第38回地域づくり団体全国研修交流会 長崎大会 参加レポート
「地域づくり団体全国研修交流会」は、地域づくり団体関係者への全国レベルの研修や相互の情報交換の場となることを目的に、毎年開催されているイベントです。
第38回を数える今年の開催地は「長崎県」。
異国文化を受け入れながら発展してきた「開国の地」の地域づくりはどのようなものなのか?新型コロナによる2年間の延期を乗り越えて、盛大に開催された研修交流会の様子をレポートします。
地域づくりの夜明けは長崎から。
まずは長崎県を簡単にご紹介。
長崎県は、九州地方の西北部に位置し、人口約128万人(R4.10現在)、47都道府県の中で最も島が多いことで知られています。古くより海外との交流拠点として栄えてきた地域で、「開国の地」の名の通り、2018年に世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」や「軍艦島」(端島炭鉱)など、多彩な歴史遺産が点在しています。
全体会の会場となった長崎市では、今年9月に九州新幹線の西九州ルート(長崎~武雄温泉)が開業、長崎駅前はかつてないほどの大規模開発が進行中と、「100年に一度」と言われる変革期を迎えている地域でもあります。
地域づくりはCommunity Building
さて、長崎居留地男性合唱団の力強い合唱による歓迎セレモニーからはじまった全体交流会。東は青森、西は沖縄より集いし地域づくり関係者が、思い思いに交流を行いました。
「地域づくり」の英訳はCommunity Buildingと言うそうですが、活動する地域に関係なく闊達な意見交換が行われる場は、「地域づくり」そのものだったかもしれません。
翌日、離島含む県内13カ所で実施される分科会に分かれて、研修交流会が本格スタート。
筆者は、島原半島南部に位置する南島原市に訪問。有馬キリシタン関連遺産の視察や、名産品のそうめん生産工場の視察、町ぐるみで取り組んでいる民泊体験などに参加してきました。
地域の宝でまちづくり、長崎県南島原市
南島原市は、女優の満島ひかりさんを起用した“尖りきった”プロモーションビデオが話題となった地域です。(動画はR4.11時点で92万回再生)
2006年に8町が合併して誕生した比較的新しい自治体で、人口は約4.3万人(R4.3月末現在)ほど。雲仙山麓から広がる肥沃な土壌を有し、農業を中心とした1次産業が盛んな地域で、名産品の「島原そうめん」は全国第2位の出荷額なんだとか。
天草四郎率いるキリシタン農民が蜂起した「島原・天草一揆」の舞台として、世界遺産登録されている「原城跡」をはじめ、国内におけるキリスト教の歴史を感じることのできる遺産も数多く残っています。
約40年の歳月をかけて制作された、世界最大級の木彫り彫刻
分科会が最初に訪れたのは、現在建設中の「原城の聖マリア観音」。
神奈川県在住の彫刻家 親松 英治氏が、「島原・天草一揆」で亡くなられた約3万7千人の住民の慰霊を目的に約40年間の歳月をかけて製作したもので、高さ約10mもある世界最大級の木彫り彫刻です(2022年11月6日時点で未完成)。
訪問時、まさかの親松さんご本人が、完成目前のマリア観音の足下に名前を刻印する作業をされていました。親松さんはおよそ40年、ほぼ毎日本業の彫刻制作に8時間、その後マリア像の制作に8時間(合計16時間!)かけていたそう。巨大なマリア像から放たれる圧倒的な存在感と、40年という歳月の重さに息をのみます。
この「原城の聖マリア観音」、南島原市に設置されるまでの道のりは、市民の存在なしには語れません。
もともとは行政主導で南島原市内への設置が進んでいたそうですが、政教分離原則に反するとの反対の声から計画は頓挫。その後紆余曲折ありつつも、南島原市民有志が設立した「南島原世界遺産市民の会」が中心となって、行政に頼らず地域ぐるみで受け入れ態勢を整えました。
マリア像の移設・設置費用は、一般からの寄付で確保。約4200万円もの寄付が集まったそうです(現在も寄付は募集中)。マリア像が設置されている土地も、PJに賛同した市民の方が無償で提供したものだそう。
親松氏の強い想い、そこに賛同した市民の熱意が重なり誕生する新たな地域のシンボル「原城の聖マリア観音」。島原・天草一揆の舞台となった原城跡を望む高台に設置され、まもなく完成予定とのこと。
この取り組みの中に、地域づくりの神髄を見た気がしました。
その後も、日本におけるキリスト教の歴史を学べる「有馬キリシタン遺産記念館」、全国第2位の生産量を誇る「島原そうめん」のそうめん引き体験、伝統的な製法を守る酒蔵など、充実の視察を行いました。
そして最後に、南島原市が地域ぐるみで進めている民泊宿に宿泊しました。
市内に150以上の民泊受入れ家庭
現在南島原市には、約150もの民泊受け入れ家庭があるそうです。
もともと宿泊施設が少ない地域だったそうですが、市民有志が結成した民泊推進を目的としたNPOの動きに行政が呼応。地道に民泊受け入れの輪を広げていき、開始時(2009年)の30名から、2019年には年間1万人を受け入れるまでに成長しました。(現在はコロナ禍の影響で受け入れを中止している家庭も多いそう)
メインターゲットは修学旅行による学校単位の受け入れですが、台湾や韓国、中国などのインバウンドも積極的に受け入れているそうです。
離村式で涙する学生が続出?
南島原市の民泊体験の一般的な流れは以下の通り。
●1日目午後
入村式
宿泊する民泊先へ移動
農林漁業体験
※各家庭ごとに季節に応じた体験。漁業が人気だそう。
夕飯づくり・入浴・団らん
●2日目午前
地域散策・朝食づくり
離村式(民泊先とお別れ)
分科会にて上映されたプロモーションムービーでは、民泊体験を行った中学生が離村式で号泣する様子が。
「そんなことあるの?」
と疑り深い筆者でしたが、今回受け入れていただいた家庭では、これでもかというほどのおもてなしを受け、会って数時間で「お父さん」「お母さん」と呼びたくなるまでに。時間を忘れて夜なべ談義に勤しんだのでした。
南島原市の民泊事業は、市や観光協会などのパブリックセクターが支援制度を用意し、地道に地域を回って受け入れ家庭を発掘してきたそうです。
市民からはじまった動きを行政がエンパワーし、まちぐるみで取り組みが加速する。官民が連携した良い事例だと感じました。
とはいえ、縁もゆかりもない人を自宅に受け入れる民泊事業、語弊を恐れずに言えば、「人たらし」でないとできないですよね。
「開国の地」という長崎の風土、よそ者を拒まない空気こそが、地域ぐるみの民泊事業を支えているのかもしれません。
来年は島根県で開催予定!
世界からみれば小さな島国の日本ですが、国内には驚くほど多様な地域があります。地域ごとに、多様な人が生き、多様なコミュニティがある。
地元の課題を解決する答えが先進地にあるわけではないですが、その多様性をこの目で覗いてみるだけで、新しいアイデアや行動のキッカケが生まれるかもしれません。
来年は島根県を舞台に開催予定。ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。
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