チョコレートの話

バレンタインが来週に迫ってきている事もあり、コンビニやスーパーではチョコレートの特設コーナーが至るところで展開されている。

僕はモテないのでバレンタインとは無縁の人生であるが、普通にチョコレートは好きである。赤い箱のガーナミルクチョコレートを好んでる食べている。

そんなガーナミルクチョコレートを見ると、僕はいつも数年前に亡くなったばあちゃんがしてくれた話を思い出す。

僕のばあちゃんは戦争を経験している世代。

ばあちゃんがまだ小学生の頃、ある時期を境に大好きな兄がぱったりと家にいなくなった。

母親に聞いても父親に聞いても『あんちゃんは仕事を初めて忙しいからしばらく帰って来れん』と言ったきり何も言わない。 

そう言った後の両親の何とも言えない悲しい顔が忘れられないと話してくれた。

そんな、戦争が日に日に激しくなる中、急に兄が家に帰って来た。

父親は久しぶりの再会にもかかわらず、全く嬉しそうではなく、全く兄と話そうとはしない。

母親は兄の好きなご馳走をこれでもかというくらい用意している。

小さいきょうだいは代わる代わる兄に甘える。

兄はずっと笑顔だったらしい。

夜は親戚も交えての宴会があった。

ずっと下を向いている両親とずっと笑顔の兄。

そんな光景がばあちゃんは異様だったと話す。

翌日。

ばあちゃんは学校に行く支度をし、学校に向かおうとすると変わらず笑顔の兄が話しかけてくる。

兄『学校に行くとや?』

祖母『うん、あんちゃん、行ってくるわ』

兄『そうか。ちょっと待っちょけ』
そう言うと兄が服を着替えてくる。
兄『学校まで送っていっちゃるわ』

祖母『一人でも大丈夫て。あんちゃんも昨日帰って来てたばっかりやかいゆっくりしちょきない』

兄『いいて。送っちゃる。』

半ば強引な兄に根負けし、ばあちゃんは兄と手を繋いで、学校まで歩く。

やがて学校近くになると、急に兄が立ち止まった。

兄『そうや。これ、お前一人で食え』

兄はポケットから四角いものを取り出す。

チョコレートだった。

兄『お前、きょうだいが下ばっかりやから色々我慢しちょるやろ?やから、これはお前が一人で食え』
笑顔の兄の目尻に涙があった。

祖母『ありがとう、あんちゃん、そしたら行ってくるわ!!帰ったらおはじきで遊んで。』

兄『分かった。帰ったら、遊ぼう!学校頑張れよ!!お前は優しいからたまには我慢せんでしたいことしろよ』

兄は笑顔のまま、学校に消えていくばあちゃんの姿をずっと見ていたという。

ばあちゃんが兄を見た最後だった。

数ヶ月後、兄は戦地で命を落とす。

僕は長男で、下に妹と弟がいる。

両親が妹や弟の子育てで大変な時期、凄く寂しかったんだけど、言えないし、我慢していた。

そんな時、ばあちゃんが僕にチョコレートをくれた。

『一人で食えよ』
ばあちゃんは言った。

結局、妹にも弟にも分けた。

ばあちゃんもそうしたんだろ(笑)

中々コロナで墓参りが出来ないが、落ち着いたら仏壇にチョコレートを供えよう。

ばあちゃんとばあちゃんの兄ちゃんが2人で分け合えるように、敢えて一箱。

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