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去年の3月

空っぽになった同じアパートの一室をなんとはなしに通り過ぎて初めて、ああここには4年生が住んでいたんだなあと気づく。外では、廃品を集める割れた声が学生アパートの谷間に響き渡っている。空は青く、陽は暖かく、この街にもいつも通りような顔をした春がやってくる。多くのひとをずたずたに傷つけた一年が過ぎ去って、訪れた季節はあまりにもおだやかだ。 こんな最後の1年を過ごして卒業していく先輩たちをなんとかして送り出したくて、サークルのメンバーがおよそ1年ぶりにリアルで集まった。といっても弱

    • 今でも彼女はいい友達で、

      今思えば、友達に好きな人を打ち明けたことなんてない人生だったな、と思い返す。 たった一クラスだけの学年で6年間を過ごした小学校時代は、恋愛とかを考えるにはあまりに人間関係が煮詰まりすぎていたし、中学校はお世辞にも頭がいいとも落ち着いているとも言えない学校だった。私にとって学校は少しでも弱みを見せたら簡単に突き落とされてめった刺しにされる戦場であり、恋愛感情というのはそこでは最大の「弱み」のひとつだった。 「誰が誰を好きなんだって」「誰が誰に告白した」という情報は知られると

      • 「罪の声」を観て思ったこと。

        悪の親玉を倒したので世界は平和になりました、なんて御託が通用するはずもないダーティーな世界に私たちは生きている。今の加害者はかつての被害者で、そこには踏みにじられた過去を持つ。そうやって社会からの暴力に踏みにじられた人が奮い立って、その暴力にまた誰かが傷ついて、っていうのが今の社会であり、「罪の声」での世界だ。 ていうか今のご時世、絶対的に被害者の立場に立ち続けられることなんかあり得なくて、そりゃあ被害者でいるのはある意味楽だけど、黄色人種として差別される日本人だって、この

        • 通りすがりのポップカルチャーに命を救われた話

           小説が好きだ。音楽が好きだ。ドラマがバラエティがラジオがお笑いが映画が漫画がアニメがアイドルが好きだ。総じて、誰かがつくる嘘がたまらなく好きだ。追っかけているのが最高に楽しいからと言ってしまえばそれまでだけれど、自己紹介代わりに、自分が彼らを追いかけるようになったきっかけを話せればと思う。  図書館生れ書店育ち、胎教はミスチルとオザケン面白い本は大体友達という幼少期を経て小学生で無事活字中毒者になった私は、吹奏楽部で楽器を吹きまくるどこに出しても恥ずかしい文化系へと順当に

        去年の3月