいわけやないねんで。勉強だけで、1番になれて、みんなに褒めてもらえて、こんないいことないやんか、なあ?」
小学生の僕は、それになんて答えたんだろう?なんて口答えしたんだろう?「お父さん、その通りです」、なんて言うわけはないですよね。結局、僕の記憶の中には、父の言葉だけが残っています。その時の父の曖昧な笑顔とともに。
今、父の気持ちが痛いくらいわかります。大人になって、1番になろうなんて思ったら、勉強なんて・・・勉強どころの話では・・・。
小学生の僕に今会うことができたなら、僕はなんて言うだろう。やっぱり、父と同じことを言うような気がします。
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