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お母さん 私、指を切るの?

私が小学4年生の時の話。

私は学校終わりは、祖父母の家で、母の仕事の帰りを待つのが日課だった。

その日は 母が残業で、祖父母の家で夕飯をたべた。

夕飯を食べ終わり 暇になり 祖父の、作業場にこっそりしのびこんだ。

私はひと通り作業場の物を物色して なんとなく置かれていた モンキーレンチを手に取った。
それは  小さいレンチだった。

レンチの輪っかに指を突っ込んだり 外したり 回したり、
なんとなく 暇を持て余して 手遊びしていた。

好きなアニメが始まったので

指をレンチの穴にいれたまま放置して アニメを鑑賞した。

アニメを見終わって そろそろ 母が返ってくるから 支度をしておこうと レンチを指から抜こうとしたら

抜けなくなっていた。

どんなに引っ張ってもびくともしない。 

指の付け根が 太くなっていて レンチの穴の隙間がなくなっていた。

(やばい)

焦って 渾身の力で引っ張るが 痛いだけで抜ける気配がまったくなかった。

(やばい こわい)

気がつけば 穴のから見える 指の付け根が紫色になっている。

「あばあちゃん・・」

怒られるのが怖くておびえながら

祖母に助けをもとめようとしたら

「ただいま〜!」

タイミング悪く母が帰ってきた。

私は 潔く 母に 事の顛末を打ち明けた。

「はぁ?バカだね なにやってるの!」

怒りながらも 母は ひっぱたり回したりしてレンチを引き抜こうとする

大人に頼めばなんとかなると思っていたが

実際は状況変わらず、

むしろ指がどんどん うっ血し 太くなっていく。

母親は 指に石鹸をつけて滑らせようとしたり

糸を指に巻きつけてとろうとしたが

やはり効果はない。

時間だけが 刻一刻とすぎていく

指はどんどん腫れ 太くなっていく。

「これはダメだ」  母親が根を挙げる。

祖母は「早く医者に連れいって」と心配そうに覗き込む。

時刻はすでに20時 町医者はしまっている。

母親が 祖父に相談。

祖父と祖母、母の3人は 真剣な顔で話し合いを始める

「壊死しちゃこまる」「急げ」「切ってもらえ」

3人の会話が 途切れ途切れ 聞こえてくる。

壊死って何?

切るって 指を切るの・・・?

小学校4年生のわたしはパニックで 泣いていた。

夜21時位になっていただろうか、

祖父は知り合いの 時計屋さんに連絡をいれ、

母と私は急いでその時計屋さんへ向かった。

母に「なんで 時計屋さんに行くの?」と尋ねると

「切ってもらうんだよ」と 母は怒っているような声で言った。

母の声に 私は とんでもない迷惑をかけているんだと感じて  何も言えなくなった。

内心 (まさか指を切るの?)と不安だったが 車の中では考えないように目を瞑っていた。

 私たちが店につくと 時計屋の店主のおじいさんは 店のシャッターを上げ、店に入れてくれた。

母は 「申しわけありません」と平謝り。

おじいさんは 私の指と指にくっついたレンチを見て

「切ってみるか」と言った。

おじいさんの言葉に

私の目から 涙が つーっとこぼれた。

「指 切るんですか・・・?」

「え? 指は切らんよ。レンチを切ってみるからね。 」

(そうだよね。 指は切らないよね)

 もしかして 指を切られるとかもしかないと不安だった。

おじいさんから、指歯切らないと聞いて
 一気に安心して 涙は乾いた。

私は椅子に座らされた。 私とおじいさんの目の前には 電動糸ノコが置かれていた。

おそらく時計や 貴金属を削るためのものだと思う。

おじいさんは 糸ノコにレンチを当てていく。

夜の 静まり返った 時計店に

ギュイイイィィィ・・・ン
 
金属の擦れる音が 鳴り響く

私は 糸ノコの刃が 指にあたったらどうしようと 怖くて 下を向いていた。

どのくらい時間が たっただろうか、 

割と短い時間だった気もする。

おじさんは レンチの輪の部分に 2箇所切り込みを入れ 円周の一変を取り除いた。

「取れたで」

おじいさんの額には 汗が吹き出していてた。

レンチの輪と指の間に隙間ができ 一気に指に血が回っていくのが分かった。

レンチは 指からスルッとはずれた。

レンチがハマっていた指の付け根は ヒリヒリした。

「ありがとうございました。」
母が 深々頭を下げる。慌てて私も 頭を下げる。

母は時計店のショーケースにあった ピアスを購入した。

ゴールドのフックピアスで 虹色にキラキラする小さな石がついてるピアス。

帰りの車。

いつもならすっかり寝ている時間だ。

車も殆ど走らない 夜の田舎道。

私は 指が無事で安心した気持ちより 
自分の不注意でいつも家族に迷惑をかけてしまう自分が やるせなくて  泣きそうになった。

「お母さん。私のせいでピアス買った?」

私が聞くと

「そうやね〜。でも 可愛いピアスだから欲しくなったんだよ。」

といった。 

母は行き道のような 怖い顔ではなかった。

母は 指のことについて 怒ってこなかった。

30年たった現在、実家に帰ると あのピアスは 母のジュエリーケースにはいってる。

私は,あのときピアスを買った日の母より 年をとってしまった。

「お母さん このピアス・・・」

「あぁ。 あんたが 時計屋さんで指外してもらったときのだね。」

「気にってる?」

「うん。大事だよ。」

母だって、 親(祖父母)から 子供の指が壊死するなんて 言われれ 
心配だったはず。
私は 当時 自分のことで精一杯だったけど
母も きっと精一杯だったんだ。

お母さん ありがとね。
迷惑かけました。

指 無事で良かったよ。


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