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去年の3月

空っぽになった同じアパートの一室をなんとはなしに通り過ぎて初めて、ああここには4年生が住んでいたんだなあと気づく。外では、廃品を集める割れた声が学生アパートの谷間に響き渡っている。空は青く、陽は暖かく、この街にもいつも通りような顔をした春がやってくる。多くのひとをずたずたに傷つけた一年が過ぎ去って、訪れた季節はあまりにもおだやかだ。

こんな最後の1年を過ごして卒業していく先輩たちをなんとかして送り出したくて、サークルのメンバーがおよそ1年ぶりにリアルで集まった。といっても弱小サークルなので人数も多いとは言えないくらいだったけど。

酒をしこたま買い込み、持ち込み可のカラオケ店へ急いだ。ほろよいの頬を春の冷たい夜がつつむ。夜道を歩いてきた私たちはどこか浮足立っていて、いかにもやる気のなさそうな店員にははた迷惑な客だっただろう。


入った部屋で、みんな闇雲にデンモクに曲を入れた。すぐに予約の曲は10曲を超えた。誰が入れた曲かなんてお構いなしに、みんなで声を張り上げた。普段はおだやかな先輩も、すぐネタに走る先輩も、みんな子どものようなぴかぴかの顔をしてマイクも持たずに熱唱していた。


ほら、あなたにとって大事な人ほどすぐそばにいるの

大好きだ 大好きなんだ それ以上の言葉をもっと上手に届けたいけど

恋をしたのあなたの 指の混ざり 頬の香り


これっきり地元に帰る先輩もいる。日本を飛び回る職に就く先輩もいる。一時同じ場所で交わった線は、またそれぞれの方へ伸びていく。もしかしたらこれが最後かもしれない、なんてセンチメンタルな感情は、誰かが入れた余りにも馬鹿馬鹿しい合いの手に吹き飛んだ。安っぽいカラオケルームは今にも泣きだしそうで、だけど笑い死んでしまいそうな熱を帯びて、それを誤魔化すようにみんな馬鹿みたいにはしゃいだ。


2年後の私はまっさらになった部屋を見てどう思うだろう。4年間をともにしたにしてはあまりにもそっけなくて笑ってしまうかもしれない。毎年3000人の人がやってきては去っていく代謝の激しいこの街に、今年もまた春がやってくる。

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