見出し画像

読書 前 感想文『山椒魚』

山椒魚は悲しんだ。

以前読んだことがあるはずだが、すっかりあらすじを忘れてしまった。井伏鱒二の『山椒魚』。改めて読み直す前に、山椒魚がなぜ悲しんだのか考えてみるのも面白い。それにはまず、山椒魚がどんな生き物なのか、大まかな特徴を調べた方が良さそうだ。

〈検索〉山椒魚 特徴

・両生類

・一般的に名前が知られているのはオオサンショウウオ

・平均寿命:80年(野生)、55年(飼育下)

・乾燥に弱く、水辺に近いところでしか生きていけない

・外敵に襲われると、白い毒性の粘液を皮膚から出す

ささっと調べた限り、このような特徴があるようだ(魚じゃないんだ、知ってたけど)。まあ、なんとなく「悲しんだ」に結びつきそうな特徴が多いようにも思える。例えば、成長期の人間が自分の身体について悩むように、成長期の山椒魚も「お前まだエラ呼吸なのかよ」的な嫌がらせに悩んだりするかもしれない。乾燥に弱いことがノーマルなら、乾燥に強く水辺を離れることができる山椒魚はどんな扱いを受けるのだろうか?幼い頃は友達に羨ましがられて、自分が神であるかのように思い内陸の様子を得意げに喋りまくるが、サンショウTVや週刊サンショウに追い回されてプライベートがなくなり、友達が離れていき孤独の道を歩むことになるかもしれない。

ここまでは山椒魚同士のトラブルだが、もっとグローバルな視点で山椒魚がなぜ「悲しんだ」のか考えてみることにする。ここにきて、一番やばそうな「外敵に襲われると白い毒性の粘液を皮膚から出す」という特徴が登場する。

ある夏のこと、僕はアマガエルちゃんとデートの約束をした。彼女が見たいと言っていた映画『ガマと水辺の女王』を見に行く予定だ。以前僕が交際していた女の子も、アマガエルだった。僕は異種の女の子に惹かれやすい。以前交際していたアマガエルの子に、「なんでアマガエルより山椒魚がいいの?」と聞いたところ、「私より小さい男の子に興味ないの、アマガエルはメスよりオスの方が小さいから」と言われたので、アマガエルに対して少し自信がある(そんな自分の卑しさが嫌いだ)。待ち合わせ場所は小さな池の前。この辺は年中湿気が強いため、多種多様な両生類が集まり、賑わっている。「お待たせ、待った?」アマガエルちゃんが来た。初めて会ったのは2週間前で、夜中だったから、今日のアマガエルちゃんは前回よりも色艶やかに見える。二人で映画を楽しんだ後、近くにある知り合いのお店でご飯を食べることになった。二人で会うのは初めてだったため多少不安はあったが、アマガエルちゃんは今のところ楽しんでくれているようだ。お店に着くと知り合いは外出していたが、アルバイトの子が対応してくれた。映画の余韻に浸り、感傷的な表情も見せていたが、アマガエルちゃんは思っていた以上に明るくてノリの良い子だった。嫌な感じのしないポップなボディータッチに好感を抱いたが、一見少なそうだが実際は結構量のあるスパゲッティを食べている最中に事件は起きた。にこにこしたアマガエルちゃんがゆっくりと立ち上がり、僕の頬に軽く触れた。「何かついてた?」ニヤニヤしながらアマガエルちゃんの指先を見て、思わず全身に震えが走った。「何これ?」不思議そうな顔で指先を見つめるアマガエルちゃんだったが、僕が声にならない声で説明しようとした時には、「痛い!」と声をあげて苦しみ出した。その後僕はすぐさま救急車を呼んで、アマガエルちゃんは一命を取り留めた。一時は意識を失っていたそうだが、治療が行われた2日後、意識を取り戻したと連絡があった。すぐさまお見舞いに行き、精一杯謝罪した。アマガエルちゃんは少し弱々しく笑みを浮かべながらも、すぐに許してくれた。お見舞いの帰り道、アマガエルちゃんの顔を見て思い出した、ある疑問について考えていた。それは、なぜあの時、外敵に遭遇したわけでもないのに『毒性の粘液』が出たのかということだ。僕は無意識にアマガエルちゃんに敵意を抱いていたのだろうか。アマガエルちゃんがさっき僕に見せた笑みを思い出す。あの静かな笑顔は、病弱さ以外の何かを内包していたように思えてならなかった。

山椒魚は悲しんだ。

いやー、『山椒魚』、切ないお話でしたね(井伏さんごめんなさい)。

最後のお話が自分の中で最有力な『山椒魚』です(全体的に擬人化が雑)。

さっさと本物読みます。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?